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第12話「東夷王」(中編中)




京では、小規模な戦闘が繰り返されていました。

帝も十完も居館に立て籠もり、籠城戦の様相を呈しています。


「将軍職を退けと?」


「帝の怒りを収めるには、それしか…。

 それとも本気で帝と対決するというのですか?」


十完に公家たちが進言しました。

久能の意見書も突き付けられました。


「ま、待ってくれ。

 余も今一度、良く考える。」


なぜこうなった?


十完は、嫌な汗が止まりません。

手足が冷たくなり、なんとなく目線が暗いのです。


自分に都合のいい帝の即位を助けたはずが、いつの間にこんなことに。

諸侯も久能も自分を助けようともしません。

どこで間違ったのか。


結局、彼らは将軍の権威に従っていただけ。

そして、将軍は人間ではなく役職なのです。

代わりが立てば事もなし。


これが実力で将軍になった訳でもない彼の使用限度だったのです。


「ならば!」


ならば、実力で将軍職を守る他ありません。

今さらですが、実力で将軍職を自分の手に取り戻すのです。




「良からぬ発想に至ったか。」


「…なんでやっ。」


狗奴王が久能の隣で額を手で押さえました。

京からの使者は、十完が京から帝を追い出したと報せました。


「伊勢攻めは、これまでだな。

 …京に戻って北条十完を討つしかなくなった。」


久能は、そういって諸将を見渡します。

伊邪奴が質問しました。


「諸侯には、なんと?」


「吉備軍だけで十分だ。

 これ以上、戦闘が激しくなると幕府の威信にも関わる。」


「あくまで帝の号令に応じたのは、少数だったということにしたいと?」


「ああ。」


吉備軍5千は、伊勢路を北上、追撃する夷を払って京に向かいます。

途中、久能は少数の手勢で伏兵の夷軍を突き崩しました。


「夷軍が先回りした。

 ルスランに全軍を任せ、道を迂回させろ。

 私が伏勢を片付ける。」


「御意…。」


ルスランに従い吉備軍の本隊は、別の道を進みます。

一方、100人前後の久能の手勢は、前方に罠を張る夷たちに強襲します。


相変わらず少数での戦闘は、久能の得意です。

夷軍も急いで先回りしたためか、簡単に崩れました。


「味方の被害も少なく済んで良かった。」


久能は、蹴散らした夷たちの死体の上を通って本隊と合流します。

しかしそこで狗奴王が落馬したと知らされました。


「狗奴王様が…!?」


「は…。」


もともと若くないので無理もありません。

しかし久能は、気の重くなるばかりです。


「…京に急ごう。」


悲しみに暮れている訳には行きません。

ともかく忙しさにかまけて忘れるしかないのです。


京域は、朝倉義梵がカラクリで守っています。

この数年の間に何度も手が入れられ、周到な仕掛けが施されています。


「朝倉の城を私が攻める日が来るとはな。」


久能は、何か自虐と揶揄からかいの中間のような心持ちになりました。

自分で自分をからかってみたような気持ちです。

わざわざ難攻不落の城を作らせ、自分で攻める。


「…天磐楠舟で京域に侵入する。」


赤外線照射やレーダーのない対空兵器で飛行船を落とすのは、困難なはずです。

いくら朝倉が天才的なカラクリ職人でも防空は、無理だと踏みました。

吉備軍の空中艦隊、鸞兵部隊が京の上空に迫ります。


しかし予想外の敵が現れました。

北条家の大鸞兵軍団です。


「天磐楠舟は、流石に帝に抑えられたようですが、幕臣たちが十完を守っているようで。」


「愚かな。

 徹底抗戦するつもりか。

 戦力を失ってからでは、再起も出来まい。」


しかし今は、十完の将来など心配している場合ではありません。


空からダメとなれば、やはり地上戦に解決を求めるしかありません。

久能としては、気が進みませんが。


「全軍に攻囲を命じる。

 火を放て。」


「京に火を!?」


久能の命令に家臣団は、色めき立ちます。

久能は、改めて厳命しました。


「朝倉の作った城だ。

 手を後に残しておくようなことはできん。

 無様に被害を出して戦意をくじかれ、挙句に諸侯を呼び寄せるようになっては少数でここまで来た意味もなくなる。」


「御意。

 ただちに用意を。」


素早く容赦ない手段に久能はでました。

しかし流石に帝も公家衆を通じて火攻めを中止するように催促します。


はじめ久能は、適当に朝廷側をはぐらかしつつ準備を進めさせました。

ところが帝も強引な手を打ちます。

手勢を繰り出して吉備軍の作業を妨害し始めたのです。


「殿、公家の家僕たちが火攻めの作業を妨害し始めました。」


何度かそんな報告がありましたが、久能は火攻めを断行します。

京域は火に包まれ、一両日は燃え続けました。


「攻撃をはじめよ。」


吉備軍は、焼け野原になった京域に侵入しました。

くれぐれも注意を怠るなという久能の指示がありましたが、やはりことは簡単にいきません。


朝倉も火攻めは想定していたらしく地下にカラクリが埋設されていたのです。

また防火対策も十全に工夫されていました。


吉備軍は、すぐに逃げるように撤退したのです。


「簡単には攻め落とせないか。」


「殿、それよりも帝の御怒りは…。」


「放っておけ。

 どの道、こうなる事ぐらい分かっていただろう。」


久能は、しばらく京を望む高台から様子を見て考えました。

ふと家来に訊ねます。


「十完側に兵糧を運び込んだり、合流する兵を見たか?」


「は。

 気を付けておりますが万全とは言い難く。

 やはり諸侯にも参戦を促すべきかと。」


「確かにな。」


久能はそういってからまた少し考え、しばらくして口を開きます。


「確かにな。

 しかしそうなると幕府の威信は崩壊するだろう。」


その後の混乱を考えると久能には、決断し兼ねるところがあります。

洪水の堤防を自分で決壊させるようなものです。


しかしそれが結果として取り返しのつかない結果を産みました。


久能が考えあぐねる間にも吉備軍は、京攻略に失敗し続けました。

ひと月経ち、半年が経ち、それでも京は落とせません。

それほど朝倉のカラクリは、完全な守りでした。


「諸侯に参戦を促し、我々も一時撤退する。」


久能が決断したのは、冬の初めでした。

京攻略は、来年に先延ばしになったのです。




帝と将軍、十完みつさだの対立が原因で起こった戦乱。

年を挟んで将軍討伐軍が京付近に姿を見せました。


諸侯は、歴戦の久能を総大将に押し立て、巨大な軍を編成しました。

その威容は、京を攻囲し、幕府の終焉すら感じさせたのです。


「さりとて十完に着く者もいなかった訳ではない。

 そもそも帝のために戦おうという武士もそれほど多い訳でもない。」


久能は、前年の大敗を引きずっており気が進みません。

第一、朝倉のカラクリに対する対抗策など何もないのです。


移動式の攻城兵器では、設置された兵器には敵わず。

半年間、絶え間なく攻め続けても故障や不調も見られません。

どこかのカラクリを破壊したという報告は、誤報以外に確認できませんでした。


「火砲をもって攻撃する。

 撃てッ!」


攻囲軍は、京域目掛けて大砲を撃ち始めました。

しかしすぐに倍以上の弩弓砲が返って来て瞬く間に壊滅したのです。


明らかに京の防御力は、増しています。


「これは、朝倉が京にいるとしか思えない。」


久能は、初戦のつまづきに狼狽しました。


「いや、朝倉法眼は京から離れたはずです。」

「もしかしたら将軍側に雇われたのでは?」

「朝倉だけが職人ではないだろう。」


「仕方ない。

 力攻めから兵糧攻めに切り替える。」


京での戦闘は、膠着状態になり2年間の籠城が続きました。

久能は、諸侯軍に包囲を続けさせておいて自分は、伊勢攻めに復帰。

勢州、紀州の夷を一掃しました。


何十万もの夷が殺戮され、その倍以上が奴婢として売却されたのです。




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