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イノシシ!? リリーさん  作者: カワラヒワ
4/16

ノボル 3

 市場までの道のり、二人は話しながら歩いた。

 リリーの父親のこと、畑のこと、毎日の生活のことなど。

 ノボルはリリーの話しを楽しそうにきいて、時々そうなんだ、とかへえ~とか感心するように相づちを打った。

 しかし、自分の話しはほとんどしなかった。


 ノボルについて分かったことは、小さな村で両親と妹と暮らしていて、近くに親戚も住んでいるというぐらいの、大まかなことだけだった。

 それでも、楽しくおしゃべりをし、自転車を押して一時間半、やっと市場は着いた。

「こんにちは。リリーさん」

 店の人が声をかける。

「あら、今日は彼氏と一緒なのね」

「エヘヘヘヘ」

 リリーは顔を赤らめて笑う。


 ナイロン袋に商品を入れ、値札をつけ店頭に並べる。

 後は店の人に任せて、二人は店を出た。

 喫茶店に行こうと道を歩いていると、

「やあ、リリーさん、彼氏かい?」

 と、何人かの顔見知りの人たちが、笑って声をかけてきた。

 リリーはそのたび、ヘヘヘッ、と照れて笑った。

 本当に彼氏に見えるのかしら。不釣り合いじゃないかな。でも、からかわれるのも悪くない。だって、ノボルさんはイケメンだもの。背が高くて、スマートだわ。笑顔もすてき  


リリーはからかわれるのを誇らしく思った。

 喫茶店でも注文を取りに来た女の子がノボルを見て、どぎまぎしているのがわかったし、他の店員たちもノボルのことが気になっているようだった。

リリーはメロンソーダを飲むノボルの顔をうっとりと眺めた。

 やっぱり、ノボルさんは誰が見ても素敵なんだ。リリーは思った。

 リリーの視線を感じて、ノボルが顔を上げた。何?という顔をしている。

「なんでもない」

 リリーは焦って、首を振った。

 フフフッ、と優しく笑うノボル。

 私たち恋人同士に見えるといいなあ。リリーは思った。

「この席ちょっと、暑いですね」

 眩しそうに窓の方を向くノボルの横顔に、日の光が射していた。

 

 昼も大分過ぎた頃、リリーとノボルはリリーの行きつけのうどん屋へ行った。

「こんにちは」

 のれんをくぐってリリーが言った。

「いらっしゃい」

 いつものように、ミキが迎えてくれる。

 ミキはリリーがただ一人、心を許せる友人だ。

 リリーが父に拾われて、少し経ったころから、父はここのうどん屋に、まだ幼いリリーをよく連れてきた。

 うどん屋の店主にはリリーと同じくらいの年の娘がいて、それがミキだった。

 父は父以外の人間を怖がるリリーを、なんとかしなければならない、とかんがえたのだろう。友達を作ってやりたいと考えてのだと思う。

 ミキとリリーが仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。

 ミキは幼いころから優しく、思いやりがある子で、何も知らないリリーにいろんなことを教えてくれた。

 本を読むことを教えてくれたのも、ミキだったし、恋愛についても教えてくれたのもミキだった。

 学校にも行かないで、友達もいないリリーにとってミキは、唯一の友達で先生だった。

 大人になってからも友情は変わらなかった。

 リリーの父が死んだ時も、リリーが一人ぼっちで寂しい時も、リリーが困った時はいつでも力になってくれた。


「あらっ、今日はお連れがあるの?」

 目を大きくしてミキが言った。

 リリーが誰かと一緒にここに来るなんてことは初めてだった。

「うん」

 恥ずかしそうにリリーがうなずく。

「ノボルさんていうのよ。畑を手伝ってくれたの。こちらはミキちゃん。友達なの」

 リリーが手でミキを示した。

「こんにちは」

 爽やかな笑顔でノボルが言った。

「こんにちは。いらっしゃいませ」

 ミキがもう一度言って、にこやかに笑う。

「どうぞ、お好きな席へ」

 ミキは他の人のようにリリーをからかったりしない。ミキはいつも余計なことを言わない。そうゆうところが、リリーがミキを好きなところで、信用もするところだ。

「ご注文は?」

 水を持ってきたミキが言った。

「あたしはいつものきつねうどん。ノボルさんは親子丼定食」

「わかりました」

 笑顔でうなずいたミキが下がって行った。

 いつもなら、注文を入れた後、ちょっと休憩しようと言ってリリーの前に座って、リリーに付き合ってくれる。だけど、今回はさすがに遠慮したようだ。

 それでも、やっぱり気になるようで、厨房ののれんのすきまから、チラチラとこちらを見ている。

 リリーが手を振ると、ミキも手を振って答える。

「幼馴染みなの。すごくいい人よ。いつも、あたしを助けてくれるの」

「そうなんですか」

 感心したようにノボルがうなずく。ミキの方に顔を向けて、もう一度頭を下げる。

 ミキも同じように頭を下げた。

「おまちどうさま」

 ミキがきつねうどんと、親子丼定食を運んでくれた。

「ありがとう」

 ハフハフと二人はおいしく、それらを食べた。

「また、お待ちしております」

 店を出る時、ミキがニッコリ笑って二人に向かって言った。


 ブラブラと散歩などして時間をつぶした後、リリーとノボルは市場へ戻った。

「リリーさん、今日はもう全部売れたわよ」

店の人が自分のことのように、うれしそうに言った。

「ええっ!もう? あんなにたくさんあったのに」

「彼氏のおかげじゃない?」

「そうかも」

 リリーは店の人と一緒に笑った。ちらっとノボルの顔を見ると、ノボルもうれしそうに笑っていた。

 売上を清算してもらい、店を出る。

「いろいろ買いたいものがあるから、付き合ってもらえないかな。できれば買ったものをまた家まで運んでもらえると、すごく、助かるんだけど」

 遠慮がちにリリーが言う。

「はい、お付き合いさせていただきます。朝ごはんもジュースも、お昼もたくさんごちそうになって。いくらでも運ばせてもらいます」

「そんなことは気にしなくてもいいのよ。働いてくれたんだから、報酬の一部よ。でも、無理だったら断ってくれても大丈夫よ」

「そんな、無理なんかじゃないですよ」

 ノボルは大げさな身振りで首をふり、

「喜んで運ばせてもらいます」

 と、笑った。

「フフフッ、ありがとう」

 リリーも笑って、

「それじゃあ、よろしくお願いします」

 と、頭を下げた。


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