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イノシシ!? リリーさん  作者: カワラヒワ
11/16

飲み過ぎて

目が覚めると、夜だった。

電気もついていない真っ暗な部屋。こたつに入ったままいつの間にか寝てしまったようだった。起き上がると頭が重い。

ノボルも、同じようにこたつに入ったまま眠っている。こたつから首だけ出して、窮屈そうに体を丸めている。

飲み過ぎたな、リリーは思った。


空になった焼酎のびんが二本、転がっている。

最初に作った甘い焼酎が、すごくおいしくて何杯もお代わりしたんだっけ。その内、ロックで飲みだして・・・。後はよく覚えていない。

ノボルを起こさないように、そっとこたつから出る。電気はつけないままで、暗がりの中キッチンに行く。

水道の蛇口をひねると、リビングの電気がついた。

やっぱり、忍者は敏感だ。すぐに目を覚ます。

「リリーさん」

 ノボルが目をこすりながら、こっちへ来て電気をつけてくれる。

「お水?」

 リリーがきくと、こくりとうなずく。


「ちょっと、飲み過ぎましたね」

 水の入ったグラスを受け取り、ノボルが言った。喉を鳴らし、水を飲み干す。

「二人とも酔っ払って、眠ってしまったのね」

「はい」

 流しにもたれて、二人はしばらく無言で立っていた。

 リリーはさっき、ノボルが話したことを、思い出そうとしていた。

 ノボルがここを出て行くって言って、自分が忍者であることを告白して、それから・・・。

 なんだか、もう、随分前に聞いた話のように、記憶がぼんやり霞んでいる。夢の中で聞いた話みたいに。

「さっき話したこと覚えていますか?」

 リリーの心がわかったみたいに、ノボルがきいた。

「もちろんよ」

 そう、もちろん、今から思い出すんだから。

 リリーは思った。

「ノボルさんも覚えているでしょう」

「はい。覚えていますよ。ちゃんと全部」


 ノボルはたくさんお酒を飲んで酔っ払っても、乱れたり、騒いだりおしゃべりになることはなかった。

 いつも、理性的で規則を守っていた。

 そこんところが、おもしろくないなあと、リリーは思っていた。

 けれど、今思うと、それも忍者の訓練されたことだったのかもしれない。

 酔っ払って、自分の正体を明かしたり、仲間のことを話してしまわないようにするための。

 ノボルはきっと、酔っていてもちゃんと正気でいて、しらふの時と同じように、何を話したかも覚えているのだ。


「あたしが話したことは、ただの酔っ払いのたわごとだったでしょう?」

 何を話したかな? でも、どうせつまらない話しをしたんだと思う。

「そんな感じでしたけど、楽しかったですよ。リリーさんは酔うと一段と陽気になるから。

いい思い出が出来ました」

「えっ?」

 リリーは小さな声を出した。

「まさか、もう行ってしまうの?」

 いい思い出ができたなんて、まるですぐにでもここから、いなくなってしまいそうな言い方だ。

 フフッ、とノボルは笑って、

「いや、もう少しここに置いてもらおうと思っています。さっきも少し話したけれど、覚えていませんか?」

 グラスを流しに入れて言った。


「ううん、覚えているわよ。さっきの話しはこれから思い出すところだったの」

 ノボルはまた笑った。

「そうですか。でも、もう一度、お茶でも飲んでゆっくり話しませんか?」

「うん、そうしょう。思い出すのに時間がかかりそうだから、その方がいいわ」

 さむっ、と言ってリリーは水の入ったグラスを置いた。

「こたつに入って待っていてください。熱い紅茶を持っていきますから」

 いつも優しいノボル。この人がここからいなくなる。そんな想像ができなかった。

 一緒にごはんを食べられなくなるなんて、まるで信じられなくて、現実感がなかった。

 リリーは冷たくなった手をこたつの中に入れた。

 キッチンから、紅茶のいい匂いがただよってきた。


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