足跡
次の日の朝。
リリーは満ち足りた眠りから目を覚ました。
外はすっかり明るくなっている。
こんなに遅くまでぐっすり眠ったのは、久しぶりのような気がした。
ここ数日は、ノボルのことが気になって、朝寝坊ができなかった。今朝は昨日みたいにノボルも起こしに来なかったし。
けれど、まだしばらくは、ノボルもこのままの状態が続きそうだし、今朝は何も気にしないで、熟睡した。
うう~ん、とリリーは布団の中で体を伸ばした。
もう少し、布団の中にいたいと思ったけれど、いつまでもそうもいかないので、思い切って体を起こす。
昨日はあれから、雪合戦しょうなんて、ノボルは言わなかったから、雪合戦をしなかった。けれど、今日、また誘ってきたらしてあげてもいいなあと考えていた。
時計を見ると十一時半だった。
いつものように耳をすまして、ノボルの気配をうかがう。
何の物音もしない。
静かに本でも読んでいるのだろうか。
オセロをしょうとこっちから誘ってあげたら喜ぶだろうな。今日はゆっくりと相手をしてあげよう。ノボルが勝つまで付き合ってあげてもいい。リリーは思った。
リリーは布団から出て、服を着替えた。
リビングに行く。電気もテレビもついていない。
ずっと、だれもいなかったように、その部屋は冷たく静まり返っていた。
キッチンも同様に、しんとしている。
コンロの上に鍋があったので蓋を開けてみる。ホワイトシチューの甘い香りがただよった。
ノボルは毎朝、リリーのために温かいスープや味噌汁を作ってくれているのだ。
「おいしそう」
リリーは一人つぶやいた。
ノボルの部屋を覗いてみる。ここにもノボルはいない。綺麗に整頓されたベッドがぽつりとあるだけで、ノボルのカバンも見当たらない。
トイレをノックしてみる。返事はない。
玄関を見に行くと、ノボルの靴はなかった。
「ノボルさん」
小さな声で言ってみる。
ドアを開けると、真っ白な雪景色だった。
足跡が玄関からずっと先まで続いている。ノボルの足跡だ。町の方角に向いている。
(ああ、なんだ、そういうことか)
リリーはほっとした。
(町へ買い物に行ったのね。あたしがグーグー寝ている間に、チョコとかシュークリームとか、あたしが好きな何かおいしい物を買ってきて、あたしを驚かすつもりね)
この前にもそんなことが一度あった。リリーが眠っている間に町へ買い物に行ったことが。その日はクリスマスだった。ノボルはケーキとシャンペンを買ってきてくれたのだった。
(あたしをびっくりさせて、喜ばせるつもりね。きっとそう)
ヒュ~と冷たい風が家の中に入ってきた。
リリーは慌ててドアを閉める。外は寒いなとリリーは思った。




