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第5話「クナト」(前編中)




恐るべき計画を進めなければなりません。

慎重に準備しなくては。

ですが、時間的な余裕はありません。


敵の包囲軍はこちらの疲労を待っています。

こちらには援軍も来ない上に、外に敵の包囲を解く解囲軍もいません。


「難しく考えなくても良いよ。

 最低、誰が相手でも久能ちゃんぐらいの強い戦士が10日もあれば30人は作れるんだから。

 楽勝だよ。」


「30人…。」


雪姫の言葉に久能は動揺を隠せません。

戦争で人が死ぬのは、あっという間ですが、兵員の補充はそうはいきません。

それも百姓兵のような半農半武の兵ではなく、自分のような生粋の武士だと言います。


「戦況を大きく変えられる訳か。」


「なんなら聖覚でもいいよ。

 いいよね?」


雪姫が話を振ると聖覚がゆっくりと頷きました。

まだ雪姫が話し続けます。


「取り敢えずお試しで、どーっすか?」


「いや、流石に…。」


久能はそう言って断りました。

流石に知り合って日も浅い聖覚と情交するのは気が引けます。


「し、失礼だが姫様。

 相手は私が決める。

 それだけは譲れない。」


少し恥ずかしそうに久能はそう言いました。

さて、そんな話をしながら雪姫は一先ず術を完成させます。

霊気に満ちた石棒を久能の身体のしかるべき部分に導きます。


「…う。」


驚異の瞬間です。

ただの石の彫像が本物の男性器になったのです。


しかし雪姫はそれをすぐに外します。

石棒は元に戻り、何もなかったかのように久能の身体も平気です。


「うん。

 キレイにくっ付いたし、キレイに元に戻るね。」


術が安全に安定したことを雪姫は確認すると石棒を久能に持たせました。


「着脱自由の完全変形、デラックス・アラハバキ・のびーるちんちん。

 今のところ特に異常もないし、発射できるか、命中させられるかだけ後で教えてね。」


「…姫様、あまり品の無い言葉はお止め下さい。」


石棒を仕舞いながら久能が苦々しく注意します。

それを雪姫は舌を出して笑いました。


「うぃーひひひ。」




久能は自分に改めて言い聞かせます。

自分は神聖な命を持て遊んでいる訳でも、色情に狂った訳でもないのだと。


古くより武家は情交を、男女の結びつきを武器として来た。

これは何もおかしいことではない。

呪術の一つだ。

立派な戦略、戦術の一つなのだ。


大和王国という一つの国の危機ではないか。

このような術と関係なく、女は子を産めと、女の戦いだと誰もがそう言うに決まっている。

これは諧謔ではない、戦争の一部だ、立派な戦いだ。


「エミリー。」


「殿、雪姫様のところはどうでしたか?

 ルスランに聞いたら殿はそちらに行っておられたと聞きましてござる。」


「ああ。」


久能は浮かない表情です。

しかし、虚ろながらも鋭い目がエミリーの様子をじっと見ています。


弾ける笑顔、意志の強そうな眼つき、時に悪辣で、賢い女。

海兵セーラー服という妙な襟の着いた真っ白な上着を着ています。

下は真っ黒なホットパンツで生足が白く伸びています。


「…。」


久能は思わず、その場に座り目を伏せます。

男が普段、女の体のどこをどう見て、何を感じているのか、まざまざと突き付けられたようです。

早鐘のように心臓が踊り、妙な汗が体を、じとっと包みます。


「それにしても夷どもも動きませんなあ。

 あれだけの兵を動かすとなれば、相当な負担がかかっておるはず。

 案外、このまま引き上げて行くやも。」


「油断すまいぞ。」


「ははは、それは勿論。」


エミリーが笑います。

久能は思わずドキッとしました。


「…敵はこちらが疲れるのを待ってお…。」


気を紛らわせようと口を開いたのに、急に話を止めて久能はギョッとします。

エミリーのホットパンツの後ろが破れて尻が一部、透けて見えます。


「疲れておるのは朝倉坊だけでしょう。

 何せ、この城の守りはとびっきり厄介でござる。」


エミリーはそういって明るい調子で話し続けます。

しかし久能はもう気が気でなりません。

何も言わずに部屋を後にしました。


「あら?」


残されたエミリーは、何が気に障ったのかと考え込みます。

ですが、まるで見当がつきません。




久能にも経験がない訳ではないのです。

武士にとって婚礼は重要な儀式であり、家と家を結びつけるものでした。


日本では元来、妻問つまどい婚が基本で男が女の実家に通う形式でした。

離婚という制度もなく、男が女の家に通わなくなれば結び付きも消えたのです。


生まれた子供は女の父親、つまり女の家の家長により誰が子供の父親か決まります。

ですから同じ女と何人もの男が情交している場合、一番、家柄の良い男が選ばれることが多かったのです。

おまけに子供は女の父親が家に置き、そのまま育てました。


このため子供は父親より、祖父や母親の言い成りになったのです。

これは摂関政治、孫の天皇を祖父である関白が自由に操るという政治形態を生みました。


しかし公家と違って荒々しい武家は女を自分の家に連れ去り、そこで情交し、そこで子を産ませ、子供を自分で育てるという形式を取りました。

跡取りである子供が女の実家の都合で勝手に扱われては困るからです。

これが嫁入り婚です。


また武家の場合、初枕という習慣がありました。

初枕とは性教育の一環として、情交の経験のある年長の異性と元服・髪結前の若い子供が実際に寝所を共にするというものです。


男の場合、子供が産まれ難い30代の未亡人などが相手に選ばれました。

しかし初枕の相手は男にとって心を許せる特別な女となり、長く傍に置く人もいたようです。


問題は女の場合で、武家以外では流石に女は本当に情交することはなく、だいたいの話を聞かされたり、絵図などで示されることが普通でした。

ですが武家だけは実際に情交する必要があったようです。


その理由が破瓜です。

情交の経験のない処女が破瓜すると血が出るのですが、血は穢れとして武家は嫌ったようです。

ですから武家では女は必ず他家に嫁ぐ前に初枕を終えておく、という説もあるようです。


もっとも現実にどうだったのかは断言できません。

しかし久能豊の場合、上記の理由から12歳の時に初枕を済ませました。




「…あれ以来、まともに経験のないこと故。

 如何に処すべきか。」


久能は重くなった股下に頭を悩ませます。

経験があると言っても5年も前のことで髪結の記念に一度きり。

しかも今度は立場を変えて事に望まねばなりません。


しかし、しかし数日で兵力を増やせるというのは魅力的です。

決断を早くし、上々に済ませれば、あるいは…。


「功に焦っておるのか。」


兵が増やせる、兵が増やせる、兵が増やせる…。

これほど甘美な武魂をくすぐる言葉があるでしょうか?

久能のような生真面目で野心と無縁な侍でも、その誘惑を無視し切れません。


思えば帝や諸王は、そういった俗っぽい欲からは遠い身分なのでしょう。

自由に兵を増やせるなどという手段に軽々に手を出す人たちではないのです。

勿論、現状で大和王国の最高権威にあるのですから、今以上の力を得て、今以上の地位を得ても、自分にそれを維持する能力があるのか、それをよくよく知っています。


しかし満たされない者たちは何かないかと手を尽くすものです。

足掻き、渇望し、探し求めた答えにすがり付かなければ前に進めません。

それが身の程を超えた”魔”でも…!


「これは功名心から来る我欲ではない。

 私は大和の運命を、この手で変えるのだ。」


久能は今、ごく普通の武人から英雄に向けて歩み出しました。

権力者の操り人形ではなく、己の志しに順ずる英雄に。


乱世が英雄を呼び、英雄は時代に応える。

夷どもに蚕食された大和民族の種としての存続を願い、その民の中から英雄が一歩進み出たのです。




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