第10話(中編中)
「おおう、やってるなあ。」
夜。
ニリナス王は彼に従う部族民たちに夜襲を命じました。
夜目が訊く夷の常法です。
スカディも警戒していましたが、流石に激しい攻撃です。
「考えてみりゃ、夷は不老なんだっけか?
20万いりゃそっくりゲリラ兵になる訳だ。」
投石、矢束が次々に降り注ぎます。
よほど装備が足りないのか皿や壺などの陶片も降って来ます。
「馬鹿が。」
大声をあげ、大和軍の眼前まで走って来た夷が槍、魔法の餌食になります。
狩猟民として弓には覚えがあるようですが、所詮はゲリラ兵。
軍法も知らず、蛮声を上げて恐怖を紛らわし、血に酔って死んでいきます。
まさに無法。
当然のように無残な最期。
「静、初、梅。」
スカディが呼ぶと3人の女武者が騎馬で駆け寄って来ます。
「ルスランの平野親子のところに手を貸してやれ。
あと第5陣は誰だったか?」
「太田何某とかいう、針間の侍です。」
「あああ、どうでもいいから言ってやれ。
数が増えると面倒だなあ。
チキショー!」
黄金の大きな武具を振り回し、スカディが敵の隊列に突っ込みます。
大した反撃も出来ず、夷たちは散り散りになります。
夜目が効くはずなのにお互いにぶつかり、相手の武器が刺さって動けなくなった者たちが地面に崩れ落ちます。
『いぎゃあああ!』
『痛いッ!?
何でえええ!!』
『ぐがあああ!?』
後ろから走って来た仲間に背中を刺された夷が倒れます。
別の場所では味方に矢弾を誤射する集団までいます。
『こっちは味方だー!』
『やめ、がうッ!?』
『こっちに逃げてくるなー!』
スカディは呆れながら首の骨をゴリゴリっと鳴らしました。
なってねえ。
まさに烏合の衆、それ以前のレベルです。
逃げることも戦うことも出来ません。
ただ夜寝の邪魔をしただけです。
「こいつらのせいで寝る間もねえのか。
やってられねえぜ。」
指揮官もなく、騎馬も見当たりません。
ただ雑兵が、鎧も着けていない百姓がいるだけです。
「まるで草刈りだな。」
大和軍の術士たちが大きな光球を打ち上げます。
夜戦用の光源です。
皆、思わずゾッとしました。
辺り一面に夷どもがウヨウヨと集まって来ていました。
隊列もクソもありません。
ただ横並びに集まって団子状態になっている集団、人の塊です。
その何千という夷の顔が、じっとこちらを見ています。
「なんだこりゃ、なんだあ!?」
「なんで、こんな近くまでっ!!
密集して…ッ!?」
思えば陶片を投げつけられる距離まで来ているのです。
正気ではありません。
「突撃だ!」
明るくなったところで大和軍の騎馬が突撃します。
右往左往に逃げ惑う夷たちがお互いに傷つけ合い、イモ洗い状態で死んでいきます。
一度、倒れれば味方に踏み潰されるだけです。
『誰か、手を貸してー!』
馬鹿な奴。
倒れた味方を助けようという殊勝な者がいました。
きっとあのまま叫んでいれば、いつかは誰が手を貸してくれるでしょう。
しかし勤勉な大和兵が二人を惨殺します。
まあ、放っておいても良かったのですが。
「何も殺さなくても良いだろう。」
スカディが味方に声をかけます。
男は、せせら笑って答えます。
「へへへ、夷の言葉を一つ覚えました。
『誰か手を貸して!』。」
「おお、私もそいつは覚えておこう。」
陸戦が混乱の最中にあって空はまだ静かです。
数百の大和軍の鸞兵が飛び交い、敵の数や場所を調べます。
「畜生!
数が多過ぎだッ!!」
「めむいのですぅ。」
「遊ぶなッ!
敵の退路を塞ぐぞッ!!」
鸞兵部隊が逃げ道を塞いだことで先頭集団が逆流。
夷たちは前から来る味方と衝突します。
『バカー!』
『味方だぞー!』
『止めろ、止めろ!』
さらに騎兵が殺到し、無秩序は度合いを強めます。
朝になるとおよそ9千居た夷のゲリラたちは何もしないまま半分に減りました。
「よく9千も集まったな。
いや、文字通り集まっただけだ。
ニワトリみたいな連中だ。」
スカディは両手を腰に当てて、大股開きで血塗れの捕虜たちを見下ろします。
彼らの足元には、彼らの仲間の死体が転がっています。
「取り敢えず臭い。
こいつらに穴を掘らせろ。
まず便所、次に墓穴だ。」
「スカディ様は?」
「こいつらが心を込めて掘った穴に、一番にクソするッ。
それまで寝かせて。」
「御意。」
スカディは、その場でぶっ倒れると驚くべき早さで眠ります。
小姓が寝ている彼女の鎧だけ外しました。
このままだと鬱血します。
「払暁作戦の可能性もある。
警戒を解くな。」
ルスランが珍しく多弁します。
副長は、少し驚いて部下に命令を徹底させました。
「ルスラン様はお眠りに。」
「…まだ。」
「御意。」
各処の指揮官たちは警戒を続け、気を引き締めます。
というよりも、神経質にならざるを得ません。
対して、ニリナス王は吉報を待っていましたが予想に反する報告に落胆し、不貞寝しました。
ですが、ここで伏せていては首が危うい。
家臣らに見限られる前に1千の正規兵を招聘します。
9千のゲリラの中に正規軍も混じっていたのです。
これが残る全兵力でした。
しかしアラリア王は国境の守りが薄くなったのを確認すると8百の兵を送り込みます。
琵琶湖上と陸路の両方からニリナス王の領地に侵入しました。
アラリア王の軍は軍用犬を連れています。
彼らはお楽しみ用ではなく、戦闘用の訓練がなされています。
『おぼじかわしい?』
『ちょー!』
『かわそばあ…。』
大和の侍に似た、胴丸を身に着けたアラリア兵たち。
しかし彼らは夷の言葉でも人間の言葉でもない謎の奇声を上げます。
『ぽーい!』
棍棒で逃げ惑う夷の頭をたたき割り、長剣を腹部に突き立てます。
犬たちが追いかけ回し、膝を着いた夷の首に飛び付きます。
村の広場では死体が集められます。
『ちんぽ斬るじょ!』
古代ローマなどでは蛮族の男根を切り取って薬として取引すると言います。
今でもウサギの脚を幸運のお守りと呼びますが、これはウサギの脚を股間にぶら下げた風習の名残りだとか。
『びょおおおおッ!!』
サングラス、その上に頭陀袋を被った兵が大きな包丁で敵兵をミンチにします。
犬のエサです。
敵兵の肉を食った犬は、敵の味を覚え、敵を倒すと肉が貰えることを学びます。
『よくやったじょ。』
アラリア兵たちは犬を褒め、肉を与えます。
この場面だけ切り取って見ると、実に美しい光景です。
アラリア兵たちは、まるで財宝を運び出すように切り取った敵の男根と睾丸を箱に詰め、後方に送ります。
干して薬として売り出し、儲けは生き残った兵や家族らに充てられるのです。
牛、豚、鶏など家畜も運び出されます。
もちろん鍬や刃物などの貴重な金属類も徹底的に探し出します。
荷物で溢れる荷車を押し、アラリア兵は退散していきます。
彼らだけ特別という訳ではないのですが。
流石にここまで徹底的なのは珍しいでしょう。
スカディは、ほぼ無傷のまま8千の兵を率いて大溝城に迫ります。
こちらも道中で奪った家畜を兵らに振る舞います。
「この人数で別けると心許ないな。」
「あら。
無茶は言いっこなしですことよ。」
杏がスカディに言います。
気取っているくせに普段のビンボーな暮らしが透けて見える奴です。
「スカディ様、アラリア軍の使者が来ました。
通訳も呼んでおります。」
「おお、飯食ってる時に面倒だな。
畜生、待てよ。」
スカディが場を切り上げて駆け足で出て行きます。
向かった先には眼つきの悪い、というか顔色の悪い夷たちが待っていました。
生まれつきとか体調とかではなく、麻薬の影響でしょう。
『ちょ、ぎょぷり。』
手足が震えています。
スカディも眉を吊り上げ、鼻の下を指でこすりました。
「よお、お前らがアラリアの使者殿か。
私はスカディ。
この先遣部隊の大将だ。」
通訳はスカディの言葉を伝えますが、中々返事が返って来ません。
あまりに時間が長く経ちます。
「おい、何やってんだ。」
『セックスしたい。
あの女、めちゃくちゃ犯したいっちゅ。』
『じょぼぼぼぼっぼぼ…。』
『おっぱいデカいにゃああああああ!!』
『かゆうま。』
『お、おい。
通訳できないだろう。
何を考えてるんだ、貴様ら。』
スカディも不審に思って通訳に訊ねます。
「なんだ。
どうしだ?」
「あの、その…。
酩酊の夷は、よくこういうことがあるのです。
後で出直しますから、ここは引き上げさせていただきます。」
通訳が気を利かせてアラリア軍の使者たちは引き上げて行きます。
しかし、スカディたちはアラリアに対する信頼を落としました。




