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第6話「誰も私を責めることはできない」(後編中)




備後楢崎城に伊邪奴を筆頭とした吉備王子軍が出立。

久能の本隊は、後続と入れ替わりで尾道城に進撃します。


天磐楠舟がある分、大和軍の補給は圧倒的です。

また敵の動きも手に取るようです。


「敵の増援が加わり、防衛線を強化した。

 我々は天磐楠舟で降下し、尾道城を包囲する。」


空飛ぶ敵に対し、線も点も面もありません。

防衛線の突破も拠点の移動も二正面作戦も自由自在です。

夷軍は、この点に関してはなはだ不利でした。


『来たか。

 大和の空飛ぶ船だ!』


尾道城の夷たちは絶望をもってそれを見つめるしかありません。


「鸞兵が来ますけど~?」


聖覚が一応、スカディに声をかけます。


「対空戦、用意。」


「あいよー。」


当然、殆どの船に朝倉のカラクリが仕込まれています。

敵が機関銃を装備した戦闘機ならいざ知らず、槍やボウガンの鸞兵では太刀打ちできません。

それでなくても大苦戦ですから、泣きっ面に蜂です。


『ぎゃあああ!』

『あぐう!』

『に、逃げろー!』


「いつ見ても進歩のない連中だねー。」


朝倉坊が自慢の遠眼鏡で敵の逃げっぷりを観戦します。

スカディが言いました。


「こっちが上を取ってるんだ。

 それに連中だって命令で仕方なくやってるんだ。

 そう言ってやるな。」


内心、立場が逆ならゾッとします。

スカディも所詮は、一介の戦士に過ぎません。

久能が朝倉の作った装備で固めた城や軍船に攻撃しろと命じたら突進して行くしかありませんから。


「問題は尾道城だ。」


それは違います。

問題は尾道城に進軍している獣将ティアイヴィでした。


『速すぎる…。』


猛牛と恐れられるティアイヴィですら、天磐楠舟には顔色を悪くします。


『畜生。

 私に壊せない物があるなんてイラつくぜえええ…。』


『閣下、来ます。』


『ああん?』


夷軍の頭上、一隻の天磐楠舟からラスボスの登場です。

雪姫が単独で先行してやってきました。


瞬時に矢の束が雪姫を襲います。

しかし雪と氷の粒になり、雪姫は地上まで無傷で降下しました。


『やれー!』


今度は炎系の術が雪姫を襲います。

赤、黒、緑と様々な魔法の炎が雪姫を包んでいきますが、それらが急に青一色に変わりました。


「ヴェエエエエッ!

 古代日本最強の霊能力者ぁぁぁ、雪姫様の登場だぜぇぇぇッ!」


一瞬、大きな炎が破裂し、周囲の夷兵を凍死させます。


氷も炎も雪姫には効果はありません。

相反する二つの性質を備えながら、それは存在するのです。


「ヴェヴェヴェヴェ…。

 霊力の絶対量の前に手数は無意味!

 常識だろおが、おバカちゃあん☆」


飛び散った氷と炎が雪姫の形に戻ります。

姫の前にティアイヴィが進み出ます。


『東日流王か。

 ここは十二神将が一人、この私が相手する他ない様だな!』


「なぁーにぃ言ってんだあ、この兄ちゃん?

 日本語にんげんのことば話せってんだよ、うぃいいいーッッッ!!」


ぱりん。

小さな音がして雪姫の仮面が割れます。

途端、姫は新しい仮面を着け直し、姿を消しました。


『…やはり、あの仮面が触媒か。』


『いや、罠だ。』


ティアイヴィの後ろにいた夷が言いました。

アズルドヴェインの弟、アズルーンです。


『仮面だけを割った訳ではないだろう、ティアイヴィ殿。

 あれは誘いだ。』


『そんな頭の回る相手には見えなかったが?』


『見えなかったのなら敵の術中に既にはまっていることになる。

 余の指示通りに動いて貰いますぞ。

 全ては兄上の御指図であるゆえ。』


アズルーンがそう言うとティアイヴィは歯をゴリゴリと鳴らしました。


『イラつく話だ。

 私の言う通り、仮面さえ破れば敵が術を使えないとしたら?』


『今、仕留められなかったティアイヴィ殿が間抜けだった、ということですが?』


ティアイヴィは、そう言われると困ってしまいます。

確かに仮面だけを器用に壊したつもりはありません。


『お、面白くねえええ…。』




「だっさ。」


一時退却した雪姫は敵の術を見破りました。


恐らく音波系の術か、時間停止系の能力者だとアタリを着けました。

仮面だけを割らせたつもりでしたが、時間停止系なら止まっている間に第二撃で仏性結界で見破られてしまいます。


燃やす、凍らせる、剣を出す…。

術を自分自身にかけて変身することで防御、移動に転用するのが仏性結界です。

ルスランは黒猫、エミリーは泡、雪姫は炎に変身します。


雪姫の場合は特別で周囲の物を燃やすか、水分を取り込むことで回復できるレベルに達しています。

さらに二つの相反する性質を取り込んでいるため八重のプロテクトが掛かっています。

二つの属性の弱点を消し、互いに長所を相乗し、それぞれの能力を融合させることで耐性が乗算されるのです。


例えば水に変身しても凍らせられると、その部分を失います。

しかし雪姫の場合、水をかけようと火を点けようと弱点にならない訳です。


「まあ、いいや。

 目に見えない衝撃を扱うタイプは…。

 …相性悪いなあ。」


相手のレベルにもよりますが、音波・衝撃だと普通に音や衝撃で傷が回復します。

十二神将と呼ばれるレベルですから、吸収まではできると見て良いだろう。

雪姫はそうアタリを着けます。


「霊力が切れるまでド突き合うか…。」


普通、術士同士が戦うならさっさと封印系を使います。

相手の守護精霊や霊脈、御封地から攻めれば、直接戦うより効率的です。


エーテル魔術、俗にいう魔力を使う術に対し、神や悪魔、精霊を使役するのが降霊術、召喚術ですが、精霊と術者の交信を絶ってしまえば術を防ぐことが可能になります。


御封地は、自分の魂を肉体から分離させ、特殊な術で補正し、肉体と魂の両方を加工するタイプの術大系の場合、外気から身を守る必要が生まれます。

要するに吸血鬼やゾンビのような連中です。


御封地は、最後の避難場所です。

術で身体を加工した生物にとって、休息できるのは安全な自分の聖域だけです。


さて、話を戻します。


正直、ハイレベルの術士同士の戦いとなれば雪姫が圧倒的に不利です。

内容が重複しますが、基本的に術士同士で直接戦闘することはありません。


しかし雪姫は研究者タイプの術士で、術士同士の戦いには経験がありません。

せいぜい霊力の高さに頼って一般人を嬲り殺しにするのが関の山です。

反撃できない相手なら、これでも問題ありませんが、スタンダードでは雪姫の方が攻撃できない方です。


「さっさと済ますか。」




雪姫がティアイヴィ勢の前に立ちはだかっても大勢に変化はなかった。

毛野国の王子たちは散開して尾道城に向けて東進を続けたからです。


「私が雪姫様と西からの増援を抑える。

 エミリーに従い、皆は城を攻略してくれ。」


久能は5百を率い、残りの2千5百をエミリーに任せます。


「狗奴王に半分を任せ…。」


「なんでや!」


「…分かりました。

 では、私がここから指揮を執るので、各々の手筈通りに。」


エミリーは狗奴王に半分を任せようと思ったのですが、断られてしまいました。

仕方なく彼女は動かず、攻城勢の本陣に残ります。


朝倉義梵が製作した攻城兵器の数々が姿を見せます。

先の福山城攻めで皆、扱いも覚えました。


『時間の問題か。』


尾道城に籠る夷軍は、次々に組み上がる巨大な兵器を眺めているしかありません。

天磐楠舟に着いている起重機クレーンを使用するので、大きな部品も簡単に組み上がります。


「撃ててててぇーッ!!」


大型の弩弓砲の一斉射で櫓も門も見る見るうちに崩れて行きました。

さらに屋根付きの攻城塔が次々に突進して行きます。


『十二神将はまだか!』

『もう、駄目だ!』


夷軍は戦意がくじかれ、組織的な抵抗を諦めていました。

対する寄せ手の狗奴王が城内に一番乗りを果たします。


「なんでやあああ!」


古式ゆかしい質実剛健な戦士である狗奴王は派手な技に頼ることなく敵と戦います。

しかし、夷軍は重装備に切り替えて迎え撃ちました。

攻城兵器ならいざ知らず、大和軍の矢や槍は効果がありません。


『ふん、南蛮人から買い入れた大量の鉄で作った装備だ。

 貧弱な大和軍の武器では通らぬ。』


「な、なんでやあああ!!」


狗奴王もスカディも奮戦しましたが、刃が立ちません。

そんな中、敵の突破に成功したのはルスランとリュウレンジャーの二人です。


「レッドドラゴンビームバズーカ!」


「ブルードラゴンハイパークロスボウ!!」


超兵器を操るリュウレンジャーの前に旧態依然の夷軍は蹴散らされます。

なんだかズルいなあ…。


そんな二人に対し、狭間からの矢玉をかわし、敵の鎧の隙間を貫き、城門を踏み破ってルスランが騎乗で駆け抜けます。

彼女の後に騎馬隊が続き、敵を蹴散らします。


「…狗奴王らを囮に。」


「者ども、ルスラン様に続けー!

 敵は他の場所に注意が集まっておるぞ!!」


副長が物静かなルスランに代わって号令をかけます。

一斉に武者たちが夷軍に襲い掛かって行きます。


「かかれー!」

「かかれー!」

「かかれー!」


『黒い騎士だッ。』


夷どももルスランの姿を見て動揺します。

大和軍にあって全身が黒い西洋甲冑なのですから目立つのも頷けます。


『摂津ので戦いで姿を現して以来、颯爽と現れては我が軍の急所を巧みに突く…。

 腕も立つが頭もキレる手強い敵だぞ。』


『手柄を立てよー!』


夷たちは乾坤一擲のチャンスとばかりにルスランだけを狙います。

しかし屈強な武者たちに阻まれ、逆にその隙を利用され、倒されていきます。


「……解放…。」


ルスランが黒い猫に化け、四方八方に散ります。

主が居なくなった馬は何事もなかったかのように耳を動かし、頭を振りました。

黒猫たちは夷どもの背後に回り、集結してルスランに戻ります。


ルスランは混乱する夷たちをやり過ごし、正確に指揮官を刺し殺します。

次々と敵の指揮官だけを狙い、敵の混乱を加速させていきます。


「…来て。」


あらかた敵を片付けたルスランが、ぼそっと小声を出します。

裸馬は主の声、というよりその表情に反応して駆け出しました。

ルスランも敵の攻撃を避けながら馬の上に戻ります。


「ここはもう良い!

 次に進むぞー!!」


副長が再び号令をかけ、ルスランの騎馬隊はこの場を駆け抜けて行きます。




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