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第5話「クナト」(後編中)




スカディは早速、吉良と尾崎を連れて兵らを集めます。


「お前ら、吉良と尾崎だ。

 まあ、良く分からんツルツルの服を着てるが、これがこいつらの鎧だ。

 仲良くしてやってくれ。」


「オース!」

「ウース!」

「テンノウノタメニー!」

「ヨロシクー!」

「お任せあれー!」


挂甲に大鎧、胸甲キュラッサ、陣笠胴巻、板鎧プレートアーマー…。

随分と個性的な装備のそなえに戦隊ヒーローが加わります。


「んんん?

 なんだ、それ。」


スカディが一人の胴巻に目をやります。

足掻き胴、または海老胴という胴体を動かせる鎧です。


「ああ、夷軍の鎧をヒントに吉備国軍が開発した海老胴具足です。

 こうやって身体を動かすことができます。」


そういって兵士が身体を左右に捻ります。

これまでの鎧の胴丸では曲がらない胴の部分が可動式になっています。


「ほー。

 しかし吉良たちの鎧を見てみろ、まるで全身が足袋みたいにピッチリしてるぞ。

 こっちのが動き易いだろう?」


スカディがそういって二人の身体を触ります。


「スカディ隊長は俺たちの鎧を信じてませんね?」


「いや、お前らは下らん嘘を吐くような連中じゃない。

 もちろん信じるさ。」


吉良にスカディはそう答えました。

またスカディは主たる者を紹介します。


「ルスラン…、えーっと、なんとかかんとかだ。

 無口だが頼りになる。」


馬上からルスランは、二人に一礼をする。

白銀の髪、薄い水色の瞳、雪のような肌。

それを包む漆黒の鎧とマント。


「ルスラン殿、どこの国のお生まれですか?」


吉良が質問します。

しかしルスランは静かにあやふやな答えを返すだけでした。


「遠い異国…。」


そのまま騎馬を走らせ、訓練を続けます。

三人はもやもやしたままルスランの背中を見ていました。


「鸞兵の聖覚だ。」


「僕、聖覚です。

 雪姫様のお世話をするのが忙しいので、あまり訓練にも実戦にも出られませんが…。」


少年のような爽やかさと、お人好しで気の弱そうな印象。

頭に山形帽子シルクハット、ブリティシュ調のジャケットに膝が見える丈の袴を合わせています。


「かっこいい!

 レッド、私、この大きな鳥に乗ってみたいです。」


「ブルー、お前の体重じゃ無理だ。」


「なんでですかー!」


尾崎がそういって怒ります。

フルフェイスのヘルメットのせいで表情が見えませんが、本気で怒っている訳ではないでしょう。


「第一、シードラゴンも操れないじゃないか。

 空を飛ぶなんて無理無理無理…。」


「レッド、酷い!」




一方、兵庫城のある所で。


「これは私が管理する。」


雪姫はそういうと五龍戦隊リュウレンジャーの死んだ三人のスーツを回収しました。

死体は焼かれ荼毘に伏しましたが、スーツは不思議な力によりガジェットに変形したのです。


「…どうするつもりだ?」


「分からない。

 ただ、これは今の技術ではどうこうできるものじゃないし…。

 本来なら天ちゃんに献上すべき代物だ。」


久能の質問に雪姫はそう答えました。

久能も納得します。


「雪姫様にお任せしておきましょう。」


「うん。」


久能が雪姫に訊ねます。


「…しかし夷どもがこういった物を手にしている可能性もあるのでは?」


「いいや、むしろ夷は既に手に入れている。

 これは一種のカウンターだからね。」


「カウンター?」


久能が質問を重ねました。


「…うーん、また余計なことを話しちゃったねえ。

 悪いけど、これ以上、変なこと言う前に黙るよ。」


雪姫はそういうと久能にこれ以上、話しかけられる前に炎に変身して姿を消します。

青い炎の燃え残った部分にうっすらと氷が張っていました。




訓練、物資、人員…。

ある程度、この地で逗留する間に出来る事が済んだ久能たちは、明石城に移ります。

またすぐに明石城を立ち、姫路城に入城しました。


「距離が遠いよお。」


雪姫はたった2日の移動で疲れ切ってしまいました。

体力がない訳ではないのですが、やはり仮面兵の生産がかなり負担のようです。


「雪姫様、大事ありませんか。」


「ちゅかれたあ。」


「なんでやー!」


狗奴王も急に倒れて疲れたアピールを始めます。

同じ王なのに扱いの差が気に入らないようです。


「い、狗奴王様も大事ありませんか?」


「な、なんでやあ…。」


中年オヤジ相手だと久能も流石に気が引けます。

絵面的にもあまり美しいとは言えません。


「うわー、セクハラだあ。」


雪姫がそういって、パッと立ち上がると狗奴王の頭を手加減無用でキックします。


「なんでやあああ!?」




姫路城の主は吉備国キビ伊背那利イセナリ王の王子、都支午利トシゴリです。

ただ王子は不在で遥任の武将がいるだけでした。


「兵庫頭様、お疲れ様にござる。」


「大義である。」


久能はそういうと城の武将たちの上座に座り、感謝を伝えます。


「吉備国王には道中、城を開けて頂き、感謝している。

 陛下にもよろしくお伝えください。」


「大和王国のため戦う勤皇の士であり、摂津解放の英雄、久能様の御志に対する我らの誠意でござる。」


武将たちの筆頭と思しい老齢の武将が向上を述べました。

続いて若い女の武将が口を開きました。


何か話していますが、久能の頭には入って来ません。

それより相手の女部将の整った顔、胸元や服の下にある体が気になっていました。

久能は、ぼうっとそんな事を考えていたのです。


ああ、この女に私の秘密を明かしてやろうか。


何も珍しいことではない。

地位を利用して女を抱く。

それぐらいの楽しみがなければ人の上に立つ苦しみは癒せないのだ。

せめてもの慰めではないか。


「…殿はお疲れのご様子、小難しい話は明日にして貰えねえかな?」


スカディが話に割って入ります。

久能も、ハッとして我に返ります。

ですが、城の武将たちは、この場を引き上げ始めた後でした。


「いかんな。」


「ボーっとしてましたね、殿。」


声をかけられ、久能はスカディに目をやります。

何なのでしょうか、この胸騒ぎは。


スカディは十分に魅力的な女です。

大きな胸、キレイな長い脚、健康的な引き締まった体になまめかしさを感じます。

しかし、この気持ちは何なのでしょう。


久能は彼女を部下として信頼しています。

人間的にも好感を持っていますし、大切にしたいという気持ちは揺らぎません。

なのに体の芯から震えるような気持が起こらないのです。


男は浮気するものと言いますが、こういう感覚なのでしょうか。

より多くの子孫、より様々な子孫の可能性を本能が求めて、こういう衝動が起こるのでしょうか。


怖気がします。

なんて、いやらしい。


久能は寒気を感じ、一人で部屋に逃げ込みます。

畳の上に倒れると口を一文字につぐみ、闇を睨みつけます。


男としてスカディや女たちに情をかけてやるどころか、男としての久能豊は、新しい女を探していたのです。

まるで使い飽きた古着を捨て去るように。

その衝撃的な、自分の心の動きに久能は痛めつけられました。


しかし心の何処かでは安心と言うか、腑に落ちるところもあります。

男にとって新しい女を抱きたいと思うのは、愛が冷める訳ではなく、新しい愛が欲しいだけなのだと。

女と男では愛の取り扱いに違いがあるだけなのだと。


事実、スカディへの愛は失われたわけではありません。

他の女たちを憎いと思ったこともなければ、煩わしいと感じたことはないのです。


しかし。

しかし、しかし残酷なことに男としての部分が新しい畑を欲しがっているのでした。

種をまく畑を増やしたいという、背筋の寒くなるような下劣な声が。


女にとって男に誰よりも愛されたいと願う心があるように、男には真逆の性質があるのです。

より多くの女から、そして男からも信頼され、愛されたいという願望です。

あるいは、男がそういう動物だからこそ、女は愛の質や量に拘るのかも知れません。


でも今日、ハッキリ分かったのです。

スカディを人として信愛していても、種を着ける気が失せたと。


「き、気持ち悪い。」


久能は嫌悪感から逃れられず、夜を明かしました。




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