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イノシシ!? リリーさん  作者: カワラヒワ
13/16

能天気

あれから一週間が経った。

 ノボルはまだここに居る。温かい部屋でこたつに入り、リリーとのんびりくつろいでいる。

「僕はどんな風に、この家を出るのがいいですか? 出て行く日を決めて、ちゃんとお別れの挨拶をして出て行くのがいいか、それとも、突然にさよならも言わず、いなくなるのがいいか、どっちがいいですか?」 

 一週間前、二人で泣いたあの夜、ノボルがそんなことをきいた。

「突然にやってきたのだから、突然にいなくなる方が自然かな」

 リリーはそう言った。

 突然の別れは、その時はびっくりするだろうけど、ああ、いなくなったんだ、と案外あっさりと片付けられそうな気がする。

 でも、別れる日を決めてしまうと、別れるまでの時間がすごくつらいように思う。

 それで、突然の別れを選んだのだ。

 リリーの考えにノボルも賛成した。

「僕も、そっちのほうがいいと思います。じゃあ、そうしましょう。僕は突然にいなくなります。何の予告もなしに」

 ノボルは言い、

「今の内にさよならを言っておくのはどうですか?」

 と、冗談ぽく笑った。

「いいわね」

 そういう訳で、二人はお互い「お世話になりました」と頭を下げ合ったのだった。


 ふざけたような、軽いやり取りで終わった話しだった。けれど、ノボルが冗談で言ったことではない、ということはわかっていた。

 リリーはこの一週間、いつノボルがいなくなるのだろうと、毎日ドキドキして過ごした。

 朝起きたら、ノボルはもういないかもしれないと思ったし、リリーが料理をしている時や、お風呂に入っている少しの時間でも、ノボルガいなくなっているかもしれないと心配した。

 リリーは毎夜、布団に入った時、ノボルがいなくなった時の覚悟を決めて眠り、いなくなっても大丈夫なように心づもりをしていた。


 けれど、リリーはそんなことを考えている自分が不思議だった。

 最初、ノボルから家を出て行くと聞いた時も、それほどショックを受けなかったし、そんなに悲しいとも思わなかった。

 あの時泣いたのは、雰囲気に押されただけのことだったから。

 ノボルがあんな風に別れを宣言するのがいけないんだとリリーは思った。

 出て行く日を決めるか、突然いなくなるかなんて、そんな、わずらわしい。

 突然の方がいいなんて、あまり考えもせずに言ってしまったけれど、やっぱり、ちゃんと別れの日を決めた方が良かった。

 そっちの方が返って、潔かった。


 いついなくなるか、毎日ドキドキして暮らすなんていやだし、そんなのは突然いなくなるのとは、大分違うと思う。

 そう考えて、リリーはちょっとイライラした。

 それなのに、ノボルときたら、何事もなかったように以前と変わりなく暮らしている。

 あの時、泣いていたのは何だったんだろうと思うくらいだ。

 リリーがいつも心配顔をしているのに対して、ノボルは前よりも明るい顔になった。隠し事をリリーに告白してすっきりした顔だ。

 それが少し悔しい。


 ノボルは村に帰って、忍者のみんなと楽しく暮らすんだろうな。恋人だっているのかもしれないし。あたしのことなんて、すぐに忘れてしまうんだ。

 ハアーッ、とリリーはため息をついた。

 リリーのため息をきいて、ノボルは立ち上がった。

 整理棚の上に置いてあるオセロ盤を手にとって、

「退屈そうですね。オセロしましょう」

 と笑って言う。

 ほんとうに、もう! とリリーは思う。でも、笑うしかない。

(ノボルってこんなに能天気な人だったかしら)

 うれしそうに鼻歌を歌って、駒を中央に並べるノボル。

 リリーはほおづえをつき、少し呆れてそれを見ていた。


 それから三日後の朝。

 久しぶりに雪が積もった。

 積もっていた雪が溶けだす頃のなごり雪だ。

 リリーはそんなことは知らず、温かい布団の中で、気持ちよく眠っている。

「リリーさん、雪が降ってますよ」

 リリーの耳元でノボルがささやいた。

 リリーはびっくりして目を開けた。雪が降っていることに驚いたのではなく、ノボルの声が急に耳元でしたからだ。

 ノボルが眠っているリリーを起こすなんて、初めてのことだ。

 ノボルはリリーが布団の中が大好きで、眠るのも大好きだと知っているから、普段ならいくらでも寝かせてくれるのに。

「えっ? 雪?」

 リリーはキョロキョロした。

「はい、雪です」

「そう・・・」

 リリーは言って、布団を頭からかぶった。

 雪なんて珍しいものじゃないし、雪が降ったからって、リリーは嬉しくもない。

(何で起こすの?)

 リリーはただ、むっとした。

(せっかく、気もちよく寝ているのに)

「リリーさん」

 ノボルは小さな声でつぶやき、しばらく黙って、リリーを見下ろしていた。

「後で雪合戦しましょう」

 ノボルはそう言って、部屋から出て行った。

(雪合戦? 変なことを言うなあ)

 リリーは布団から顔を出し、窓の方を見た。

カーテンは積もった雪の照り返しで、明るく透けている。

 雪なのに晴れているのね。リリーはそんな事を考えながら、また眠りに落ちていった。



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