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第9話(後編中)




「退けえええッ!」


10日間、南和で激突した久能勢と北条方は進展のない戦いを繰り返していた。

終始、猛攻する久能勢と敬遠を続ける北条方は噛み合いません。


しびれを切らし、決戦を挑むべく使者を久能は出します。

ですが当然、九厳は決戦には応じず、動こうとしません。


「この調子だと1年はこのままかも知れんなあ。」


スカディが呆れながら言いました。

隣では杏と尾崎が話しています。


「朝倉殿の投石機は、どうなってますの?」


「…こうもボコボコ壊されるんじゃ、堪らないって。」


遂に攻撃の手も失いました。

やはり、無理だったのです。


「御所側から停戦の使者が来たぞ。」


吉良が四人に告げます。

四人とは、スカディ、杏、尾崎とずっと黙っているルスランです。


「遂に動いたか。」


スカディは鼻の頭を指で掻きます。

問題は北条九厳の条件です。


「条件は?」


「…エミリーさんと久能さんが話し合ってるだけで、諸王の武将たちにも明かされていない。」


吉良がそう答えると全員、ため息を吐きます。

杏が苛立ち紛れに言います。


「まあ、おおよその予想は着きますことよ。」


「その心は?」


尾崎が訊ねると杏は即答します。


「諸王との同盟を解いて、幕府の軍令に従うことでしょう。

 右大臣は、もう勝った気でいらっしゃることッ。」


実際、杏のいった通りの条件が含まれていました。

幕府の許可なく行われた同盟を解き、停戦命令に応じること。

これ以降は、幕府の指揮下に入り、独自の戦線拡大を控えること。


「…たった半月足らずの戦闘で勝ったつもりでいるのか?」


「お互いにつまらぬ意地の張り合い。

 兵庫殿は、幕府の命令に従い、己の勝手な振る舞いを詫びられよ。」


使者として送られたのは九厳の長男、北条厳景です。

将軍の跡継ぎではありませんが、将軍家一門では交渉役として活躍しています。


「右大臣様に伝えよ。

 こちらは大した損害はなく、戦意もいささかも衰えておらぬ。

 頭を下げさせたければ、葛城御所から打って出て来るがいい。」


久能は強固に突っぱねると厳景も退散しました。


「どう思う?」


「…信じられませんが、本気かと。」


久能の質問にエミリーが答えます。


「本気?」


「北条九厳は本気でこちらに和平を求めて来ております。

 こちらの動揺を誘う目的はないようかと。」


「なぜ?」


久能がやや慌ててエミリーに問います。

エミリーはアゴを揉みながら答えました。


「…彼の性格としか。」


要するに平和な時代の大君としての振る舞いが身にみついているのでした。

世襲制君主は、何も新しいことをしなくとも権力を継承出来ます。

それ故に、何もしなければ誰からも責任を問われることもありません。


この戦争も余計なことをしなくてもいい、と考えているのです。


「惰弱なッ。」


「…雪姫様も言ったように、夷軍の行動は、恒久的な侵略がためにござらぬよう。

 おそらく九厳もそう考えているのではござらぬかと。」


エミリーの意見を聞きながら、久能は額を指で叩きます。

しばらくして口を開きました。


「…大阪は?」


久能の質問に答えたのは、彼女の影でした。

影の中から風魔の三夜が顔を覗かせます。


「アズルドヴェインは北九州を攻めていた軍勢と合流しています。

 大阪には十二神将の一人、リグニ・ルビリュコンという将軍が入っています。

 …くっくっく。」


三夜が笑います。

嫌な笑いだとエミリーも顔をしかめます。

久能が言いました。


「何か気になることがあったようだな。」


「あー…。

 伊都国は南から隼人の侵攻を受けて、これ以上持たないようです。

 御所様が和平を急ぐのは、むしろこちらに理由があるのかと。」


「エミリー。」


三夜の報告を受けて、久能がエミリーに意見を求めます。


「そもそも、こうなったのも九厳が積極性に欠けたからでござる。」


「…いや、停戦に応じよう。」


「殿、この程度は最初から分かっていたことのはず。

 第一、停戦しても九厳が九州を救うとは限りません。

 殿や吉備国もどうなるか。」


エミリーは冷や汗をかきました。

幾ら何でも繊細過ぎます。

というより、考えがなさ過ぎると言えました。


こんなあっさりと停戦するなら、最初から御所と戦うべきではなかった。

何のために動いたのか分かりません。


「九州に向かうと条件を着ければいい。

 …それで御所様が断れば、こちらに大義があるということになる。」


「…帝を九厳が抑えたら不利になります。」


「では、御所様には葛城御所に残って貰う。」


「そんな条件、九厳は入れませぬ!」


エミリーは反対したが、久能はこちらの条件を相手に申し伝えた。

吉備王子の一人が葛城御所に向かい、久能の意向を伝えます。


ややあって、九厳は返答を出しました。

再び厳景が久能の前に送られます。


「御所様のお答えとしましては…。」


九厳の条件は変わりません。

重ねて同盟を解き、幕府の命令に応じること。

九州の戦闘に関しては、九州以外でも戦闘は繰り返されており、独自の判断は許さないとのこと。


ただし、自分は南和に留まるので、帝の近衛と山城国の夷掃討は支持する。


「つまり、吉備国と山城国の守備…。

 このまま畿内で戦えと?

 敵の王を討てと、何故お命じ下さらぬ!!」


「御所様のご意向だ、兵庫殿。

 受け入れられぬのであれば、更なる戦闘続行も止むを得ない。」


「再戦だ!!」


久能と九厳は紛糾します。

さらに1週間戦闘が続き、やはり決め手に欠けるまま、ズルズルと長引きます。

兵器を失い、制空権を取られ、補給まで邪魔される久能勢は数の有利も維持できなくなってきました。




「…私の実力では、九厳を倒せないのか…。」


「まだ二月ふたつきも戦ってねえじゃねえか。」


弱気の久能にスカディが言います。

しかし、反対意見は抑えられません。


「御所様の命じる通り、山城国や近江国に向かおう。

 …結果としては、それが九州を援護することに繋がるけえ。」


「いや、出雲軍と行動を共にするとは限らないのでは?」


伊邪奴が出雲の武将に言います。

相手は、こう答えます。


「同盟を解けといっちょるけど、御所様も畿内の回復を優先するじゃろう。

 九州なんぞより。」


九州の皆さん、お許しください!

ですが、帝や九厳にとって僻地の戦闘より、畿内の方が重要です。


「九州のことは…、まあ、劣勢で可哀そうじゃが戦略的に意味はないじゃろ。

 なんといっても大和の中枢である畿内を取り戻さんと。」


「ううむ…。」


久能も、正義感やヒロイックな意見を抑えなければなりません。

九州は見捨てる。

それが結論でした。


「ほ、北条方に条件を飲むと伝える。

 …九州には向かわず、今後は狗奴国三州、山城国、近江国の回復に努める。

 戦闘を停止し、ここから撤退する。」


久能の意向を受け、北条方は了承しました。


「お互いから人質を出したいのですが。」


「こちらからは吉備太子・都支午利トシゴリを出す。」


久能の形式上の夫で、吉備の王太子です。

肉親のない久能にとって唯一、人質になれる資格のある人物でした。


「承った。

 …こちらからは、某の息子の斬四郎ざんしろう十完みつさだ様の御子、斬八郎様、御所様の御正室、乃生局のうのつぼねを出そう。」


北条斬四郎は、九厳の長男・厳景の息子。

北条斬八郎は、次期将軍、十完の息子。

乃生局は、武田の出で十完と広厳の母で九厳の正室です。


「…承知したと右大臣様にお伝えを。」


久能にとって苦々しい現実を思い知ることになりました。

自分はこんなにも弱かったのです。




九厳は、葛城御所から動きませんでした。

本当に条件を飲んだのです。


「…正直、帝や公卿衆にはうんざりしてたんだぜ。

 御所様としては、南和の暮らしの方が色々と都合が良かったのでは?」


三夜がそういって肩を揺すりました。

スカディも小馬鹿にしたように笑います。


「ふっふっふ。

 大人しい将軍様だ。」


人質の斬四郎、斬八郎は5歳と3歳の子供。

ルスランの黒猫にあやされ、岡山城に連れて行かれます。


「乃生局も岡山城に連れて行きましょうか?」


「いや、連れ出されても困る。

 御台所みだいどころ様には、伏見城に入って頂こう。」


伊邪奴が久能に訊ねます。


「まだまだ京は危険です。

 岡山城に入城して頂いた方が安全であります。」


「畿内から外に出たくないそうだ。」


久能の返答に伊邪奴は複雑な表情を見せます。


京では、朝倉坊がねていました。

兵器の材料に資材を使い尽くし、街の復興どころではなかったからです。


「…殿、俺は何をすれば…。」


「合戦は終わった。

 …資材に関しては、何とかする。

 すまない。」


朝倉は手で頭を掻きます。


「どうせ、大阪城を攻めるんでしょう?

 …資材は全部、そっちに回しますよ。」


「…すまない。

 貴様のしたいように進めさせてやりたいが、戦時下だ。」


「いいえ。

 俺も殿に命を救われた身。

 やらせてもらいますよ。」


久能は、朝倉の様子がおかしいと思いました。

しかし、あの年の男の子の事です。

気難しい年ごろと思って、妙に突っかかるのも見過ごしました。




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