第10話(後編中)
朝倉坊と吉良は安土城に乗り込みました。
今回の葛城御所での将軍・九厳への謁見は大きな意味を持っています。
図らずも歴史的な事件になってしまいそうです。
「教授殿。」
「朝倉様、吉良様。」
お人好しそうな学者風のホットパンツ中年オヤジが二人に握手をします。
テンガロンハットのヴァイキングはラスター族に関して話し始めます。
まず彼らは騒がしい夷という毛野国から離反した部族の一派であること。
次に文化形態からは冷酷な夷という民族の一派であること。
彼らは死の夷と同じく真っ白な肌をしています。
実際、生物的にも近いようです。
白いと言っても黄金の太陽夷のように体の内側から輝くような白でも人間の白い肌とも違う、本当に真っ白な肌です。
彼らは毛野国からは凶暴で冷酷であると言われています。
教授殿の調査でもそれは真実のようです。
まず軍事国家というに相応しい独裁体制が布かれています。
共和制を取り、貴族は居ますが王族は居ません。
次に目上の者は絶対で逆らうことは許されません。
刑罰に厳しく、過失ある者には残酷な刑が下されます。
耳や指などを切り詰められた住民は少なくありません。
ただ快楽として殺戮や暴力を好む死の夷と違い、彼らは純粋に方法として戦闘を選ぶということです。
言葉や態度では相手を判断せず、血で贖うのが法なのです。
「なんだか、怖いなあ。」
朝倉は、ゾゾっとして背中を丸めました。
吉良も腕を組みます。
「アラリアが急に攻撃されることになった件を、どう思ってるんだろう。
そこまで道理を重んじるなら快くは思わないんじゃないかな?」
「いや、酩酊の夷は、あまり快く思われていないらしい。
それにもとから敵対している。
彼らは毛野国が物資を奪うために攻め込んで来たので逃げて来た。
時期に元居た甲斐・信濃の山奥に帰るつもりらしい。」
吉良の質問に教授殿は、そう答えました。
どこまで本当か疑わしいものがありますが、今はそういうことにしておきましょう。
吉良が次の質問をします。
「ところで彼らの指導者に会いたいんだが?」
「そうですね。
案内しましょう。
彼らも待っています。」
教授殿は二人を安土城とは別の場所にある大きな屋敷に連れて行きました。
軍事施設である城とは別の場所に議会を設置しているようです。
「やあ、長老たちに会いに来た。」
通訳の夷が門番たちに要件を伝えます。
ややあって屋敷の中に通されました。
中では長老と呼ばれる指導者たちが待ち構えていました。
後日、吉良とラスター族の使者たちは天磐楠舟で葛城御所に移動しました。
謁見では、吉良は会場の廊下の外側に待たされました。
将軍・九厳の前まで進めるのは、使者たちと通訳だけです。
他にも諸侯に伺候する下級武士たちが、ここで待機しています。
「皆、顔を上げて。」
九厳がそういうと大名たちが頭を上げます。
彼はごく自然な様子で夷たちに話しかけます。
「僕は北条斬真九厳。
大和の全軍の総司令官であり、この国の法を司る者。
率直に2、3質問だけしたい。」
「御意に。」
通訳を務める夷が使者たちに取り次ぎます。
全員、無表情で、ニコリともしません。
これが冷酷な夷という民族なのでしょう。
「君らは人間を食べるタイプのエルフかな?」
「…仰せの通りにござる。」
九厳の質問に使者たちは即答します。
諸侯たちの表情が暗くなりました。
構わず九厳は続けます。
「そう。
ところでどうして今のタイミングで臣従を申し出て来たのかな?
これまでもタイミングはあったと僕は思うんだけど。」
「大和は夷の臣従を過去に許したことはないと。」
「ごめん。
僕が間違っていた。」
九厳は、少し考えてから最後の質問をしました。
「仮面兵という技術を君らは、どう思う?
人が人を造り、生命を自由に支配する超常の神の威力だ。
やがては人だけでなく動植物、家畜や農作物すら大量に供給するだろう。
戦争も労働も人工的に作られた彼らによって担われるかも知れない。
それらがもたらす素晴らしい利益に比べれば、僕らの下らない倫理観など取るに足らないものだろう。
だが、度を越えた力を手にした者が壊れていたら?
世界もまた壊れてしまう。
君らは、どう思う?」
複雑な質問でしたが、使者たちは即答します。
ただ通訳は、やや困った様子で言いました。
「…ええっと。
技術を安全に支配できるという考えには同意できない。
その部分に関してのみ、閣下とは意見が異なると。」
「…詳しく意見を聞きたいな。」
九厳がそういうと使者の一人が通訳を通して答えさせます。
「誰でも必ずミスを犯すと。
だから、それを理由に力を取り上げても社会が発展しないだけではないかと言っています。」
「うむ。
…実に開明的な意見だ。」
すると九厳は、こう注文しました。
「それほど開明的な夷なら、今後は人食を控えて頂けると嬉しいが…。
はっはっは…。」
九厳は困った顔で笑いましたが使者たちは、クスリともしません。
終始、表情は凍り付いています。
今度は使者たちから九厳に言いたいことがあるようです。
九厳は、頷きます。
「閣下、彼らからも進言したいことがあるようで…。」
「どうぞ。」
パン。
乾いた音が謁見の間に響きました。
夷の手には見慣れない道具、拳銃が握られています。
上段に座っていた九厳は、首から上が吹き飛んでいます。
背後には白い蜘蛛の巣が飛び散り、壁や天井にまで蜘蛛の糸がかかっていました。
その糸を伝って白い蜘蛛たちが九厳の欠損した部位に集まり、元の頭の形に復元します。
その間に蜘蛛の糸が謁見の前を覆い、全員の動きが制止されます。
白い蜘蛛が床を這い、九厳の前に集まって行きました。
「…取り敢えず…。
珍しい道具だね。
その道具の説明を聞こうじゃないか。」
九厳は蜘蛛が持って来た拳銃を手に取ります。
我々が想像する直線的なフォルムと違い、わざわざ植物や自然石のような意匠が施されています。
ツタや葉を模した彫刻が銃身に施され、美術品のようです。
「同じ道具を久能兵庫頭様の配下の武士たちが何挺か所有しています。
ドラゴンブラスターと呼ばれる武具です。
本物は科学的に反応させた炸薬を利用して粒子を放ちます。
目に見えないほど小さな物体の粒です。
命中すれば対象の構造を破壊して溶解させます。
これは毛野国軍の話を参考に基本的な構造を再現したものです。
炸薬を利用して金属製の弾丸を飛ばします。」
「ほう。」
九厳は手元の拳銃を調べます。
石弓から弦を取り外したような形の武器、というのが九厳の感想でした。
「威力は問題外だな。
術で強化された侍の身体には何の効果もない。」
「実戦では、それを大型化した兵器を用います。
攻城兵器です。
重さは五〇目、距離は約3里半。」
1目=3.75gとして約200g。
1里=533mとして約2km。
「また炸薬は弾を飛ばすだけでなく、それ自体が武器となります。」
「仮面兵と違い、平和利用できそうにない技術だね。」
九厳はそういうと拳銃を夷たちに返します。
彼にとって玩具のようなものと変わりありません。
「我々にはこれだけの技術力があるのだ、ということをまず大和に知らしめたく。」
「僕が死んだらどうするつもりだったの?」
「それがそのままラスターの威信に繋がります。」
どうも剣呑な民族です。
夷と人間では、やはり考え方に差があるようです。
しかし九厳は、穏やかに答えます。
「新しい物を見せて貰って、面白かった。
君らのような技巧に長けた民が大和に従うならば、歓迎したい。」
蜘蛛の糸が全て九厳の身体に吸い込まれて行きます。
全員の拘束が解かれました。
夷たちは、平然と頭を下げます。
諸侯は戸惑い、困惑の目で九厳を見つめます。
彼は答えました。
「何もなかった。
何もな。」
九厳は、ラスター軍を含めた各位にアラリア攻略を正式に布告しました。
アラリアは無法を訴えましたが、聞き入れられませんでした。
久能と九厳は、虚偽の情報を開示したのです。
アラリアは偽りの罪を着せられ、許容できない異文明であるという理由で滅ぼされることになりました。
確かに彼らは荒廃した文化を持っています。
しかし滅ぼせるような大罪を犯した訳ではありません。
『大和こそ人面獣心なり!』
アラリア王モサは叫びました。




