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第10話(後編下)




北条幕府空軍総裁は、第4軍、第8軍、第22軍を小谷城の周辺に集結させます。

戦艦9隻、巡航艦44隻、軽巡2百余。

鸞兵6千騎。


ラスター軍は大砲8門、歩兵8百。


久能は3万の大軍を移動させました。

高志国も5千の兵を送ります。


この戦いは、アラリアを絶滅させる大虐殺ジェノサイドでした。

小谷城攻略だけでなくアラリア民族をひとり残らず絶滅させるのが目的です。

全軍に彼らは邪悪な民族と布告され、弁解も許されずに滅ぼされることが決まったのでした。


『大和は我々を公然と裏切った!』

『しゅぼちゅくり!』

『あぼぼぼ!!』


アラリア軍の怒りは戦意に直結。

開戦と共に激しく大和側と激突しました。

次々に各処で戦闘が起こり、大和軍は後退します。


「攻撃が激し過ぎる。

 被害が出る前に後退を…。」


6千余の正規軍に加え、決起したゲリラ兵が参戦しています。

約5万の大和軍でも手に負えません。


「敵は全体で10万以上と予想されます。

 ただ所詮は義勇兵。」


ニリナス王の時同様、勢いはありますが素人はどこまで言っても素人。

大和軍の被害は1日で5百に達しましたが、相手はその十倍は超えているでしょう。


「…全軍を空中艦隊に批難させる。

 夜襲を受ければひとたまりもない。」


久能は全軍を素早く地上から引き上げるように命令しました。

夷の夜目だけは、まだまだ恐るべきものがあります。


「尾州戦では徹底を欠き、数万の大和軍が5千に敗れた。

 朝倉の装備に守られた城ならばともかく地上で夜を明かすのはマズい。」


「しかし空港もないのに兵を上げるとなると鸞鳥トリを使うことになりますが…。

 鸞鳥トリたちに負担が…。」


「艦を降下させ、縄を降ろそうにも危険過ぎます。」


「全軍は無理か?」


久能の命令に対し、提督たちは肯首しかねます。

結局、久能も諦めました。


「空に関しては、貴様らの方が専門だ。

 私から何も注文を付けることはするまい。

 任せる。」


「御意。」


そのまま1週間ほど、小競り合いだけが不毛に続きました。

久能は次々に陣を破り、小谷城への道を進撃しましたがアラリア王は野戦を仕掛けてきました。


『見つけたじょぼぼぼ…。

 ぼぴー!!』


酒杯を呷りながらアラリア王は久能の本陣に相対します。

久能も敵将の姿を認めました。


「アラリア王の直属部隊です。」


「こちらは8千、向こうは6千か。」


久能は甲冑の結び目を確かめながら、丘の上で敵陣を見下ろします。

近臣が言います。


「挑発に乗る必要はありません。

 近くに伊支日彦イシヒビコ王子の部隊がおります。

 合流すればこちらは1万余となります。」


「ふむ。」


数が多い方が勝つ。

これは軍法の常道です。


しかし用兵巧者には、二通りのパターンがあります。


つまり大軍を意のままに操るタイプと小勢を巧みに使い勝利するタイプです。

通信装置のない時代、大軍だから勝つのは当然とはいきません。

軍記物語では小勢が大軍を敗るのが持て囃されますが、大軍を指揮できるというのも立派な名将の武器でした。


久能の場合、大軍を指揮する才は逆にありません。

ほとんど本人の個人的な武勇にこれまでの勝ちは支えられています。


義弟おとうとを待っても仕方ない。

 私の独力で敵を破る。」


「と、殿…。」


アラリア王は狂気に飲まれています。

しかし、こうして久能を捕捉し、合戦に持ち込んだ時点で上手うわての戦上手です。

久能に勝機があるとすれば、実際の戦闘で敵陣を破砕することのみ。


「こちらが数で上回っていることは変わりない。

 もう2千合流するのを待つ必要はない。

 第一、敵がそれを指をくわえて見ているとも考えられんだろう?」


「御意。」


久能本人は勿論、全員に嫌なイメージが付きまといます。

久能は撤退戦以外ではまともに勝ったことがありません。

どうしても戦下手の印象が先行してしまいます。


「なあに、数ではこっちが勝ってるんだ。」

「相手はヤク中でありますぞ。」

「目に物見せてくれる。」


「かかれーッ!」


久能率いる本陣は、アラリア王直属部隊と激突しました。

結果は圧倒的でした。

歴戦の久能勢はアラリア軍を圧倒し、騎馬隊を瞬く間に真っ二つにしました。


先駆けの先陣を突破すると久能はアラリア王の近衛に突撃します。


「テェーストオオオ!!」


『大和の騎士団が突っ込んでくるぞ!』

『きょきょきょー!!』

『あっべッ!?』


高志国をも破ったアラリア王の騎士たちが久能の前に敗れて行きます。

例の黄金のイチモツの影響でしょうか。

久能の身体能力は、すでにどんな敵にも後れを取ることはありません。


「逃がすかッ!」


久能の放った矢がアラリア王の背を射抜きます。

アラリア王モサは落馬し、近衛の騎士たちが引き返してきます。


『陛下!』

『陛下をお助けきょきょきょー!』

『うむらげとよ!』


「愚か者どもめ。

 野蛮な東夷王など討ち取って見せる。」


久能は騎馬を進め、モサ王の首を取ろうと接近します。

しかし、ここで隣りから悲鳴のような声が上がります。


「と、殿!!」


久能は声の方を振り向き、騎馬を旋回します。


「どうした!?」


「敵の騎馬隊が戦線に復帰しましたッ!

 囲まれていますッ!!」


戦いの初め、久能が突破し、戦場から離脱したと思っていた騎兵隊が戻って来たのです。

敵本陣に迫って前進した久能のすぐ後ろに回り込まれました。


「奥に誘い込まれたのか!?」


「後退を!!」


久能は眼前の敵の王をそのままに撤退します。

引き返す久能の前には敵の騎馬隊が待ち構えていました。


『来たぞ、敵だッ!』

『思い知らせちょ!』

『りゅぐにーん!!』


「手緩いッッッ!」


アラリア軍は、ここまで戦術的には久能を追い詰めました。

しかし、かつて久能がアズルドヴェインを逃がしたようにアラリア軍も久能を討ち取ることが出来なかったのです。


運良く前進した久能の背後に回れたのが最後。

彼らはボロボロの味方を鼓舞し、戦場に復帰しました。

しかし、その結果は惨めな戦死だったのです。


アラリア王を取り逃がした腹いせとばかりに久能は彼らに逆撃を与えます。

久能の部下たちもヘソ曲がりです。

優位な時より、こういう場面の方が久能を信じて戦えるのですから。


日没までに決着が着きました。


アラリア軍6千の内、半分の3千以上が戦死しました。

それも敵の精鋭である正規軍です。

指揮官であるモサ王も重傷を負い、意識不明にまで至らしめたのです。


ですが、久能本陣も8千の内、1千5百余が戦死しました。

流石に後背を突かれ、半包囲されたのは痛手でした。


「マズいな。」


このアラリア戦を通して最大の被害を出したのは、久能になってしまいました。

勿論、他は民兵ですから条件は同じではありません。

しかし、久能は自分を責めました。


「無理攻めして、このザマか。」


「殿、伊支日彦王子の部隊が合流しました。

 取り敢えず、再編成を進めます。」


「…任せる。」


「御意。」


久能は自分に落胆しましたが、全軍はそれほど気にしませんでした。

むしろ負傷したモサ王の影響で敵軍は動きに鮮やかさを欠きます。

最初の勢いも失われ、瞬く間に潰れて行ったのです。


そんな中でした。


「御殿は全軍を撤退させる命令を出されました。」


「どういうことですの?」


杏の陣に伝令が飛び込んできました。

すぐに他の部隊も大津城まで後退を始めます。


「一体、何がありましたの!?」


「予想以上に反撃が厳しいということだろ。」


スカディが寝転びながら杏に言います。

吉備王子たちも疲れ切った様子です。


「朝倉坊がいないと、こうも夜襲にビビッちまうとはよお。

 まあ、私らも安全な戦いに慣れちまったってことかな。」


「これまでの戦い。

 どう落としどころを見つけるつもりですこと?」


「知るかあ。」


アラリア軍の反撃は厳しく久能は一旦、大勢を整えます。

半月ほど間を置くと再び大和軍はアラリアの勢力圏に進撃。

今度は大した抵抗もなく小谷城まで道が開かれました。


敵も前回の大和軍の威力に戦意を失っていたのです。


「あの撤退からの切り替えは良かった。

 無理攻めしてたら厳しくなっただろうからな。」


「いや、その…。」


スカディの言葉に吉良の表情が曇ります。

それをスカディが訊ねました。


「なんだ?」


「一時撤退を命令したのは、久能さんじゃなく御所様らしいんだ…。」


「う、むう…。」


久能が1日で1千以上も損害を出したと聞き、九厳は久能に撤退を命じました。

この仕切り直しがなければ大和軍はズルズルと苦戦していたかも知れません。

多くの諸将は久能の判断と思って支持しましたが、本当は九厳の命令だったのです。


「プライドを傷つけたかな?」


「御意。」


九厳に久能は、そこはハッキリと明言しました。

九厳はいつも通り、静かに答えるだけです。


「戦術的な失敗は、戦略的な判断で持ち直せる。

 すぐに戦力を強化して解決しようというのは貴殿の悪い癖だ。

 現場主義も良いが、目を覚ましてくれ。


 自分だけが現状を分かっている。

 自分だけが何とかできると思い込まず、僕に相談して欲しい。


 僕はそんなに無能な将軍では、ないよ。」




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