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第5話「クナト」(前編下)




瑞々しく踊る四肢、大きく揺れる豊乳、熟れた体。

久能は、スカディに最初の実験台としての標的を定めのです。


にわかには信じられんだろう。

 だが、雪姫様の術、霊力は貴様も見ただろう?」


「…。」


あれだけ男勝りなスカディでも状況が上手く飲み込めません。

取り敢えず物陰に場所を移し、あらわになった光景をおずおずと見守ります。


しかし、この女にとって行動こそ信条です。

有無を言わせず久能の見慣れないモノに触れます。

これには久能の方が驚きました。


「なあ!?」


「おー。

 何かの間違いかと思ったけどマジモンか、これ。

 殿、こういう面白いモノは私にくれれば良かったのに。」


倉皇そうこうして久能は済ませることだけ済ませてしまいました。

もともと真面目な性格ですから余計なことをするつもりもないようです。


「でもさ、殿の話じゃ私ひとりじゃ足らなくない?」


「…ま、待て。

 まだ慣らし運転と言うか、実験の段階で…。」


「手緩い!」


スカディが突っぱねます。


「ドカッと行きましょう!

 100人ぐらい、ガガガーっと作って夷を返り討ちにするぐらいでなきゃ!!」


スカディはそういって聞きません。

久能も渋々受け入れるしかありませんでした。

しかし一つだけ条件を付けます。


「このような術を使っていると噂になってはマズい。

 それは、分かるな?」


「そりゃ、まあ。」


「スカディ。

 これは貴様と私だけの秘密とする。

 エミリーや狗奴王、他の主たる者たちには知られてはならぬぞ。」


主たる者とは幹部のことです。

久能は、この”兵員補充”に関してスカディに一任しました。

すぐにスカディは城内で口が堅く、忠義に厚い女たちを集めました。


おそらくこんな異常な方法など用いずとも、この女たちなら夷軍と戦い、その戦いの後で大勢の子を産んで国に忠を尽くそうという肝の座った者たちばかりです。


勿論、子供が産めるから偉いという訳ではありませんが、やはり実際問題として子は国の未来に繋がります。

これは人間が所詮、動物の一種に過ぎない以上、無視できない一側面なのでしょう。


「殿、忠烈仕る!」

「お任せあれ。」

「必ずや成し遂げてみせます!」


「いや、雪姫様の話では皆の子宮で子を育てる訳ではないぞ。

 術で赤ん坊の素のようなものをな、こう抜き取って術で早う大きくするらしいのだ。

 そのように気合を入れんでも良い。」


久能はそういうと文字通り畑に種をまく軽やかさで事を済ませます。

しかし慣れというのは怖いもので久能は役目に順応していきました。

女の恐ろしいところです。


男と違ってクヨクヨ余計なことに頭を悩ませません。

そこがちっとも可愛げがないのですが…。




ともかく3日後、久能は女たちを雪姫に診せました。


「5人中、3人かあ。

 …6割ってことかな?」


「そうですね、我が君。」


雪姫がそういうと聖覚が答えます。

久能は満足そうですが、雪姫は手痛い叱咤を飛ばします。


「低い。

 久能ちゃん、弱い。」


「なあ!?」


久能は目を丸くします。

そのまま雪姫は続けました。


「妊娠する確率は2割。

 でも受精する確率は8割ぐらいなんだよね。

 そこから赤ん坊ができるまでに駄目になるだけで受精の段階なら、もっとうまく行くんだってば、てば。


 あと5人って何?

 30人ぐらいいっきにいけなかったの?」


「それは難しいかと、我が君。」


聖覚が横槍を入れると雪姫は手足をバタつかせます。


「うぃいいいいいいいいいいいいい!!」


「…取り敢えず、この3日で10人と情交した。

 順次、3日経った者をここに連れて来る。」


「10人!?

 初日は5人でなんで10人!?

 算数できないの久能ちゃあんんん!?」


雪姫が怒鳴ると久能はムッとして抗弁します。


「お、女の姫様には男の勝手が分からないのです。

 わ、私とて上手くやろうとしておるのですが…。」


「あああーん。

 これじゃ超力兵団が作れないよお。

 久能ちゃあん、種馬失格だあ~!」


雪姫がそういって口を尖らせると聖覚が抑えます。


「わ、我が君。

 全て久能様の責任にするのは筋違いです。

 この術は我が君が術でお助けするのが前提としてあるのですから。」


「えええー。

 そんなこといった?」


「言いました。」


聖覚が子供をあやすように念押ししました。

雪姫は言い訳がましく顔を膨らませて言います。


「…取り敢えず3人。

 術で仕上げるから明日にでも城外の敵と一戦してみ。」


「!」


久能とスカディが顔を強張らせました。

スカディが声を張ります。


「今、軽々に動くべきではないと知ってそんなことを!?」


「うぃー?

 じゃあ、完成した兵隊がどんなものか調べずにジャンジャカ作るっての。

 いいじゃん。

 どーせ、増やせるんだし。」


雪姫の言葉に、二人は閉口します。

聖覚が無言で二人に頭を下げます。

雪姫はなおも続けてしゃべります。


「ああ、そうだ!

 これまでに作った連中なら死んでも構わないでしょ!?

 どーせ、夜鷹や百姓娘から集めた素で作ったモノだしー。」


「…この大櫓を守っている、こいつらですか?」


「うん!」


雪姫が満面の笑みで久能とスカディの手を握ります。

やれやれと二人は顔を合わせました。

姫は悪戯に友達を誘う様に言います。


「…やろうよお。」


「分かったよ。

 だが、上手く行くんだろうな?」


そうスカディが答えました。

雪姫は自分の両手をパンッと打ち合わせて返します。


「もおー、頑張るから!

 見ちょれよおー!!

 ふぉおおおー!!」


雪姫はそういうと遮光器土偶の仮面を被り、呪文を唱え、怪しげな儀式を始めます。

一同はそれを見守るしかありませんでした。




翌朝、30人程度の兵が夷軍の陣に仕掛けました。

スカディがルスランと共にそれに加わります。


「…本当に3日で人間を作りやがった。」


スカディは小声で独り言を言います。

この目で見るまで信じられませんでしたが、こんな簡単に兵を増やせるなんて。


「…。」


ルスランの表情をスカディが気になって見てみます。

まあ、これだけ城に兵がいるのですから、今はまだ3人増えたところで分かりはしないでしょう。

例の土器の仮面も着けています。


「…面白い光景。」


ルスランは仮面の兵たちを見て、そう言いました。

特に不信がっている様子は見えませんが、何を考えているのかよく分からない女です。

謎です。


スカディは明らかに紫の髪と褐色の肌をした自分の子供…。

もとい自分の卵子で作った兵士がルスランの反応の次に気にかかります。


「うーん…。

 確かに全員、仮面を着けた兵というのは不思議な感じがするぜ。」


スカディはそういってルスランと調子を合わせます。


エミリーやルスランには雪姫の呪術で兵を増やした。

それだけを伝えてあります。

どうやって増やしたのかは伏せています。


「人を?」


「詳しくは話せんとのことだ。」


エミリーに久能がそう伝えました。

何か腑に落ちない様子のエミリーでしたが、特に何も言いません。

雪姫の術、霊力は見ていますから、そういった術があっても不思議はないと納得したのでしょう。


「なんでや!」


「人を増やすというぐらいですから。

 何か知られたくない方法を用いるのかも知れません。」


狗奴王に朝倉がそういってなだめます。

朝倉の場合、恐れるとか、怪しむ以上に対抗心を燃やします。


「俺もカラクリをもっと研究して城を強化します!」


「なんでや!」


評定は穏やかに済みました。

やはり超常の霊能力者である雪姫が神秘に包まれている以上、誰も意見できないようです。


「…3人というのは…。

 いや、確かにそれは驚きでござるが、やや数が少ないように感じますな。」


「まあ、まだ実験せねばならぬ段階らしくてな。

 取り敢えず、今仕上がった者を試すということだ。」


久能がエミリーにそう言うと、何だか表情が険しくなります。


「殿…、慎重な殿らしくもござらん。」


「うむ。

 私も兵を作るという話に乗せられてしまったかも知れん。

 いや、だが、姫の研究が進めば、と思わんか?」


「上手く行けばそれは重畳ですが。」


エミリーも実験という言葉が引っかかったようですが、そこは控えます。


斯くして、実験は始まりました。

城の裏手から出撃した小勢は池田城を囲む寄せ手の城、包囲軍の砦に襲い掛かります。


寄せ手の城といっても小さな小屋に柵があるだけです。

そこに数十名の夷たちがキャンプしています。


『敵だー!』


粗末な櫓からスカディたちを見つけた夷が叫びます。

それを久能とスカディの血を引く例の兵士が射殺します。


「おおお!」


スカディは、妙に心が躍るのを感じました。

しかしルスランの前ではやたらに騒ぐのも不自然と思い、自重します。


「ルスラン、見たか。

 なかなかの腕だぞ、雪姫の作った兵!」


「そうね…。」


無表情のまま、素っ気無い態度のルスラン。

本当に何を考えているのか掴めません。


結果は快勝でした。


雪姫が太鼓判をしたように仮面兵は久能と同レベルの武芸を身に着けています。

たった3日で上級武士として育てられた戦士に匹敵する兵が3人も!

しかも城内では次々に新しい兵が仕上げられていきます。


「…これは凄いぞ!」


スカディは大喜びしますが、ルスランはほうけた表情のままでした。

しかし少し間をおいてから珍しく私見を述べます。


「これだけの術があって東日流王は、なぜ夷に敗れたのか…。」


スカディはルスランの言葉に顔をしかめます。


「つまらんこと気にするな!

 なんでお前はそう、仏頂面で面白くもないこというんだよぉ~!!」


「…。」


ルスランは目を伏せ、謝罪のつもりなのか頭を下げました。

スカディは耳の穴に指を突っ込んで「やれやれ」という調子になります。


凄いぞ。

これは間違いなく凄いぞ。

スカディの頭の中にはそれしかありませんでした。




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