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第11話(中編)




「三夜よ、勢州、尾州の夷を探り、敵戦力を明らかにせよ。」


「承知。」


エミリーの指示を受け、風魔忍軍は、尾州と勢州の情報収集に動きます。


「スカディらは、取り敢えず待機。

 私は公卿衆や帝の身辺を狗奴王と探ろう。」


「おっす。」


「なんでや!」


山城国の武将たちが二の足を踏む中、稲は岡山城に戻りました。

こちらでは次のステップに野望が前進しています。


「取り敢えず新術式の説明をします。」


「うん。」


嶺ら術士たちが新しい術の説明を稲にします。

近江戦の間、彼女らは出雲国中の男女を利用し、実験を次の過程に進めました。

つまり、より民間でも利用できるレベルに落としていく実験です。


「まず各村々に男根像を配りました。

 村の住民に毎日これを触らせ、経過を調べました。

 3ヶ月ほどで精子の運動率が200%向上し、奇形率も122%ほど下がりました。」


「…で?」


稲が鋭い目線を飛ばします。

解説していた巫女は、少し物怖じした態度に変わりました。


「よ、予定では母体の強化も進んでいるはずでしたが、妊娠しないように村人たちが工夫していたらしく。

 …あまり、情報が…。」


「ダメじゃないか。」


稲がそういって黒っぽい塊を口から離して怒ります。

とはいえ久能に見つからないよう、ある程度は大人しくする必要があります。

ここで苛立っても仕方ありません。


「通常、出産には10ヶ月要しますが、試算では半分の5ヶ月から3ヶ月で臨月に達します。

 また赤ん坊は1歳並みの体力で生まれてきますから早世も避けられます。」


古代の平均寿命が短いのは、長生き出来なかったこともありましたが、それ以上に赤ん坊の死亡率が問題でした。

もともと四足歩行の動物が二足歩行になり、骨盤が狭まり、赤ん坊が未熟な状態で生まれるのが、人間の赤ん坊が死んでしまう原因です。


母体を強化すれば、赤ん坊も健康で生まれる。

一挙両得です。


「素晴らしい。

 これが現実のものとなれば、国力がこれまで以上に伸びる。

 出産で命を落とす母子も減るだろう。」


稲は取り敢えず術士たちを褒めました。

あまりイジメても仕方がありません。


「…稲、これまでにしないか?」


そう急に言い出したのは、嶺でした。

稲は、それほど驚きません。

嶺は言います。


「正直、母親たちの身体がどうなってしまうのか…。

 今なら石棒に触れ、身体が丈夫になった程度で済む。」


「なぜ?」


「失敗したら、どんな惨い死に方をするか!」


「どうせ、名もなき百姓めらではないか。

 さっさと実験を進めてくれ。


 どうして大馬鹿者たちは、栄光ある進歩をためらうのか?

 それでいったいどうなる?

 私たち以外の誰かがそれと成し遂げ、私たちの代わりに賞賛を浴びるのだ。


 私は理解に苦しむ。」


稲はキッパリとそう言い放ちました。

また、こうも付け加えます。


「殿は、もっとアラハバキ神の力を利用しろとお考えだ。

 その邪魔となった雪姫は、どうなった?

 ええ?」


「せめて慎重に進めたい。」


嶺も譲りません。

ですが、稲もここまでで議論を終えます。


「そうか。

 では、動物などで順次、試してくれ。

 私は良い結果を待ち望んでいる。」


稲がそういうと、しばらく沈黙が続き、一人の術士が発言します。


「稲様。」


「ん?」


「御殿様もそうでしたが、石棒の影響で攻撃的になる傾向が見られます。

 いわゆる男性ホルモンの影響ではないかと…。」


石棒を体に取り付けるにせよ、男根像に手で毎日触れるにしろ。

それは人体に二つ目の性器を取り付けることに他なりません。

その結果、男性ホルモンを増やし、筋肉や骨格を強くする、その副産物として母体の強化が図られるのです。


「…身体を作るホルモンに、攻撃性を高める効果が?」


「緊張が解けると体は筋肉を落とすホルモンを発生させます。

 自然体以上の丈夫な体を維持するということは、常に戦闘体になるようなものです。」


術士の説明を聞き、稲はこう答えました。


「セロトニンやオキシトシンを増やすように。

 もともとセロトニンは男の方が女より多い。

 より男性化を進めることで女たちも落ち着くだろう。


 今の殿が完全に精神的には安定しているのと同じに。

 セロトニンが増えれば、睡眠障害や便秘も収まる。


 オキシトシンはセックスすれば増える。

 もっと性に貪欲になるように仕向けなさい。」


「は、はあ。」


「結局、人間も道具と同じだ。

 構造を理解してしまえばコントロールできる。」


技術陣も稲の部下たちもだんだんと歯止めを知らぬ彼女の研究指揮に疑問を抱くようになりました。

しかし彼女のいう様に研究が完全でないために問題が起こっていることは、一端にあります。

ですが、これは倫理観の問題です。


あるいは、恐れかも知れません。


「稲や殿が、こんな研究を認めるのは、死の恐怖かも知れないわね。」


会議の後、嶺は側近の部下に、そう話しました。


「死の恐怖?」


「動物が危険を感じた時、子孫を残そうと考える心理みたいなものかも知れない。

 二人は夷との戦争で死にかけたことがあるから。

 だから、人一倍に人間を増やす研究や技術に関心を抱く。


 そんな気がする。」


嶺はそういってお茶を口にしました。

稲と違い、彼女はずっとノンアルコールです。


「なるほど。

 戦争という善悪を越えた体験をした二人だからこそ、ですか。」


「そう。

 戦争は実際に体験しないと誰にも分からない。


 後ろから敵を殺すのと、自分が助かるために味方を見殺しにするのと何が違う?

 戦争に卑怯も汚いもないもの。


 味方同士で食料を奪い合い、武器を取り合うことだってある。

 味方同士でさえ、生きる順番をめぐって争う。

 力を合わせて敵と戦うなんて、そんなキレイ事は実際の戦争では起こらない。


 だから、あの二人と私たちでは感覚が違うのよ。」


「ですが…。」


側近が嶺に恐る恐る言います。


「ですが、家族や友達の安全を願い、強い国家を望む。

 それが私たちが研究を続けて来た理由。

 二人の決断は、私たちの望みでもあったはずです。」


嶺もそれを聞いて頷きます。

しかし、こう答えたのです。


「そうね。

 でも、本当の恐怖を知らない私にしてみれば…。

 もう、二人の方が余程怖い。」




「大陸を攻めるって方針もありますよねえ?」


静が急にそう言いました。

普段、鸞鳥の上では10mの長槍を振るい、地上の敵を刺し殺す彼女です。

徒歩では、それ以上の槍の名人でした。


「どういうことですの?」


杏が手を止めた静に訊ねます。


「だってえ、大和中の鉄や金属類は、毛野国に奪われてしまったんですからあ…。

 それを取り返しに大陸に攻め込むのが一番、皆の生活を豊かにする気がしませえん?」


それは、ある意味では事実でした。

しかし圧倒的な強さを見せたアズルドヴェイン率いる十二神将と東夷軍に、勝てるでしょうか?


「おう、そりゃいいな!」


スカディも明るく言います。

静が嬉しそうに声を弾ませます。


「でしょう!?」


ですが、吉良と尾崎が横槍を入れます。


「とてもじゃないですけど、勝てませんよ。」


「レッドの言う通りよ!

 アズルドヴェインは、私たちじゃ勝てないわ!!」


正義のヒーロー、秘密戦隊ともあろう者が立ち向かう勇気を失っています。

ですが、彼らの志は、今や久能と同じです。


彼らがもともと戦う敵は、絶対的な地球の侵略者でした。

戦う以外の選択肢がなかったのです。

しかし幸せのために民衆を犠牲にする戦争という選択には、おいそれと手を出せません。


「武士は戦うことで領地領民を豊かにする仕事だからな。

 俺たちとは、違うんだブルー。」


「そうね。

 この時代は、まだまだ文明も発達してないから、略奪や戦争に頼ってしまうものね。」


鉄は国家の血液。

金属は産業を支え、産業が人々の暮らしを豊かにします。

金属無くして人間がどれほど努力しても石器時代から脱せません。


鉄の量が、そのまま文明レベルに直結するのです。


アズルドヴェインにそれを奪われ、大和は石器時代に戻りつつあります。

これでどうして戦わずに民衆を豊かにできる方法があるというのでしょう。


「じゃあ、勢州や尾州と戦っても意味ねえな。」


スカディがそういって武器を杖代わりにして言います。

ですが、杏は反対します。


「濃尾平野を奪われたままじゃ、米の取れ高はどうなるの!?」


「そら、ああ…。」


杏に言われ、スカディも考え直します。


「全部、大和が貧しくなったのが悪いんだよなあ。」




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