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第8話「変身だァァッ!」(中編中)




おっぱいの大きさに目敏いのは、男より女だと言われます。

女性らしさの象徴ということでしょう。


久能は、はじめての意見を突き付けられました。

もっと男性器が大きい方が魅力的だという意見です。

全く気にしたことのないことでした。


「兵を集めよ。

 敵が油断している頃合いだ。

 一撃を食らわす。」


久能は急に攻撃を命じます。

評定に集まった武将たちは顔を見合わせます。


「何かあったか?」

「殿も若い。

 しびれを切らしたのじゃろう。」

「まあ、こちらも身体がなまっておったし…。」

「頃合いぞ。」


久能は厳しい表情でスカディに言い放ちます。


「スカディ、身体が治って来た様だな?」


「はッ。

 …なんとか。」


はて。

杏を試したのが耳に入ったのか?

何か久能を怒らせたかとスカディは不思議に思います。


「狗奴王様、雪姫様、お二人もどうぞ。」


「なんでや!」


「うぃーい!

 殺戮だぁーッ!!」


久能はエミリーの代わりに顔を出している海兵に言います。


「エミリーはまだ出仕できぬか?」


「我らだけでもお供いたします。」


海兵がそういって久能に向き直って頭を下げます。

そのまま久能が命じます。


「人選は任す。」


「御意。」


久能は熱くなっていました。


今まで女たちを気遣ってきたつもりです。

表面上は嫌な顔は見せないと思い、喜んでいるのも嘘かとか、気に病んできました。

しかしハッキリとお前の情交はつまらんと言われては腹が立ちます。


かつて結が言ったように、女が男に合わせているだけだろうとは思っていました。

事実、久能自身、男相手に喜びを感じた経験はないのです。

しかし、しかし…。


「小さい?」


最初は意味が理解できませんでしたが、一晩して何だか腹が立ってきました。

理解が深まり、考えれば考えるほど腹が立ちます。


「者ども、かかれー!!」


城外に出陣した久能は第一陣の騎馬隊に号令をかけます。

雪姫が後ろで見ながら小声で言います。


「今日は着いてる久能ちゃんだな…。」


「は?」


雪姫の隣に立つ若い騎馬武者がいいました。

雪姫がおざなりに誤魔化します。


「気にすんな☆

 ほら、第二陣も声かかるぞ。」


「かかれぇーッ!!」


伊都国、土佐国、高志国の援軍も共闘します。

アズールは急に攻勢に転じた久能勢に戸惑います。


『打って出て来ただと!?』


『既にアリアン、コバリュが応戦しております。

 砦の幾つかは破砕されました。』


運が良かった。

という訳ではなく、これはある種の必然でした。


三原城を守る野戦で戦略上は勝ちながら、損害では負け。

その後、勝ちの勢いに乗るどころか、ダラダラと攻めあぐね。

敵には援軍が到着して、こちらは幾つかの戦法に失敗。


夷軍は、今日偶然、戦意が下がっていた訳ではなく、厭戦ムードの極みにあったのです。

そうでなくても今日までに、いつ攻撃しても崩れ易い状況だったはずです。

運が良かったとすれば、敵の戦意が回復してしまう前に攻撃したことだけでした。


『コバリュはどうした!?

 死んだのか!?』


『分からん!

 昨日までの小競り合いではないッ!』


ひとつ、またひとつと夷軍の砦を久能勢は踏み潰していきます。


「うぃいいいい!!

 私の顔を見ながら死んで行けええええッッ!!」


雪姫を先頭に仮面兵たちが突進します。

不意を打たれ、武器も鎧も取る物も取り敢えずの夷軍は格好の餌食です。


「…引け。」


ルスランが小声で号令をかけます。

副長が代わりに大声で叫ぶと騎馬隊の一部が引き上げて行きます。


「うぇうぇうぇ!?」


雪姫が呆気にとられた様子で、それを見ていました。

勢いは確かにこちらにあるのに。

ですが、ルスランは絶妙です。


「殿、そろそろかと!」


「引き上げだー!!」


久能も全部隊に引き上げる命令を発します。

前線で戦うスカディが面喰います。


「何!?

 勢いはこちらにあるぞ!!」


「引き上げますわよ!」


杏がスカディにそういって騎馬で走り去ります。


「なんだか、当てつけみたいだなあ…。」


吉良もブラスター片手に首をかしげます。


「敵が脆すぎる。

 隙を突かれたフリをして、こっちを誘い込む罠なのかも!?」


尾崎がいいました。

吉良は、その意見に同意したのか回れ右して走り出します。


「スカディさん!

 早く引き上げましょう!!」


「置いてっちゃいますよー!!」


吉良と尾崎まで引き上げるので、スカディも不承不承、撤退します。

再び、久能の本陣が殿しんがりを務め、城に引き上げる味方を支援します。

相変わらず手慣れたものです。


がっちり守りを固める敵より、こっちに向かってくる敵、逃げる相手の方が脆いものです。

守備の利、追撃の利はそこにあります。

ですから逃げながら戦う殿しんがりは、二重苦です。


「ようし、下がるぞッ。」


「まだ攻撃が、激しすぎますッ!」


久能の命令に兵が抗弁します。

しかし久能は重ねて命令します。


「確かに機というものはある。

 だが、こちらが待てる間に好機が必ず来るわけではない。

 もう潮時だ!」


悪く言えば、逃げる妙技。

よく言えば、リスクを最小限に止める感覚に秀でていると言えます。

久能は堪えるべきところは堪え、崩してでも突破するところは突破していきます。


「まさに”退兵庫頭ひょうご”だな。」

「速いなあ。」

「捕まらずに行くなあ。」


城の兵たちも久能の動きを見ています。

逃げるのが上手い総大将というのも変わっています。


嵐のような速さでアズール勢に打撃を与えると、反撃のチャンスも見せずに久能は引き上げました。

しかし決定的な打撃はなく、時間稼ぎにしかなりません。

広島城への突破口は、見えないままです。




「雪姫様に知られずに用意できるか?」


久能は城に戻るなり、お稲のもとに駆け込みます。

丁度、お稲は硬くなった餅を鍋にぶち込み、ズルズルと食べていたところでした。

相変わらず凄い食欲です。


「男性器のサイズねえ。

 …それが仮面兵を作るうえで何か意味が?」


男根へのこが大きければ、情交の最中に抜ける心配がなくなる。」


久能はとって着けたような理屈をいいました。

しかしお稲には通用したようです。


「抜ける!?

 …そういうのは考えたことがなかった。

 なぜ、もっと早くいってくれなかったッ!!」


「…え?」


久能はお稲の反応にちょっと戸惑いました。

別にこっちは男女の色恋の問題であって、そんな大騒ぎすることでは…。


「しかし、そうなると雪姫様に直接、提案しないとナ。

 私が作る訳じゃないし。」


「いや、あのお方に話すと…。

 その…。」


久能はなんとか雪姫に知られずに済ませたいのだ、とお稲に訴えました。

しかし石棒の作成など、それこそ雪姫しか知らない秘術の一部です。


「結局、何もかも重要な部分は雪姫様が全部、抑えてるからネ。

 …隙を見せないヨ。」


「そうだろうな…。」


前に石棒自体は普通のイミテーションに過ぎないと雪姫は言っていた気もします。

しかし、この船と言い、疑い始めるとキリがありません。


「お稲、貴様は頭脳労働担当だが、霊力において雪姫様に比肩する巫覡は誰だ?」


「おみねじゃないですかね…。

 でも、あまり感じのいい奴じゃないよ。」


お嶺。

仲間内ではレイと呼ばれている。

発音おとがお稲に近いからだそうです。


「この船にいるか?」


「ええ、こちらの方が重要度の高い作業をしてますから。」


それでもお稲は、よほど嶺に会いたくないのか、右筆と侍女に久能を押し付けてしまった。

霊力において雪姫に比肩するという巫女です。

お稲とは仲が良かろうはずもありません。


「嶺様はお見えでしょうか。

 御殿様が御用です。」


「いささか時間がかかるやも知れません。

 お待ちを。」


船中に巡らされた管を利用した艦内放送で嶺が呼び出されます。

ややあって床からドロドロした液体が噴き出して来て人間の姿に変身しました。


「これは兵庫頭様。

 私ごときに何用でしょう?」


ごとき、ときました。

まあ、雪姫とお稲が実務と政務を抑えていますから、彼女は面白くないのでしょう。


しかし美しい女です。

久能は思わず目を見張りました。


うっとりするような魅力的な目鼻立ち、妖しい頬から顎にかけての線。

すくっと伸びた細長い首、黒々とした輝く髪が軽くさらさらっと自然に揺れます。


「え。

 …うっ。」


久能は思わず言い淀んでしまいます。

まさか目も奪われるほどの美人に石棒の話など切り出せません。


「実は雪姫様にも御内密で術達者の貴様に頼みがあるのだ。」


「何ゆえに?」


「…雪姫様から聞く情報だけを信頼していては危ういと思うようになったのだ。

 私はこの船の存在など、今まで知らなかったし、ここまで大掛かりとは。


 だから、私自身が勉強する必要があると思った。

 為政者として、良く知らぬ技術を使い続ける訳にはいかん。

 貴様も協力してくれると有難い。」


久能はもっともらしい口上を述べます。

半分は本心です。

嶺は即答します。


「御殿様がするものなど何もありません。

 雪姫様は重要なことは私たちには明かしてくれません。

 この私でさえ、言われたことをやっているだけに過ぎないんです。」


そこまで言ってから、嶺は酷く苛立った調子で吐き捨てるように付け加えます。


「…無能者の分際で口出しするのは稲だけ。

 私たちは考える頭がないんですって。」


相当、お冠のようです。

しかし久能は強気で迎え撃ちます。


「確かに私も無能者だ。

 だが、私は貴様の主君である。


 話せと言ったら話すのだ。

 貴様が知っている限りをな。

 それが役に立たぬかどうかまで口を挟むは筋違いぞ。」


実に侍らしい、武力を背景にした物言いです。

逆らえば斬ると言わんばかりの気配。

嶺はすぐに態度を改めます。


「御無礼をば。

 平に、平に御容赦をッ。」


嶺は、その場で履物を脱ぐと一歩下がり、土下座しました。


帯刀と土下座は古墳時代からあったと言われ、身分の上下を表す日本の風習でした。

武士にとっては当たり前でも武器を持って歩き回ってる相手に恐怖しない人間は居ません。

庶民にとって、平然としていても武士は恐怖の対象であったのです。


江戸時代、公然と武士を見下すほどの権勢を誇る豪商・豪農であっても武士の身分を藩庁や幕府から買い求めたほどです。

分家として商いを続け、一方では武士の身分を手に入れる。

これこそ商人の栄光のステータスでした。


ただ武士の特権と謳われる”切り捨て御免”も実際にした場合、徹底的な取り調べが為され、家族も辱められました。

場合によっては切腹、酷い場合はそれ以上の苦しみが待っていたと言います。

にも拘わらず、帯刀は大名お抱え相撲力士、医者などの多くの身分が求めた憧れだったのです。


財力か、相当な才能の証明だったからです。


「…っ。」


久能は美しい嶺が自分の前で弱々しく頭をこすり付けているのを見て、胸が高鳴りました。

支配欲がムクムクと沸き立ち、この女を連れ去ってしまおうかと思ったほどです。

最初は見えませんでしたが、土下座した拍子で見えた嶺の尻が久能を誘惑しているように感じます。


「気を着けよ。

 もう、良い。」


久能が声をかけると、少しだけ嶺が頭を床から離します。


「話して貰えるか?」


また久能が声をかけます。

嶺は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がりました。

その姿を久能は執念を燃やして、じっと見ていました。


「では、場所を変えましょう。」


嶺がそういって久能を奥に案内しました。




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