第11話(前編)
小谷城攻略が始まる。
城の周辺に逃げ込んだアラリア夷たちは次々に殺された。
ですが、それと並行して徹底されていることがひとつ。
「アラリアの麻薬やそれに類するものを持ち帰ろうという兵を見つけ次第、厳罰に処す。」
「持ち物を厳しく検査し、怪しと思われる物が挙がった者は問答無用のこと。」
幕臣たちは包囲軍に命令を徹底させます。
各部隊に目付が配置され、次々に即断で処刑されていきました。
「おいおい。
味方の足を引っ張りに来たのかよお!」
スカディが各位を代表して抗議します。
しかし幕府の重臣たちは聞き入れません。
「余の言葉を忘れたか、たわけ。」
「命令を徹底させよとあれだけ伝えたであろう。」
「これ以上、目に余る場合は私掠そのものを禁止しなければならぬ。」
「へいへい。」
吉備軍、出雲軍、高志軍の各部将たちに改めてスカディも伝達させます。
ただ幕臣たちよりは砕けた調子で。
「良いかー、マジで面倒だろうが変なモンを拾って来させるな。
拾った奴は北条方の目付に見つかる前にぶん殴ってもぶった切っても構わねえ。
これ以上、連中に見つかると首が飛ぶと思えっ。」
「御意。」
「了解であります。」
「ほうじゃほうじゃ!」
「御意だっちゃ。」
「スカディさん、ラスターの長が発言があると。」
吉良がスカディにそう言います。
スカディも頷いて答えます。
「おう。」
ラスター軍の代表は通訳を通して発言します。
「えー…。
大和空軍の協力により、大型爆弾を小谷城に投下することになりました。
ラスターの技術力を、とくとご覧あれと。」
「大型爆弾?」
全員、首をかしげます。
通訳は言いました。
「大砲を放つために用いる炸薬を大量に集めて落とします。」
「なるほど。
弾を飛ばすより、ずっと威力がありそうだな。」
スカディの言う通りでした。
これ以降、この世界では銃や大砲、火器よりも爆弾の製造が中心になりました。
飛行機が既に存在するが故に技術の進化の流れが変わったのです。
もともと飛び道具としても魔法が主流でしたから、銃はこのまま廃れていったのです。
魔法により、植物や土壌から火薬の材料を取り出す技術が発展しました。
我々の世界でいう錬金術と呼ばれるものです。
仮面兵などの生物工学も複合的に活用されました。
この為、この世界では百年後、全ての要塞は地下に。
地上に巨大な城郭が建っているのは、この僅かな間だけになっていったのです。
ちなみに対空兵器は全く登場しませんでした。
レーザー照射や赤外線照射などの攻撃補助のレーダー装置が出来るまでは、天磐楠舟は地上からの攻撃では落とせなかったのです。
また空の輸送能力が高まることで海戦も変わりました。
まず武装した大型帆船が登場することはなくなったのです。
潜水艦が基本形となり、水上戦闘は小規模なゲリラ戦だけになっていったのです。
どれも未来の話ですが、この物語の登場人物、全員にとっては他人事ではありません。
朝倉坊、君の人生は始まったばっかりだ。
「…もう、私ら意味ないんじゃね?」
開けて翌日、ラスター夷たちの作った爆弾が投下されます。
スカディはその様子を見て言いました。
小谷城全域に真っ赤な爆炎が起こります。
櫓が吹き飛び、天守閣が倒壊していきます。
ガソリンを使った証拠です。
「ガソリンだあッ!」
「ガソリンなんてあるの!?」
吉良と尾崎が赤い爆炎を見ながら言いました。
どこからガソリンなんて調達したのでしょうか。
「これからの戦争は、仮面兵なんか意味ないな。」
「え、ええ…。」
スカディに言われ、杏が青ざめた顔で合槌を返しました。
「っていうか、城も必要なくなるんじゃないですこと?」
「ああ、意味ねーな。」
小谷城が吹き飛び、アラリア軍は壊滅しましたが戦闘は続きました。
北近江を中心にアラリア民族の絶滅作戦が続けられ、麻薬の材料と思しい植物や畑が焼かれます。
やがて年も明けてしまいました。
予想されていたように帝が崩御し、新しい帝が即位します。
大和全軍は喪に服し、戦闘が一旦は停止されました。
九厳もそれに合わせて将軍を退き、息子の十完が北条十代将軍に就任します。
新帝は地上に降り、新しい内裏に入城しました。
諸王、諸侯も集まり、即位式典が始まります。
ですが、東日流王雪姫だけは、姿を現しませんでした。
「兵庫頭殿には、左近衛中将の官職を用意した。
それに合わせ、管領として葛城御所に移って貰う。」
十完は久能にそう言いました。
久能もうやうやしく頭を下げます。
「私ごときを、そのような。
勿体無いことで御座います。」
「兄も父も貴方を高く評価していた。
余も貴方を厚く遇するであろう。」
そうまで言ってから、十完はやや声を落としてこう告げます。
「だが、幕府の方針は変わる。」
「変わる?」
「そうだ。」
十完と久能、他の面々が見守る中、新帝が御成します。
全員が頭を床に着け、新帝を迎えました。
式典は、そのままつつがなく進行しました。
しかし、その途中で新帝は玉座から立ち上がり、近臣を介さずに直接、全員に言葉を発したのです。
「珍は、夷は…、好かぬッ。」
後日。
新帝の意志により、各地から新たに軍勢が招聘され、尾州・勢州を奪還する作戦が立案されました。
しかし諸侯の反応は、思った以上に鈍い物でした。
アズルドヴェイン戦争は、多くの傷痕を残し、どこも物資を奪われ、ズタズタのまま。
諸大名は、命令に背き、大御所である九厳を旗頭に厭戦を訴えたのです。
「やはり無理か。」
「九厳の威信が新帝を上回ったというより、諸侯の腹の内は平和を望んでいるということでおじゃる。」
「左様。」
公卿衆も新帝や十完には反対の立場でした。
これでは、戦いもままなりません。
「帝の意向を無視すると!?」
十完は焦りました。
しかし幕臣たちの反応も冷ややかです。
「説くのだ。
何としても大名たちを動かすのだ。
この戦争は失地回復という大いなる大義のもとにあるのだと。」
十完の檄文は、諸侯を動かすには至りませんでした。
左京御所に移動した久能は、より難しい決断を迫られていました。
このまま時流に乗って平和になった方が、彼女の最初からの目的に沿うような気もします。
仮面兵なども、キッパリと捨て去り、おぞましい連鎖を断ち切るのです。
ですが今、久能が力を失ったらどうなるのでしょう。
それは、新しい戦乱の火種になりかねません。
彼女が最初、考えていたより、物事は複雑に絡み合っていったのです。
「力を捨てるということが、なんとややこしいことか。」
「殿。」
エミリーは冷然と言い放ちました。
「帝を廃位に追い込み、十完も幽閉してしまいましょう。」
かつて史実の日本において行われた承久の乱。
幕府が天皇を捕らえ、罰するという大事件により武士は天皇すら処罰する威信を得ました。
この世界でも天皇が幕府によって捕らえられるという先例があったのです。
「父を追放し、二人の将軍を殺し、三人の天皇を廃位に追い込んだ、得宗義時の再現をしようっていうの?」
稲が言います。
久能は額を手で押さえました。
あまりに危険な選択です。
エミリーは稲の言葉に答えました。
「…たまに雪姫様もそういう話をしていましたが…。
それは別の世界の歴史の話…、でしたか?
相手は即位したばかりの新帝です。
恐らく十完が、あのような話を吹き込んだのでしょう。
穏便に済ませることも出来るかも知れません。」
「しかしそうなると幕府とは、また事を構えることになるな。」
稲は、むしゃむしゃと菓子を食べながら話します。
何やら黒い塊をボリボリとかじっています。
エミリーも久能も得体の知れないそれを怪訝に見つめます。
「…仮にも十完は、稲殿からすれば兄なのでは?」
「そうだね。
でも、私は細かいこと気にしないヨ。」
稲はそう言って次の黒い塊を指でつまみます。
久能がエミリーに訊ねます。
「ともかくこちらが帝を抑えている以上、どうとでも出来る。
だが、どうするべきなのか私には、もう…。」
「殿、我々は殿の決定に従います。」
エミリーはそう言って毅然としていました。
ですが、久能は浮かない表情のままです。
「思えば、雪姫様を追放した時、私は最初の志を曲げていた。
あの方のいう様に今以上の力など、求めるべきではなかった。
私は、もう私の決断を信じることはできぬ。」
「それでも皆を導いてください。
皆、殿の決断を待っています。」
エミリーに促され、久能は思案します。
問題は、帝や幕府を敵に回す重大性ではなく、何が正しいかです。
ここで久能や久能と同調する者たちが滅びようと正しい方向に大和を導かなければ。
「…少し考えさせてくれ。」




