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第8話「変身だァァッ!」(後編上)




仮面の巨人は久能の斬馬刀と大刀を奪いました。

両手に刀を持った巨人と無手の巨人は距離を取ります。

武器を持っていると仲間を傷つける危険がある為です。


流石に東日流の神宝の番人です。

久能の苦し紛れの二連撃では堪えません。


ここは時間稼ぎにもならないと知りつつ、雷撃で敵の目を誤魔化します。

取り敢えず、久能はダメージを負った武器を持っている巨人を優先的に狙います。


「ふッ!」


雷撃に目を奪われた敵の不意を突きます。

久能の脇差が下腹部から腰椎を破壊して背中から突き抜けました。

巨人は反撃に大刀で肩から切り下げます。


「ぎゃあああッ!」


下半身不随になった巨人が途中で倒れたので斬撃は止まりましたが、右腕が上がりません。

久能の右肺にまで大刀は達していました。


「ふう…。

 うぐうッ。」


痛みに耐えている久能に、残った巨人が攻撃を仕掛けます。

再び水の塊が久能を吹き飛ばし、今度は壁に叩き付けます。


「ごあッ!?」


右腕がおかしな方向に曲がっています。

完全に肩甲骨の周囲から開放骨折し、ねじ切れています。


「死なないものだな。」


久能は自分でもおかしくなりました。

これまで散々、戦場で矢や槍を恐れていたのが無駄だったと分かると自分が馬鹿らしく思えます。

なあんだ、あれぐらいじゃ私、死ななかったんだな。


「ふふふ。

 これで生きて帰れば一石二鳥だな。」


右腕を諦め、取り敢えず造血を進め、内出血を止めます。

次に溜まった血を抜きます。

細い専用の針で腹に穴を開けます。


「ぎい、いいっ。」


知識として知っていましたが、ここまでするのは初めてです。

久能も覚悟を決めます。


腰椎をやられた巨人は、しばらく立てませんが、術は使えるようです。

2体はお互いに術で支援しながら、久能を追い詰めます。

まだ立って歩ける方の巨人が久能に迫ります。


敵の水撃が久能を切り刻みます。

しかし、飛び散る血液が水と混ざり合い、久尾の身体に戻ります。

水は久能の身体に取り込まれ、次第に肉に変わって行きました。


「有難い。

 ただの真水か。」


水を取り込んで変性させつつ、身体の修復を待ちます。

片腕のままでは、敵にダメージを与えられません。


「ちぃッ!」


申し訳程度の雷撃で敵を一先ずやり過ごします。


それにしても、どうしてこんな命懸けの目に合っているのか。

久能はこれまでの経緯を思い出すと後悔し切りです。


性器の大きさや回復する早さなんて、どうでも良いじゃないか。

実に下らないことで死にかけていると馬鹿らしくなってきます。

それもこれも、お前のせいだ。


アラハバキ神を表す遮光器土偶の仮面を着けた敵を、アラハバキそのものに見立てて久能は恨めしく睨みます。


しかし、良い面もあります。

きっと自分が死ねば、仮面兵に関する戦略は抹消されるでしょう。

上手く雪姫がなんとかしてくれると思います。


女たちが苦しむこともなくなるかも知れません。


ですが、この怪物たちを倒し、生きて帰り、仮面兵の戦力で夷を打倒する。

それがベストであることは間違いありません。


「…動くようになったぁッ…。」


相当、痛みますが右腕が回復しました。

弓は無理でも、刀はいけます。


「であッ!」


「ま゛アッ!?」


弱い。

やはり骨まで断ち切ることはできません。


巨人は刃を受けると久能に反撃を試みます。

それでも久能はコツを掴みました。

馬鹿力だけの怪物の動きなど、やり過ごしていきます。


問題は2体の連携だけです。


生きて帰れんか。

三夜は、地面に広がる影に変身しながら、そう考えていました。

何も自己保身のために隠れている訳ではありません。


もし自分が死ねば、ここから船で帰れなくなります。

久能と共闘すれば、戦力は増すでしょうが、不確定な要素で忍者は動きません。

それに、ここに居ることで敵は三夜を常に警戒しています。


「ひぎゃあ…、痛いぃ。」


嶺は、やっと体の再生が終わりました。

ですが次の瞬間、巨大な水の槍が突き抜け、頭と胴体をバラバラに爆発させました。


それを横で見ていた三夜は呆れます。

大人しくしていれば、痛い思いをしなくて済んだ物を。

最初の攻撃をかわせなかった時点で、戦力にはならないのに。


嶺への攻撃は、巨人たちの隙になりましたが、久能には有利に働きません。

結局、久能の膂力では致命打にならないからです。


「くっ…。」


そういえば、吉良が男性器は筋肉を作るテストステロンとやらを出すと言っていたか。

その割には貧弱だ。

変わり映えしないぞ。


このカスチンポが。

お前のせいで散々だ。


気合を入れて、テストなんとかを出してみろ。

出ないのか?

出すのがお前の特技だろうがッ!


久能は怒りのあまり、錯乱し始めました。


「うわあああッ!!」


もう剣術の構えにならない、ただ大きく振りかぶっただけ。

その勢いで久能は大脇差を巨人に向けて振り抜きます。

鍛えに鍛えた玉鋼の刃がしなり、刀身がひずみます。


しかし斬撃は巨人の右手首と首を斬り飛ばし、左肩に突き抜けて止まりました。

久能は刀を離します。


「テストステロンがあああ!!

 回ってきやがったッッッ!!」


狂ったか。

三夜は、雄叫びをあげる久能を見て、そう感じました。


「てぇーすとぉッッッ!」


久能は首のなくなった巨人の心臓に刀を突き立てます。

本人の中で、やっと骨を断ったという認識はあるのでしょうが、倒したということは頭に入っていないようです。


「はあ、っくあ…。

 ちく、あああっ…。」


久能は身体を引きずり、さっき腰椎を砕いた巨人の方に歩いて行きます。

歩けなくなった巨人は必死に水撃で迎撃してきますが、時間の問題でした。

久能も、もう腕に力が入りません。


「じぇえあああッ!」


這い回って逃げる巨人の背中に何度も刀を振り抜きます。

もう戦闘の態をなしていません。

殺戮です。


「があ!

 らあ!!」


しばらくして巨人が動かなくなると久能も手を止めます。


「はあ、はあ、はあ…。」


その様子を見ていた三夜が大声を出しながら近づきます。

迂闊に近づくと斬られるからです。


「久能様ッ!

 久能様、御平らにッ!!」


「!?

 …ああ、あ?」


三夜は素早く久能の鎧やら衣類を剥ぎ取ると開腹します。

再生能力で目茶目茶につないだ血管と内臓を切り離して繋ぎ直すためです。




久能は三夜の処置が済み、半生半死のまま寝かされています。

今は芥子ケシが効いて、痛みも消えているはずです。


「風魔、剛の者が誰一人生きて帰ってこない怪物を倒すとは。

 …この人の種で作った仮面兵が、何百とそろっているのでは夷に勝ち目がないのも道理よな。」


三夜が返り血に塗れた顔でよこしまに笑います。

嶺は言いました。


「この人は、もう少し他人の評価を信じればいいのに。」


「くっくっく…。

 久能様は満足しないから際限なく気を吐き続けるのであろう。

 最初から周囲のことなど気にしておられないのだ。


 ただ、夷軍を倒し、戦乱を終わらせたい。

 それだけなのだろうよ。」


ニタニタ笑う三夜を嫌そうに嶺は見つめます。

変な話ですが、美人だと嫌がる顔も絵になります。


嶺は三夜に訊ねました。


「御殿様を連れ帰らないの?」


「動かさぬ方がよい。

 …そう、3、4日は無理。」


三夜がそう答えました。

また嶺が別の質問をします。


「貴方は、どこで生まれたの?」


「…紀伊。

 龍神村。」


「これからどうする?」


「それは僕が決めることじゃない。

 忍は、道具ゆえな。」


口の端で頬をにんまり持ち上げ、三夜はそう答えた。

そして焚き火で作ったかゆを見ると嶺と自分の分を取り分け始めるのでした。




母上?


久能は夢の中、まだ若い頃の母親を見た。

公家の松殿家の息女で、久能に嫁入りする前だろうか?

いずれにしても久能が見たことのないはずの光景でした。


なんだ。

何を見ている?


久能は夢の中で問いかけます。

答える者はいません。


若い母のもとに狩衣姿の男が現れました。


「お美しいお初が嫁に行く日が来るとはな。

 ずっと待ち望んでいた日がようやく来よったでおじゃる。」


「さあ、嫁入り前のうちを可愛がってたもれ。」


狩衣の男は、久能の父ではありません。

しかし母は男と仲睦まじく口を吸い、指をからませます。

やがて二人は睦み合い、母の浅ましい声と男の荒々しい声が聞こえてきます。


え?

何、これ…。


久能は血の気が引きました。


やがて情事が済むと男が母から離れます。

満足した母が、うっとり微笑んで男を見送ります。


しかし、これで話は済みませんでした。


一人、また一人と男たちが母のもとにやってきます。

時折、母が庭に向かって歩いて行くのを見て、久能は目を背けます。

”それ”が何を意味するのか、考えただけで気分が悪くなります。


母が庭に落としていったのは、糞でも小便でもありません。


嫁入りの直前です。

妊娠したとしても怪しまれはしません。

まさに鬼畜の振る舞いです。


思い返せば、久能も宮中で随分と可愛がられたものです。

美人に生まれた久能にとって、それは当たり前だと思って来ました。


「麻呂のことを父御のように甘えて構わんでおじゃるぞ。」


「そなたの頼み、断るはずがおじゃらん。」


「実の娘のように麻呂も思っておじゃる。」


あれは、そういう意味だったのです。

久能は寒気と共に、それを受け入れました。

これまで十分にその対価を受け取って来たのです。


小さな望みだ。


夢の中、何者かの声がしました。

声は答えます。


連れ帰るが良い。

今より、がアラハバキ。

新たなる神なのだから。




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