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第8話「変身だァァッ!」(後編下)




『なんだあ。』


アズールの前に現れたのは、2万の吉備軍。

たった数日で2倍になった久能勢にアズール勢は圧倒されました。


三原城も落城し、広島城の前まで久能は迫ります。


『4万!?』


アズルドヴェインも飛び上がります。

別動隊の伊邪奴イヤナ勢も加わり、久能の軍勢は大挙して広島になだれ込みました。


『大和が尾州戦で繰り出した数より多いぞ!

 いったい、どこからそんな大軍が出て来る!?

 何をトチ狂ったというのだ。』


しかし広島全軍の夷の方が、数の上では優位です。


『出雲軍を押し返せ。

 吉備の圧を一先ず抑えれば、まだ耐え切れる!』


『無茶です。』


協議の末、光将ゴドリックが城を守り、国王自らが出陣し、久能を迎え撃ちます。

戦いは経験に勝るアズルドヴェインが優位に進めます。

伊邪奴、久能の両軍は、連携の隙を突かれ、崩壊しました。


しかし、すぐに失った兵を取り戻し、吉備軍が押し出してきます。

アズルドヴェインは嫌な汗が止まりませんでした。


『2万7千…?』


久能勢は吉備王子たちが一部分散し、広島城に直接攻撃を仕掛けました。

丸見えの誘いです。

しかし、アズルドヴェインを驚かせたのは、正面にまだ3万近い敵が残っていることでした。


先の合戦で1千は戦死者が出たはずです。


『城にはどれだけの敵が向かった?』


『2万以上かと。』


馬鹿な。

戦死が1千なら負傷は、その倍以上だぞ。

アズルドヴェインは目を白黒させます。


『敵は3千以上の損失を出したはずだ。

 逆に全体で5万以上に増えたというのか。

 …百姓兵でも動員しているのか?』


だとしても兵糧は?装備は?

いったい、どんな魔術を使ったというのか。


かつてイザナギはイザナミと別れる時、イザナミが1000人の人間を1日で殺すなら1日で1500人を殖やそうと答えたといいます。

今の吉備軍は、本当に日に1500人近く数が増えています。


「人の命を、こうも容易く支配できると…。

 やはり雪姫様は正しかった。」


久能は感傷地味たことを漏らしました。

副将たる伊邪奴が言います。


「義姉上は、勝つために最善を選ばれただけであります。

 雪姫の正義は、所詮はきれいごとであります!」


「そうだな。

 …武家にとって、勝利より優先すべきことなど何もない。」


久能は仮面兵の大騎馬軍団と共にアズルドヴェインと雌雄を決するべく、突撃します。


次々に仮面兵たちが倒されて行きます。

皆、久能が女たちに産ませた子供です。

精強なる仮面兵も重装備の夷軍には太刀打ちできないようです。


もはや損害を気にせず戦える数の利だけが、久能勢の武器でした。


『気味の悪い仮面だ!』

『畜生!ちくッ!?』

『数が、多過ぎるー!!』


先頭を行く久能が敵陣を切り裂きます。

もはや膂力、体力においても並みの人間が及びません。


「ぼはッ!」


急に馬が倒れました。

久能の体力に軍馬の方が着いていけず、倒れてしまったようです。


「ち、もう倒れたか。」


久能は徒歩かちで敵の騎馬に立ち向かうと数トンはある敵騎兵と渡り合い、打ち倒します。

そのまま馬を奪うと力づくで馬を従えます。


「もはや、何の言い訳にもならぬが、才なき私がこの争いを終わらすには、敵国王を撃つよりないのだ!」


久能はアズルドヴェインを見つけ、名乗りを上げます。


「そこに見えるは敵の大将か!?

 私は吉備軍大将、久能兵庫ぉー!!」


アズルドヴェインも久能を見つけて馬を取って返します。


『敵の総大将か。

 …この終わらぬ戦いを、終わらせるにはお互いに道はないようだっ。』


アズルドヴェインは偽蜻蛉切にせとんぼきりを構えます。

そのまま真っ直ぐに突進し、途中の仮面兵も吉備兵も薙ぎ倒して久能に向かって行きます。


『ほおおお!!』


「いざー!!」


一年近く前、横山城で死にかけていた頃には思いもよらない事です。

いまや自分が大和と夷の決戦の場に居ようとは。


「テーストォ!」


『ぬおあッ!』


何度か切り結び、二人は下馬して再度、戦います。

アズルドヴェインは腰の長剣を抜きます。

灰銀鋼で作られた、美しい剣です。


『神よ、我に力を…。』


祈りを込め、アズルドヴェインは久能の槍の穂先を切り落とします。

久能も大刀に武器を替え、素早く反撃します。


「ふあッ!」


『無駄だッ!』


やはり分厚い夷の鎧に弾かれます。

アズルドヴェインは装甲の厚さを利用し、久能を疲れさせようと巧みに立ち回ります。

焦っても致命打を回避され、久能は疲労だけが蓄積していきます。


しかし、アズルドヴェインも重装備で消耗が激しいはずです。

鎧のせいで命を落とした兵も少なくありません。


「そうか。」


重さ、重力の影響を吸収する、そういう術か。

アズルドヴェインは、どんな装備も関係なく扱えるのです。

ただ地面や馬は耐えられないので、この程度に装備を抑えているに過ぎないのでしょう。


『そうだ。

 余に重装は関係ない。

 死ね、野蛮人め!!』


アズルドヴェインは軽快に、疲れを見せることなく攻め続けます。

久能は苦し紛れに雷撃を放ちますが、アズルドヴェインに届く前に弾かれます。


『なんだ、これは。

 子供が親に覚えたばかりの術を披露か?』


アズルドヴェインの一撃。

久能は、そのまま明後日の方角に吹き飛んで消えました。


結局、アズルドヴェインの首を奪えず、吉備軍は2度目の決戦に敗れました。

しかし吉備王子たちは広島城に損害を与え、食料庫を焼き払いました。

アズルドヴェインは、広島城の拠点としての機能を奪われ、大軍を支えることが出来なくなったのです。


『ガルナスに伝えろ。

 …出雲軍はそのままに撤退を。

 伊邪国イヨに逃れて大勢を立て直す。』


闇将ガルナス、光将ゴドリックを加え、アズルドヴェインは四国の伊邪国に引き上げます。

文章では簡単ですが、それこそ血の飛び散る死戦でした。


吉備王子、出雲軍は空中艦隊を繰り出し、伊都国の大友も水軍で迫ります。

しかしアズルドヴェインは海戦でも大和を圧倒します。

味方の退却と頭上からの攻撃に苦しめられつつも、本州から撤退することに成功。


追撃する大和軍は、伊邪国の前で停止します。

伊邪国は両属の立場を取っており、夷、大和のどちらにも着いていません。

ここで完全な敵に回られると大和の方が苦しくなります。


『大陸から、残る十二神将を呼び戻すのだ。

 何としても大陸への海路を手に入れ、この島から大陸に道を開く。』


アズルドヴェインは檄を飛ばし、大陸の軍団で北九州に集中攻撃させました。

大量の朝鮮人、中国人の俘虜兵が投入され、伊都国の兵士たちは、その凄惨さに鼻白みました。

飢え、病に苦しむ俘虜兵たちが敵と味方の間でバタバタと死んでいくのです。


「夷は鬼畜ぞ。」


伊都国の大友は吐き捨てるように言いました。


「薩摩隼人は何とかならんのか?」

「…交渉できませぬ。」

「夷は鬼畜、隼人は動物以下だ。」


大宰府の諸将は項垂れました。




主戦場は広島周辺から北九州に移りました。

しかし吉備軍は、矛先を大和葛城に転じました。

摂津に進軍、天磐楠舟による空中からの制圧で山城国の一部を取り返します。


「ここに帝を頂き、再び諸侯の力を集結する。

 仮面兵の力、アラハバキ神の神威による新戦略を打ち出すのだ。」


久能は京に入城すると、信じ難い宣言を出します。


目論みは分かっています。

いまさらアラハバキ神のことで朝廷からも幕府からも口出しされたくありません。

先に力でねじ伏せるしかないのです。


「しかし京を抑えるとは、流石にエミリー殿。」


スカディは感心し切りです。

実に鮮やかで驚くべき手腕でした。

長く敵に制圧された山城国を取り戻すとは。


「毛野国以外の夷どもが大勢、入り込んでいるようでござる。

 殿、掃討戦にはまだ戦力が…。」


「北条を倒すには、急がねばならん。

 諸侯が冷静になれば負ける。

 私に勢いがあると思わせなければならない。」


久能は大きくなりました。

背が180cm以上になり、胸や尻もより女性らしく変わりました。

全身に生命力がみなぎっているのです。


「雪姫様は正しい。

 所詮は今は人の時代だ。

 神の威を借りて民衆を怯えさせ、全てがつつがなく済む時代ではない。


 世界は物語の英雄ではなく、次の世を担う文知の英雄を望む。

 私のような魔王ではなくな。」


「そんな…。」


スカディが何か言いかけますが、久能はそれを抑えて言います。


「戦に勝てるだけの女を、次の時代の指導者には民は望まぬ。

 だが、私は権力の座に留まる意志があると思わせなければならない。

 でなければ、諸侯の心を掴めぬ。」


「御意。

 諸侯を動かすには、利しかありませぬ。」


エミリーがそういうとスカディは舌を出します。


「…雪姫様がいれば、何と言われたかな?」


「理想主義者のお子様だ。

 付き合いきれぬよ。」


エミリーは冷たく言います。

スカディは腕を頭の後ろに組んで言いました。


「世界は血に飢えてるもんなあ。」




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