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第6話「誰も私を責めることはできない」(前編下)




「エミリー!」


山のような大男がエミリーに声をかけます。

エミリーはテンガロンハットを手で持ち上げると男の顔を見上げました。


「薩摩の隼人を殺ろう。

 あいつらは面白いぜ。」


「ごめんよ。

 私を蜂蜜ハニーが待ってるんだ。」


そう答えるエミリーに他の海賊たちも口々に声をかけます。


「主持ちなんて、つまらんぜ。」

「そうそう自由が一番。」

「なんで帰る場所なんか作るかねえ?」


「自由は、たまにで良い。」


エミリーはそう言うと自分の船に飛び移ります。

女たちも叫びます。


「またすぐに会おうぜー!」

「馬鹿野郎ー!」

「浮気してやるー!」


さて、こうして久能配下で最も血に飢えた部隊が岡山城に入城します。

城下では南蛮人だけの部隊がやって来たと噂になりました。


「な、なんでや?」


狗奴王が海兵の数が増えていることに驚きました。

正確にはメンツも入れ替わっているのですが、そこまでは把握していません。

監察役として、それはアカンやろ…。


「スカディ!」


「エミリー!」


二人は再会を祝して抱き合います。

ささっとエミリーの右手がスカディの尻の頬をなで、するするっと下の方まで下りて行きます。


「おい、止せよ。」


スカディが笑って嫌がります。

しかしエミリーは違った反応を見せました。


「…あんた。」


エミリーは「男と寝たな?」と言いかけて止めます。

別にそっちの方が本来は普通ですから。


「殿が吉備の太子と婚礼したとか?」


「時期が時期なので、まだまだ形だけだがな。」


スカディがそう答えてもエミリーは複雑な表情です。


「男なら正室を迎え、稚児と側室を侍らせ、気紛れに並べて犯しても障りないというのに。

 …どうして女という生き物が生まれたのか。」


「そんな男は一握りだ。

 ニコニコしていれば女なら食うには困らん。」


スカディにそう言われても、エミリーはすっきりしません。

二人は並んで歩き、そのまま久能の待つ御殿に向かいました。




久能はエミリーを出迎える前に石棒を外していきます。

彼女を見て、欲情したくないからです。


初めての相手にしても、エミリーよりスカディを選んだのは彼女が嫌いだからではありません。


打算的に言えば、エミリーには私的な部下が居て、頭も切れます。

妖術で子をなして兵を増やすなどと打ち明けて、拒否されれば自分が危うい。


心情的には尊敬する彼女を穢したくないという思いからです。

久能はエミリーの行動力や頭脳を自分にないものだと敬意を抱いています。

部下ではありますが、個人的には引け目を感じるほど彼女には敵わないと感じているのです。


しかし突き付ければ、エミリーに拒否されたくないという男心でしょう。

告白しても断られるのが怖かったのです。


そこに女の見栄が重なったこともあります。

前述した内容と重なりますが、あくまで久能は自分の手で何か戦略に役立つ結果を残したいと思って、こんな異常な方法を取ったのです。


「馬鹿め。」


久能は石棒を見つめて自嘲ぎみに呟きました。

それを箱に入れて隠しておきます。


「私は殿を、今後は妃殿下とお呼びすれば、宜しいのでござるか?」


久能の前に現れたエミリーがそう言って下げた頭を上げ、正座して背を伸ばします。

それに久能は苦笑い。


「ははは…。

 け、殿で良い。」


その後の戦略に関してエミリーと久能は意見を交わしましたが、津山城の話は出て来ませんでした。

ひとしきり話し終えると、その場は解散となりました。


「…。」


久能は石棒を戸棚から取り出すと元の場所に戻します。

吉備国は経済的な基盤になりましたが、やはり強兵を自由に生産できる仮面兵は捨て難い魅力があります。

群雄としての久能は、この戦略に魅入られていました。


死んでも死んでも代わりが効き、しかも絶対服従で強い。

まさに理想の兵団です。


「外で出して15%、中で出して20%。」


「?」


雪姫の言葉を久能は解し兼ねた様子です。

姫は話します。


「精液を膣内で射精しても外で射精しても、それぐらいしか変わらないって話。

 妊娠確率に精液の量は絶対ではないってデータなんな。」


「…精虫くわむしの強さ、という話ですか?」


久能が恥ずかしそうに顔を背けて質問します。

雪姫は、それに答えます。


「精子の奇形を少なくすれば、妊娠率は量に関わりなく上昇する。

 石棒をバージョンアップした。

 もう、射精しなくても122%妊娠する。」


「…いつ、そんな実験結果を?」


久能は雪姫がこういう場面で嘘を吐くと知っています。

そこで聖覚が横槍を入れます。


「我が君の言った話は、確かな話ではありませんが、もう射精の必要はないのでは、と。」


「射精しない、というのは…。

 そ、その…、具体的にどういう意味か?」


「突っ込んで、2~3回動いたら抜いて良いよ。」


雪姫が自分の右手の人差し指を左手の緩い拳の穴に出し入れしながら答えました。

久能は嫌そうに話を続けます。


「解せぬ。

 それで本当に仮面兵の生産に支障ないのか?」


「うぃひひひ…。

 我がアラハバキ実験部隊の驚異の科学力…、もとい呪術力は日々、進化しておる。

 助手もどんどん増やしたし、データも集まって来た。


 久能ちゃんのスーパー精子は、どっぴゅんしなくても大命中間違いなし!

 アラハバキ神の大霊験を信じよ!!」


雪姫は大興奮していますが、久能は呆れています。

しかし久能は聞き捨てならない台詞を逃しませんでした。


「助手が増えた?」


「はい。

 吉備国内でも霊力の高い娘たちを集めて助手を増やしています。」


聖覚が答えると久能は腕を組みました。

そして、やや冷ややかに言い放ちます。


「勝手に話を進めて貰っては困る。」


「うぃーい!

 だって、私の負担を減らしても良いって言ったじゃんよー。」


雪姫がそういうと久能は頭を抑えました。

聖覚がまた横槍を入れます。


「出雲大社の巫女たちは特に霊力が高いので、今後は協力して貰う運びとなっています。

 他にも夷軍から逃げて来た巫女たちを雇い入れれ、今後は大車輪で生産が進みます。

 ですから、久能様は…、その、射精しなくても良いということに…。」


「…これまで日に数人だったものが…。

 これからは何十人にもなる訳か?」


久能がそういって顔を厳しくします。

日に増える兵が一気に10倍になったのですから、戦略が根本からひっくり返りました。

恐るべき威力です。


「クローン戦争の始まりじゃあ…。」


また雪姫が訳の分からないことを言っています。

二人は無視します。


久能は聖覚にもっと詳しい説明を求めます。


「改めて仮面兵の工程を説明致します。

 久能様が種付けした女たちから受精の目安となる3日目に受診を行い、受精卵を取り出します。

 この工程は、完全に姫様以外の巫女たちだけで安定して行われます。」


「ほう。

 …あまり、見ていて楽しい光景ではないな。」


久能はそういって険しい表情で目を細めます。


裸で立つ女たちの下腹部に巫女たちが手を当て、術で受精卵を取り出します。

取り出された受精卵は土器に移され、様々な術式によって胎内と同じ状況で安定化されて行きます。


「あれは?」


「アラハバキ神を模した神像です。」


ゴーグルを着けたような特徴的な顔、全身の紋様…。

遮光器土偶があちこちに祀られています。


「…雪姫様が?」


「術の要ですから…。」


久能は不気味な蕃神に気を悪くしましたが、聖覚の言う通り、あれが術の要。

この場所を聖域とし、結界を作る触媒なのです。

ですから、久能も渋々、受け入れるしかありませんでした。


さらに奥では仕上げられた仮面兵に仮面が装着されます。

この時、仮面には別に特殊な仕掛けはありません。

単に顔を隠すためです。


「ここは、ご覧にならない方が宜しいかと。」


聖覚がその手前で久能を静止した。

仮面の下にあるのは、まがりなりにも久能の血を引く子供の顔です。

久能も足を止めます。


「肝心要の受精卵から大人を作る工程は?」


「それは別の場所で行っています。

 ここは表向きには術で生み出した仮面兵に仮面を着け、呪術で操るよう施術する施設ですから。」


「ここに途中の状態は置かれていないのか…。」


「はい。」


聖覚が言うには、土器に移して保存した受精卵は埋葬用のかめのような陶器に移し、急速に成長させます。


「甕だと?」


「別に何でも良いのですが、手頃な陶器を商人から求めると、それが丁度、調達し易いので…。」


聖覚に言われ、久能は困ったように唸りました。


「死人を詰める甕で仮面兵は育てておったのか…。」


「お、お気に障るようでしたら…。」


「いや、構わん。

 むしろ変に探りを入れられる。

 今のまま埋葬用の甕を買い入れ続けよ。」


久能がそう言うと聖覚は小さく頷き、「分かりました。」と答えます。

また久能はこう続けます。


「こうやって現場を見て、私が邪悪な術を用いているのだという戒めになった。

 確かに夷軍を討つ威力になるが、ここを誰かに知られればと思う、この心こそ、やましいと感じている証でもある。

 それを私は忘れてはならん。」




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