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第9話(後編上)




南和での合戦は半日で久能勢不利に傾いた。

しかし4万余の大軍を包囲するのは、流石に不可能で各処で北条方の目論見は崩れていった。

結局、数の前にはどんな戦術も通用しないのです。


「伊邪奴様とスカディ殿は捕まりましたが、エミリー殿や出雲軍は葛城御所に迫っています。」


「順調とはいかないが、大方予想通りだな。」


久能の本陣も葛城御所に向かって前進します。

しかし、流石に味方を放ってはおけません。


「エミリーにはスカディらを助けるように命令しろ。

 …仮面兵とはいえ、むざむざ殺させる訳にもいかないからな。」


「御意。」


久能の命令を受けて伝令が本陣から離れていきます。

久能は上を見ます。

相変わらず、敵方の艦がこちらの動きを監視しています。


「…罠か。」


考えても仕方ありません。

御所を抑え、北条方の戦意をくじかねば。


「押し出せー!!」


久能は本陣をさらに前進させます。

しかし案の定、北条方の艦隊が着陸して道を塞ぎ、久能を閉じ込めます。

とうとう出雲軍だけが葛城御所に到達します。


「スタンフォード殿はどこじゃ?」


「途中で転進したようですけえ!」


出雲軍は逡巡しました。

これでも十分に数は勝っています。

しかしまさか久能を勝たせるために自分たちが奮戦することになるとは。


「これは上様の作戦じゃ。」

「ほうじゃほうじゃ!」

「構わんから、突撃してまえ!」


「待ってつかあさい!」

「ほうじゃほうじゃ!」

「何の義理があってワシらが久能のために将軍殺しまでせんといかんのじゃ!!」


諸将の意見は別れます。


「じゃが、ここで勝たんと皆、死ぬ。」


「ほうじゃほうじゃ!」


中年の武将が上席の老将に困った表情で言います。


「爺様、ほうじゃほうじゃ!ばかりじゃろうが。

 止めてつかあさい。」


「ほうじゃほうじゃ!」


「ダメじゃあ、爺様は耄碌もうろくしとる。」


出雲軍の大将である出雲王弟は、これ以上、待っても事態は好転しないと考えます。

ですが、やはり最後の踏ん切りが着きません。


「…ここで貧乏くじ引いても面白くないのう。

 大勢を立て直すついでに後退じゃ。」


出雲軍は戦意に欠け、葛城御所を前に後退します。




この日、久能勢は攻めあぐね一旦、後退します。

損害は攻城兵器が中心で、人的には軽いものでした。

むしろ補充の仮面兵が回され、兵数は回復したのです。


「勝てんぞ、こりゃあ…。」


撃退したにもかかわらず北条方の士気は低いままでした。

無限の回復力を持つ久能勢に対し、兵と艦を何隻も犠牲にしただけですから、当然でしょう。


着陸した軍艦は船底の艤装が壊れていますから、戦力は落ちます。

また空に戻っても邪魔になるだけです。


「そもそも相手が5万近いのにこちらは1千…。」

「守り切れるのか?」

「今日も途中で出雲軍が引き返したから良かったものの…。」


あるいは攻めを急がなければ、北条方は崩壊したでしょう。

しかし、神ならざる久能にそんなことは分かりません。

エミリーは強攻を薦めます。


「敵は今回のことで勢いづいたはず。」


「うむ。

 相手にとっては30倍以上の敵を押し返したのだ。

 悔しいがな。」


久能もエミリーの意見を入れます。

スカディもそこに続きます。


「ようはどっかの部隊が葛城御所を蹴っ飛ばせば済むんだろ?」


しかし、ここで伊邪奴が反対意見を出します。


「義姉上、ここは大きく迂回して多角的に攻めるべきかと。」


「はあ?

 数の利を捨てるっていうのかよ。」


スカディが腕を組んで鼻息荒く抗弁します。

確かにわざわざ兵力を分散するようなものです。

しかし、このまま大挙して突進してもたどり着けそうにありません。


ですが、エミリーも反論します。


「制空権を奪われている以上、分散しても敵に動きは筒抜けでござる。

 無駄かと。」


「確かにその通りでありますがあ…。

 しかし、これでは今日の失敗を繰り返すだけであります!」


要するに動きが筒抜けなので、どんな戦術も通用しない。

動きが遮断されるので数の利も活かせない。

敵を突破するには、敵のミスを待つ、運に頼るしかないのです。


「幸い、こちらは数においても戦意においても敵を上回っています。

 粘り強く攻勢を繰り返せば、敵は必ず崩壊します。」


エミリーは力説します。

しかし、それは蛮行と変わりありません。


「何かキラリと閃く策は、ないんでありますかあ?」


「冒険を冒す必要はない。

 このまま攻め続ければ敵は倒せる。」


エミリーはそういって伊邪奴を説き伏せます。


「…敵艦隊を何とかできませんこと?」


「向こうの方が大型艦が多いらしい。

 艤装を朝倉坊が改良したが、結局は近づくこともできねえってさ。」


杏の問いにスカディが答えます。

折角、改造したのに相手にもならないとは可哀そうな話です。

杏がまた質問します。


「近づくことも出来ないって?」


「デカい船にデカい投石機積んでるんだから近づけねえだろ。」


「はあ?」


杏が呆れたように顔をしかめます。

艦隊を指揮する吉備王子たちを睨んで言いました。


「近づいてもいないんですの…!?」


「無理であります。」

「無茶であります。」

「無謀であります。」


そこに伊邪奴とエミリーも間に入りました。


「弟たちを責めないで欲しいであります…。」


「まあ、無理を押しても勝ち目があるとも思えんしな。」


「な、なんですってぇ…!!」


杏は憤りました。

今日、あれだけ上から攻撃を受け、動きを偵察されていたのに味方の艦隊は何もしていなかったのですから、当然でしょう。


「てっきり死力を尽くして勝てないものだと諦めていましたのよ!?

 それが実は様子見程度で引き下がっていましたの!!」


「無謀だ。」


エミリーが反対します。

しかしスカディが杏の方に肩入れしました。


「なあ、どうせ見てるだけなんだろ?

 だったら突っ込ませちまえよ。」


「…無茶な。」


わたくしたちは正当な要求をしているだけですことよ!」


ここに黙っていた吉良と尾崎も宣戦します。


「エミリーさん、ここは空軍にも無理して貰えないだろうか?」


「そうよ!

 今のままじゃ勝ち目はないんだわっ!」


流石に久能が助け舟を出します。


「皆の意見は分かる。

 だが今、こちらの艦隊が敵に挑んでも勝ち目はない。

 無駄なのだ。


 地上戦で巻き返さない以上はな。」


久能が言うのでは、一同、諦めるしかありません。

しかし久能も艦隊指揮官らに告げます。


「しかし、あまりに消極的でも困る。

 敵の動きをもう少し牽制せよ。」


「了解であります。」

「御意であります。」

「怖いでありますが…、頑張るであります。」


敵は空、こちらは陸で数を武器に押し込むしかありません。

お互いに鮮やかな会心の一手というものがない合戦でした。




久能は一日、戦った後だというのに疲れを知りません。

連れて来た下女を寝所に侍らせます。


「…悪い御殿様。

 合戦の間に情交するのは禁忌じゃないんですか?」


「収まりが着かない…。

 手早く済ませてしまおう。」


下女は陣屋に用意された畳の上で座り込む久能の前に近づきます。

そして、クスクスと苦笑いしながら手を伸ばしました。


情けない。

久能はそう思いながらも、そんな自分を差し置いてこれを楽しんでいる自分がいることも嫌という程、理解していました。


しばらくして下女は、久能の傍を離れました。

床に着いた白い露を下女が始末します。

気怠い表情をした久能が礼を言います。


「…ありがとう。

 もう、下がって良い。」


「はい。」


下女が下がると久能も畳の上で横になります。

ああ、虚しい快楽に流されてしまった。

気を吐いた後は、無性に悲しくなってきます。


久能がそう思っていると低い声がします。


「ボス。」


久能が寝返りをうって向きを変えるとエミリーの部下の一人の女海兵がやってきました。


「…止せ、私は寝る。」


「ボス、誤魔化しても分かってますぜ。

 女を欲しがる男のギラついた目線。

 さっきの下女だって…。」


女海兵の切れ込みの鋭いホットパンツに思わず目が行ってしまいます。

久能の眼の色が変わりました。

女はそれに気づいて、すすっと久能の身体を抱き寄せます。


「…気を使うな。」


「じゃあ、勝手に始めさせてもらいます。」


二人は、そのまま一緒に過ごし、夜が更けていきました。




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