第4話「貫け!のびーるちんちん」(後編下)
北条と久能の対面は何もなく済んだ。
北条は気落ちしているのか、近臣が彼を無気力にしたのか、呆けていた。
「殿。」
「ああ、エミリーか。」
久能は、相変わらずのエミリーの恰好に苦々しい表情。
「せめて、ここに居る間は平服に着替えんか?
そのホットパンツとかいう袴は目立つ。」
「はあ?」
高温多湿の日本ですから。
そこはそう、エミリーに言わせれば、自分以外も大概の露出度です。
百姓や下女に至っては胸元を開け、男も女も半裸状態で往来を歩いています。
結局、皆エミリーのホットパンツが動き易いし、便利そうという理由で量産体制まで始めてしまいます。
それは、また後の話ですが。
「摂津に向かう前に募兵しましょう。
大半が九州に行った後で望み薄ですが…。」
傷の治ったスカディが久能にそう提案しました。
他の負傷した兵の事もあり、当面やることがないので許可します。
それが案外、大勢が名乗り出ます。
摂津池田城の健闘を知り、多くの人たちが久能の下に集まります。
しかし大半は摂津まで、という条件で出雲国までは着いて行くつもりはないようです。
要するに大和国から離れたいということでしょう。
「うぃーい!
私もやりたい!!」
雪姫がそういって募兵を手伝いたいというので、久能が許可したのが間違いでした。
「なんで殴った!?」
思わず雪姫に久能は怒鳴り付けます。
話を聞けば、募兵で集まった百姓や浪人を物陰から棒で殴り付けたとの事です。
「えええー…。
御冗談を、ってやりたいじゃん。
七人の侍みたいに…。」
「な、何を訳の分からないことを…。」
久能は頭を抑えます。
ともかく怪我した者の数が多いので悪評が広がらないか心配です。
「聖覚ぅー。」
「も、申し訳ありません。
我が君には、僕から言って聞かせますから…。」
聖覚がそういって久能に平謝りしますが、雪姫は駄々をこねたままです。
「取り敢えず、大人しく出立まで過ごされまし。
それ以外、私から姫様にお頼み申し上げる事、他にありませぬ。」
「嫌ややー!!」
「では。」
久能が退去すると雪姫が豹変します。
子供じみた雰囲気が失せ、神妙な面持ちに変わります。
「…さて、どうやって切り出す、おい。」
「雪姫様…。」
聖覚は青くなって主を見つめます。
やがて、もごもごと口を動かし主君に意見します。
「やはり、あの術は倫理に悖ります。」
「何が倫理か。
この大事に何故、帝も諸王も我の術を採らぬ。
貴も我の術を邪悪と詰るかや?」
ちゃら、と雪姫の首飾りの勾玉が音を立てます。
雪姫は首を回し、ゴリゴリ、と音を立てて言います。
「我は何も望まぬ。
津保化族も東人も大和もないわいな。
我は、ただただ戦を終わらせたいだけよ。」
「我が君の志、僕も承知しております。
ですが、帝もお許しにならなかった禁忌…。」
「しっしっ!」
雪姫は急に手をかざし、聖覚に平伏を命令します。
聖覚も頭を床に擦り付け、少し下がって主君に許しを乞います。
「しっしっ!」
しかし雪姫は、なおも下がれと命じます。
止む無く聖覚は壺まで降り、さらに後ろに下がって土下座します。
ようやく怒りが収まったのか、雪姫は声を上げました。
「禁止などされておらぬ!
第一、そもそも、まず、誰も我の術を解しておらぬのよ。
…久能には、我より話を持ち掛ける。」
聖覚は平伏しつつ、身体を揺らして翻意を促します。
しかし雪姫は聞き入れません。
「もう、良い!
…何、まだ久能が乗ると決まった訳ではない。」
「では、久能様が断れば…。」
恐る恐る聖覚は、頭を地面に擦り付けたまま雪姫に訊ねました。
雪姫も不承不承、答えます。
「ああ。」
「御意。」
聖覚は安堵したのか、一息つきました。
雪姫も直って良いと許します。
また、こうも告げました。
「久能は生真面目に、この国を救わんとしておじゃる。
我の術は危険なれど、彼は間違い起こすまい。
…今となっては北条が我の術を手にしておらんで良かったと思うておるわ。」
「全くです。」
皆の負傷が癒えた頃、久能は南和から夷と大和の競合地域である北和に進撃します。
夷軍畿内軍団大将グァーアルも動きますが逃げられました。
三夜の手引きにより、風魔忍の情報収集で久能は敵の目を盗むと敵中横断を成功させます。
しかしグァーアルは、大阪城のギルギン部隊も動かし、池田城に攻め寄せます。
「流石に城の仕掛けだけでは守り切れんぞ。」
朝倉が櫓から敵を眺めて、そう言いました。
摂津池田城を囲む夷軍は4千と言ったところ。
畿内軍団の限界を超えた兵数が動員されています。
「なんでや!」
「それだけ雪姫様を危険視しているんですよ。」
櫓の下に現れた狗奴王に朝倉が答えます。
「それにしても、たまげたなあ。」
しかし朝倉少年が平静でいられたのも、これが最後でした。
夷軍は攻城兵器を持ち出し、カタパルトや投石機で城のカラクリの範囲外から攻城を始めます。
「なんでやあああ!」
「なんでやー!」
朝倉と狗奴王が一緒に叫びました。
なんて事の無い話です。
朝倉が天才児と言われていても、カラクリ自体を巨大化させるという発想がなかったのでしょう。
彼が苦心したカラクリよりずっと粗雑でも大型の投石機の方が威力があります。
「あんなの邪道です!
大きければ、そりゃ威力は上がって当然です!
大したことのない発明ですよ!!」
「作れるのか?」
「…あれより小さいのなら。」
江戸時代の伝説的カラクリ職人、カラクリ義衛門こと田中義重も蒸気船を見て、同じように答えました。
小さいのならすぐに真似できます、と。
久能に似た物を作れるか、と聞かれ朝倉は突貫工事で弩弓砲を作り、対抗します。
しかしこっちが1発撃つ間に、向こうは100発は撃ち返してきます。
「流石に朝倉坊だけでは無理だな。」
久能は天守閣から戦場を見下ろしながら思案します。
「おっし、夜襲かけようぜ。
私らにちょっと任せてくれれば…。」
横にいたスカディがそういって鼻息を荒くします。
しかし久能は否定的です。
「人間相手ならともかく夷は夜目が効く。」
「うぐ!」
スカディは痛いところを突かれ、しょぼんとなりました。
久能はさらに告げます。
「むしろこちらが夜襲に備えなければ。」
「御意。」
スカディは、気持ちを切り替えて守備を固めるべく奮起します。
しかし、攻めない事には動けません。
「エミリー、お前の見立てを聞こう。」
「…何か考えがあれば、とっくに…。」
エミリーは、そういって帽子を目深くかぶり直して、顔を隠してしまいました。
久能も腕組みします。
ルスランは庭石の上にいて、池の鯉を見ています。
謎です。
結局、忙しそうにしているのは、朝倉や狗奴王、飯炊きのお義ぐらいです。
夷軍もこの城のカラクリを怖がっているのか、全く近寄りません。
打つ手なし。
「…そういえば雪姫様は?」
思い出したように久能がルスランに訊ねます。
ルスランは黙って指をさしました。
城内の戍亥大櫓に雪姫と聖覚は居ました。
周辺は、姫が術で操っている例の怪しい兵たちが守っています。
小姓の又兵衛を連れ、久能は櫓を訪れます。
「雪姫様、私です。」
「うぃーい!
上がって、上がってー!!」
朝倉が作った戍亥大櫓は外観は3階建てに見えますが、実は2階しかありません。
わざと窓と屋根が多く作ってあり、敵を欺く仕掛けです。
「前に私が姫様を怒ったことを根に持っておられますか?」
「いやあー。
なんでー?」
「妙に大人しくしておられるので。」
久能が雪姫の出方を伺います。
なんとなく、女の勘というか、雪姫が隠し事をしている気がするのです。
「…私さあ。」
「は。」
雪姫が何か悪戯を告白するような調子で久能に話し始めました。
聖覚は部屋の隅で伺候していますが、何も言いません。
「尾州が落ちた時に私に任せてくれれば、なんとかなるって、天ちゃんに言ったんね。
でも結局、受け入れて貰えなくってさあ。
…聞きたい?」
「…何を。」
「貫け、のびーる…、ちん、ちん。」
雪姫がそういって服から取り出したのは、石棒です。
石棒。
男性器を模して作られた石の像であり、日本に限らず世界中に似たような呪物が存在します。
特に日本ではイザナギやミシャグジ、アラハバキ、サルタヒコなどが塞の神として信仰されました。
塞の神とは、交通の安全を司る神であり道の神の意です。
しかし上記のサルタヒコを除く三柱の神の場合、男性器を女性器に挿入し、穴を塞ぐ、つまり情交と子宝の神という意味を併せ持ちました。
中でもアラハバキ神は、下半身を表す神という俗説があります。
ですが、アラハバキ神に関連する情報にはアラハバキ神は女神というものも多く、アラハバキ神を模していると考えられた遮光器土偶も乳房があり、女性を象徴しています。
「極端な話、人間の数が増えれば夷なんて問題じゃないんだよ。
だからさ、取り敢えず尾州戦で失った3万人を補充しようって提案したんだけどさ。
久能ちゃあーん、どう思う?」




