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第5話「クナト」(後編上)




倉皇そうこうして雪姫まで呼び出され、くだんの赤男の吟味が始まりました。


「何かの術でしょうか?」


「…人間だね。」


久能に雪姫はそう答えました。

驚いた久能は赤男に改めて言葉をかけます。


「貴様が人間と証明された以上、貴様共々仲間の命は保証しよう。


 だが、何者だ。

 その恰好は何だ。

 本当にどこから来た?」


久能が質問すると赤男、吉良馬洋は答えます。


「と、東京。」


その言葉の意味することを吉良も知っているようです。


「なるほど、東京と答えて村人が襲い掛かって来たのだな?」


「…はい。」


東京と言えば夷どもの都、関東の深い谷に閉ざされた大和の民、未踏の地です。

怪しい恰好、東京から来たという返答…。

村人たちが興奮して襲い掛かって来るのも腑に落ちます。


「無礼を詫びよう。

 いや、今更、謝っても貴様の心のわだかまりは解けまいが…。」


「教えてください、東京に何があるのです?」


吉良が弱々しい語勢で久能に訊ねます。


「うぃーい!

 久能ちゃん、こいつキチガイだよ!」


その質問を雪姫が指弾します。

しかし久能は姫を落ち着かせてから吉良に答えます。


「東京は夷どもの土地なのだ。

 我ら大和の民にとって敵地から来たと答えるに等しい。」


「なるほど。

 …ここはどこです?」


「播州。」


「ばんしゅう?」


吉良が聞き返すので久能は「針間国はりまだ」と答えを修正します。

しかしあまり理解していないようです。


「たぶん俺たちはとんでもない過去か、未来か、あるいは多重世界から来ました。

 五龍戦隊リュウレンジャー。

 俺はリュウレッドです。」


「…そ、そうか。」


一旦、久能が雪姫に助言を求めます。


「多元世界?」


「違う歴史をたどった世界じゃない?

 一応、今は西暦600年代だけど、他の世界だと侍はいないし、幕府もないし、夷もいない…。

 って、ダメダメダメダメ。

 これはちょっと話し過ぎた。」


雪姫はそういうと久能に向かって手を突き出します。

そして久能を放置して吉良に直接、話しかけます。


「ねえ、五龍戦隊っていった?

 五青戦隊でも神竜戦隊でもなく?」


「…そんな秘密戦隊は聞いたことがない。」


「ふん、ふん。

 なるほど、分からん。」


雪姫は吉良の返答にそういって引き上げます。

しかし、その表情はおおよその見当が着いた、というトーンを帯びています。


「姫様、話して良い範囲で私とこの吉良に説明を。」


「うーん…。」


久能に声をかけられ、雪姫は少し悩みます。

そしてしばらく思案してから話し始めました。


「吉良ちゃんの来た世界では秘密戦隊っていう連中が居て、世界の平和を守ってるの。

 このツルツルの衣装は秘密戦隊の専用の鎧みたいなもの。


 で、こっちの世界ではえみしっていうのは人間じゃなくて、異世界から来た妖精族エルフなの。

 夷は東日本全土を支配し、今は西日本の古代大和朝廷と戦争中…。

 ここは吉良ちゃんの時代でいう兵庫県の神戸市北西部、摩耶山の近辺。」


ただしくは北東部です。


雪姫の話で二人は一応の理解を深めました。

吉良は人間で、悪意ある敵ではないと分かって久能も安心します。

しかし、同時に申し訳ないという気持ちが強まります。


「事情は分かりました。

 世の中は違えども吉良殿も日本やまとの武士である、ということでしたか。

 数々の無礼、改めて謝罪いたす。」


久能がそう言て頭を下げます。


「いえ、分かって貰えれば。」


吉良は明るい笑顔で答えます。

しかし、久能の表情は重いままです。




おそらく吉良の世界は清浄な社会なのでしょう。


秘密戦隊…。

世を守る武士が、その存在を民衆から秘匿しなくてはならないとは。

きっと余計な不安を与えないようにする心遣いであったのでしょう。


久能の予想は当たりました。


刃を向けられ、反撃もせず、ただ平和に話し合いを訴えるような人間が生きていられるはずがありません。

彼らの魂は気高く、相手を傷つけるぐらいなら自分が傷つくことも厭わない戦士だったのでしょう。

ですが、この血と鉄が全てを決定する世界では、そんな優しさ、清らかさは自滅を招きます。


緑の死体、黄色の死体、黒い死体…。

色違いで吉良と同じ格好をした男たちの無残な死体が兵庫城に届けられました。


「う、うわあああッ!!」


吉良は大粒の涙を浮かべ、仲間の死体の前で泣きます。


「な、なんで…ッ!

 うわあ、なあ…、ひいいいッ!!

 いっ…、ひぐああああーッ!!」


悲しみに悶え、土を握りしめる吉良を余所目に久能は家来たちに訊ねます。


「あと一人おるはずだ。

 死なせるでない。」


「はッ。」

「ほうぼう手を尽くさせます。」


「待て。」


ふと家来たちを久能は呼び止めました。

家来たちも足を止め、久能に向き直ります。


「金子を払っても構わぬ。

 百姓どもに懸賞金(ほうび)を出せ。」


武士は職を守るため、また面子で動きますが、百姓は現金です。

久能の思った通り、金を出せばすぐに百姓は動きました。


やがて最後の一人が見つかりました。


「…罪には問わぬと伝えよ。」


久能は家来たちにそう伝えました。

連れて来られた吉良の仲間は若い娘で、百姓どもに強姦された痕が見受けられます。


「すでに聞いておるかも知れんが、貴様の仲間、吉良馬洋はここで身柄を預かっておる。

 …話せるか?」


「はい。」


女は気丈に顔を上げました。

百姓たちに追われ、決して歯向かわなかった戦士たちの一人です。

どんな汚辱にも耐える凛とした姿に、久能はますます胸を締め付けられました。


「…吉良は先に、その…、死んだ他の仲間を見て取り乱しておる。

 医師に診せ、今は薬で大人しくさせた。


 貴様だけでも命長らえて良かったと思うておるが…。

 こちらは一言もない。」


「すっ…、う、ううう…。」


久能の言葉を聞きながら、女は泣き出しました。

胸につかえるものを感じながら久能は女に言います。


「ひとまず医師に身体を診せよ。」




後日、兵庫城の天守台御殿に二人は呼び出されました。

勿論、五龍戦隊リュウレンジャーのリュウレッドこと吉良馬洋とリュウブルーの尾崎おざき柳雪りゅうせつです。


久能は、暗い気持ちで対面を待ちます。

しかし当の二人は気持ちを切り替えてやって来たのか、表面上は気落ちしているところなど微塵も感じない気迫を見せました。


「命を助けて頂き、本当にありがとうございました。」


「うむ。」


久能は改めて何を言って良いか分かりません。

しかし、吉良が勝手に話を進めます。


「兵庫頭様、俺たちは今のまま兵庫頭様の家来に加えて頂きたいと話し合って決めました。」


「うむ。

 貴様らの事情を理解しておるのも私だけだからな。

 だが、まだ心の傷が癒えていないだろう。

 出仕は、まだ控えるが良い。」


久能がそう答えると二人は一旦、頭を下げます。

しかし尾崎がすぐに頭を上げて答えます。


「いえ。

 私たちも秘密戦隊が一つ、五龍戦隊リュウレンジャー。

 どのようなご命令でも。」


「愛する地球を守る為、我らは捨てた命を兵庫頭様に預けます。」


尾崎の言葉はともかく吉良の言葉は久能には引っかかります。

愛する地球というのは、どういう意味なのでしょう。

しかし大和の民を想う志に違いありません。


「大義である。

 …スカディに任せよう。」


「うっし!」


スカディがガッツポーズします。

狗奴王は悔しそうに声を上げました。


「なんでやー!」


「俺も俺も。」


朝倉坊も手を上げました。

久能は困った顔で言います。


「二人に紹介しよう。

 狗奴クナ王、金世様だ。

 勘定役と監察役をお任せしておる。


 こちらが朝倉あさくら義梵ぎぼん

 世に二人とおらぬカラクリ職人で、様々な仕掛けを発明する才人ぞ。

 また城作りまでこなす多彩な男だ。」


また久能は今度は狗奴王たちに向き直って答えます。


「王と朝倉坊は役方ゆえな。

 この二人は類まれな武士であるからスカディに任せようと思うのだ。」


役方とは、デスクワーカーのことです。

対義語は番方で戦闘員を意味します。


「そして二人とも、もう知っておるだろうが雪姫様。

 東日流ツガル王で優秀な巫覡であらせられる。」


「うぃいいいい!!」


久能に紹介された雪姫が奇声を上げます。

全員、慣れているのか眉一つ動かしません。


「スカディは貴様らの直属の上司になる。

 我が軍の戦闘隊長(侍大将)だ。


 あと、ここにはいないのだがエミリー・スタンフォードという者がいる。

 北米大陸から来たヴァイキングと申す異国の武士だ。

 私の相談役だ。」




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