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第8話「変身だァァッ!」(後編中)




久能は目を覚ましました。


「幾日目だ!?」


「3日。」


三夜が答えます。

身体を動かそうとしますが、久能は動けません。


「薬です。

 くっくっく…。

 負傷のせいではないので御安心を。」


三夜がそういって久能を落ち着かせます。


「神宝は手に入りました。」


「本当か。」


「はい、お腰に。」


三夜に言われ、久能はポカンとしました。

彼女の言わんとする意味が分からなかったからです。


「怪物たちが守っていたのは、黄金きがねの、くっくっく…。

 失礼、像でした。」


「黄金の像?」


金で出来た陰茎像。

そんなものを、あの怪物たちは守っていたのか。

久能は気が遠くなります。


腰に、ということは取り付けたのか。

全身麻酔で分かりませんが。

人に断りもなく勝手に…。


3日前。


「ここから霊力を感じる。」


瓦礫で作られた壁の中、嶺は確かな反応を感じ取ります。

三夜も頷きました。


「僕も分かる。

 それぐらい大きい?」


「たぶん、アラハバキ神の神宝がここに…。」


慎重に二人が調べると複雑な呪術で守れた金属製の箱が見つかりました。

物理的にも呪術的にも守られている、二重の守りということでしょう。


「術で守られてる。」


嶺が箱を調べます。

三夜が隣で声をかけました。


「いけるかい?」


「…この術をかけた本人も時間稼ぎぐらいにしかならないと分かってたでしょうね。」


半日ぐらいして箱が空きました。

中から出て来たのは、古代から知られる陸奥の金山から取れた黄金で作られた男性器を模した像です。

思わず嶺は二本指で摘まみ出そうとしますが、重くて持ち上がりませんでした。


「ほ、本物の金だッ。」


「金の金精様か…。

 くっくっく…。」


嶺は、早速、これを久能に取り付けることにしました。


「おいおい、勝手にやるのかよ。

 僕は止めたって言ってもいいかい?」


三夜がニヤニヤしながら言います。

すると急に嶺が蹴っ飛ばされた犬のような声を上げます。


「きゃん!」


「なんだよ!?」


三夜が嶺の背中越しに覗き込みます。

久能の小さな男性器が、そこにあるだけでした。


「あー…、驚かすなよ。」


「くっ付いた…。」


嶺がビックリしながら三夜に訴えます。


「金のおちんちんが御殿様にくっ付いた!」


目を丸くする嶺に三夜が呆れながら言います。


「そういうもんなんだろ?」


「違うの!

 私は術で調整もしてない!

 勝手に、自然に、急にくっ付いた!!」


少し困った評定で三夜は、額を掻きながらいいました。


「待ってくれよ。

 黄金のナニが久能様を選んだって事かい?」


「…そういうことかな。

 でも、御殿様は津保化族じゃないし、雪姫様が…。」


「あー…。

 もう雪姫は東日流の王じゃないってことじゃないか?」


三夜の言葉に嶺はハッとなります。

三夜が話し続けます。


「くっくっく…。

 もう雪姫はアラハバキを祀る民の長じゃないって事だろ。

 実質的にも久能様の家来の一人になってるし。


 いまや新しいアラハバキの民は君ら。

 新しいアラハバキの民の王は、久能兵庫ってことさ。

 くー、悲しい話だね。」


かつて、人並み外れた霊力を持つ者たちが神々との結び付きにより魔術を体現した。

しかし、神の時代が終わり、人の時代になる、その時に。

神宝を継承した太子が英雄王に変わり、次の王となったのです。


大地を血に染め、武勇により争いを終わらせた英雄に代わり、その威信を引き継ぎ、人の時代に相応しい無血の王として君臨するために。


最早、久能は、この身一つで雪姫以上の霊験を得ました。

彼女こそが正統なるアラハバキの民の王。

新たなる現人神、アラハバキなのです。


「…戻り次第、雪姫様を捕らえる。」


久能は、少し罪悪感を感じつつも、そう告げました。

三夜はニタリと笑います。


しかし、それが賢明でしょう。


久能は、改めて自分の身体に力を入れます。

風魔の秘薬の効果も解け、継ぎ接ぎの身体が力強く起き上がりました。


「力を…、感じる。」


久能は、急に嶺を抑え付けます。

乳房を掴み、彼女の脚を開き、股の間に押し入ると密着して肌を合わせます。


「きゃあっ。」


当然、嶺は驚きました。

三夜は無言で闇の中に消えます。


「ああ、あああっ。」


嶺は戸惑いましたが、久能は一言だけ断りました。


「参るぞ。」




3日の留守の後、久能たちは尾道城に帰還しました。

久能がいなくなった間、エミリーが逆に元気になり、城を守っていました。


「殿がお戻りになった!?」


「はい。」


胸甲にホットパンツ姿のエミリーが本丸御殿の外に出ます。

すると信じられない光景が目に飛び込んで来ました。

久能が空から降りて来たのです。


まるで神話の英雄のように気高い、荘厳な空気をまとって久能は姿を現しました。

その後ろに三夜の船、長羽が見えます。


「と、殿!?」


エミリーは我が目を疑います。

久能は穏やかに告げます。


「今すぐに雪姫を捕らえるのだ。」


エミリーは、その意図を問いませんでした。

すぐに兵らは雪姫を捕らえ、久能の前に連れ出します。


「くっ。

 …久能ちゃあん、どーゆーこと、それ?」


「雪姫様。

 …貴方に問うべき罪はない。

 だが、貴方の真意を話して貰おうか?」


久能が雪姫に静かに訊ねました。

まるで神の審判のような冷厳とした雰囲気の中、雪姫は答えます。


「…かつて仮面兵は、津保化族の戦争の基幹になった。

 戦争だけじゃない。

 アラハバキ神の生命を左右する力は、東日流を豊かな強国にした。」


久能の反応を確かめながら、雪姫は続けました。


「でも、この世には死ななきゃならない人間がいるんだよ。


 別に悪人とか、劣ってるとか、弱いからじゃない。

 運が悪いだけなんだ。


 だって、そうだろ。

 この世界の全ての生物が幸せになろうとしたら、この小さな世界はパンクする。」


「それを選ぶのが、貴方なのか?」


久能が問います。

雪姫は答えました。


「そうだよ。

 だって、久能ちゃんたちは選ばれなかったんだ。」


雪姫の、その言葉に久能は眉間に力が入ります。


「霊力の話…。


 繰り返すけど、別に神にしてみれば誰でも良いんだ。

 神様だって本当は皆、幸せにしてあげたいんだよ。

 でも、できないから、私たちに選ぶ権利を与えた。


 私は選んだんだ。

 日に十数人の仮面兵で救える命を。

 それ以上は…、死んでもいい。」


雪姫の口調は普段通りでしたが、声色は鋭く、まさに神に仕える神官でした。

彼女は神の摂理を説きます。


「そもそも仮面兵だって必要ないんだ。


 夷どもは、数百年かけて、この地球を移住し続ける。

 この日本にだって、いつまでもいる訳じゃない。

 ほんの数十年我慢すればいい。


 でも、神の時代の力を取り戻した大和はどうなると思う!?


 …私たちは自分たちで力を捨てたんだ。


 選んだんだ。

 今以上の戦争か。

 夷に滅ぼされるか。


 でも、大和は滅びないんだよ!?


 なんでそんな力を呼び起こすの。

 お願いだから、元の山奥に捨てて来て…。」


雪姫の訴えに久能は言葉が出ませんでした。

恐ろしかったからです。

しかし、なんとか首を横に振って答えます。


雪姫は説き続けます。


「…忘れた訳じゃないでしょ。

 仮面兵は、人間を材料にした兵器なんだよ。

 生まれる前に手を加えて、大勢の人を踏みにじって、その上に幸せがあるの!?」


この場には、エミリーをはじめ、いまだ仮面兵について知らない者も大勢います。

久能は、場の空気が不穏なものに変わっていくのを感じました。


「アラハバキ神は…。


 ただ不幸にする人間と、そうでないものを選んで産み分ける事だけ。

 クナトの神、人の運命を支配する霊験の発現に過ぎない。

 そこに気付かない限り、欺瞞に苦しむことになる。


 久能ちゃあん、あんた、誰かを助けたつもりになってるとしたら、とーんでもない間違いだよ。」


雪姫の言葉に、久能は戸惑いました。

しかし、冷たく、極めて冷たく言い放ちます。


「雪姫様。

 貴様に裁かれる罪はありません。

 ただ、権利を委譲したのです。


 アラハバキ神の力は、私が手にしたのです。

 これからは、私が貴様の持っていた選択権を行使させていただく。」


雪姫は怒りと悲しみを顔に浮かべました。

少し考えてから、彼女は久能に言いました。


「ここを去りたい。」


「…。」


久能はすぐに答えることはできませんでした。

ためらいつつ、雪姫に問います。


「私は、貴方がさらに大きな力を隠していたことは…。

 それでも貴方の意見は、正しいと思っています。

 だが、私の求める正義ではない。


 しかし、それだけです。

 貴方を追放するつもりはないっ。」


しかし雪姫の心は変わりません。


「今の私が望むことは、久能ちゃんが死んで、さっさと金魂こんしょうを取り出して、どこかに捨てること。

 それを受け入れて貰えるなら、私はここに残ってもいいけど?」


結局、雪姫は解放されました。

議論する余地もなく、彼女は久能のもとを去ったのです。


彼女の命を奪うべきと主張する声も出ました。

実に恥知らずという他ありません。

しかし、最終的には彼女を殺すだけの戦力が惜しいという理由が勝ちました。




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