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第12話「東夷王」(後編下)




東日流つがるゆき姫。


雪姫と違い例の遮光器土偶の仮面を着けていない。

しかし、この歌には覚えがある。


「その歌、その踊り。

 確かに東日流の雪姫が見せたものといつである。

 しかし証拠は?」


久能が千姫に、そう詰め寄ると彼女は、答えた。


が東日流王ななる。

 は、それをためすまでもなし。」


「聞くまでもなく私が確信しているだろうと?

 ほう。」


久能は、冷ややかな態度を見せる。

なにせ相手は、6~8歳ぐらいの女児である。


「貴様が東夷王の軍師という東日流王か?

 しかし降伏するタイミングとしては、悪くない。

 この一件の首謀者というのならな。」


久能は、そういって床几から立ち上がると千姫の傍に歩み寄った。


どう見ても雪姫とは、似ていない。

なんというか大人びた印象である。


「子供だが、優れた軍師だ。

 しかし手取川では、エルトリンゲンは、逃げ出してしまったようだな。」


「いかに学ぼうと小胆は、治らなんだ。」


そう千姫は、キッパリと答えた。


この子供が本当に東夷王の指南役だったというのか。

興味はあるが久能としては、仕事を済ませたかった。


「何のために来た。

 和平交渉などではあるまい。」


久能が千姫に、そういうと彼女も胸を張って答えた。


「そう。」


そしてゆっくりと手を出すと手のひらを久能に向けて開いた。


「返して貰おうか、宇摩志うまし左口さぐちを。」


しばらく二人は、黙って向き合っていた。

やがて久能が口を開いた。


「…そんな名前があったのか。

 返せと言われれば、きっと黙って返しもしただろう。


 しかし、しかしだな。

 今更、何のために使うのか聞きたい。」


「…。」


千姫は、手を降ろし、しばらく考えてから答えた。


「吾は、宇摩志左口の正体得ざり。

 ただその名を得ざるのみなり。」


「子供には、刺激が強すぎるからな。」


久能は、真剣な表情のまま冗談交じりに、そう答えた。

またこう告げた。


「自分が何を探しているのかも知らないが、私から宇摩志左口を取り戻したいと。

 そのためにこうして対面する機会を伺っていたのか。


 話して貰おう。

 正直、あれは、どういうものなのか私たちには、分からないのだ。」


徒爾とじなる。」


「確かに貴様が嘘を吐いていれば何を話そうが関係ない。

 しかし貴様は、嘘を吐けないだろう?」


久能が満足しなければ例のモノを返す事はない。

ともかく話すしかない。


「…善き事の為。

 天土を和す為なれば。」


「どのようにして?

 あれは、女を孕ませるぐらいにしか役に立たない道具ではないのか?」


「其は、宇摩志左口の美験みしるしななりき。

 吾は、大和人と夷の混血まぜるを希望のぞまん。」


それを聞いた久能は、黙った。


黙った。

黙ったままだった。


しばらくして再び口を開いた。


「人間と夷を混血すれば争いが終わるというのか。

 そんな単純な問題ではない。」


久能は、背を向けて床几に座った。


「そんなことをしても大和人と夷、そして混血民族の三者が争うだけだ。

 民族の垣根を取り払おうなどと、どれほどの時がかかると思う?」


「神に其なる不足なし。

 吾に返せ。」


千姫は、再び、そう言った。


確かに千姫は、術を使う。

常識で考える様に民族の交雑が始まる訳ではないのだろう。

ひょっとしたら明日にも人間と夷は、一つの民族になっている可能性もある。


あるいは、想像している以上の出来事が起こるのかも知れない。

しかし、それが常識を外れたものであればあるほど久能にとって認め難いものであることに変わりなかった。


「例え日本中から大和以外の異民族がいなくなろうと関係ないのだ。」


「…。」


千姫の返事はなかった。

久能が一方的に続ける。


「武家は、戦わなければ食っていけない。

 だが、そんなことは、どうでもいいのさ。


 私には、分かる。

 私は、戦うのが好きだ。

 戦う以外の生き方が私には、分からない。


 だから今の世界にほんが好きだ。

 大和やまとけがいの二色刷りの日本は、堪らなく居心地がいい!!」


「何故…。」


千姫は、目を細めて唸った。

久能は、答える。


「仮に大和と夷がいつになる程の術があるとしよう。

 そんな大それた術が使えるのなら、やはり渡す事は出来ないのだよ。」


久能がそう言うと千姫は、項垂れて背を向けた。




「殺せ。」


久能の命令により金沢城に集まった夷は、殺し尽くされた。

千姫は、助命され、どこぞに消えた。


「私は、敵がいなくなるまで戦いたい訳ではない。

 単純に今の日本を守りたいだけだ。

 …きっと。」




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