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第4話「貫け!のびーるちんちん」(後編上)




話し合いの結果、高野山を降りた久能たちは大和葛城の北条九厳の下を目指す事にしました。

海路も考えたのですが、最近は海賊も多く安全ではありません。


「近隣の百姓も夷の乱取りで弱ってるからねえ。」


乱取りとは略奪のことです。

各地で夷軍は略奪を繰り返しており、その勢いは原住民を根絶やしにするほどでした。

作物や金属などの物資は収奪し、人間は食べるか俘虜兵として連れ去ります。


海賊もそうやって生活基盤を壊された百姓でした。

もう大和の民同士でも敵になる状態です。


「なら陸路はもっと危険では?」


「うんにゃ、紀伊山地は手つかずだから。」


雪姫の提言を受け、久能たちは陸路を選んだのでした。

確かに、もし海上で戦闘になるよりは、やり様があります。


しかし倉皇そうこうしている間に夷軍が追撃に入ります。

夜目が効く分、日が暮れてからの方が敵に有利です。


「夜は手に負えん!」

「始末が悪いってのッ!」


大和へ向かう道なき道を進む途中、夷軍と衝突しました。

雪姫の青い炎がある分、幾分かは明るくなるのですが昼間のようには戦えません。


「この先、敵は先回りしております。」


味方の兵の人影から三夜が顔だけを出して報告します。

不気味な女。

久能は戸惑いながらも彼女の手柄を褒めます。


「報せてくれて感謝する。」


久能にそう告げられ、三夜は闇の中に溶けて行きました。

エミリーに久能が声をかけます。


「どうする?」


「道を変えます。

 …といっても土地勘がありませぬ故、雪姫様にお願いするしかござらぬっ。」


闇夜から降る矢を弾きながら、久能一行はまとまって戦います。

攻撃だけでなく進む速度も夷軍に利があるようでは…。


「うぃいいいい!!

 面倒くさぁぁぁい!!

 うっぎゃあああーッ!!」


長時間の緊張に堪えられなくなった雪姫がところ構わず攻撃を放ちます。

一時的に敵の攻勢も止み、一息つけるのですが、これでは姫の体力がもちません。


「我が君、御平らに!」


聖覚が雪姫を抑えますが、自重しません。

ちょっとでも戦闘が続くとすぐに暴れ出します。


強さとか有能とか、そんなのと関係なく戦力にならないタイプの人です。

…なんだか、諸王というのはそういう人が多いのかも知れません。


「御平らに願いますッ!」


「うぇえーい!

 うえみでたーッ!!

 ふぉおおおーッ!!」


雪姫の癇癪かんしゃくが続く間、一先ず久能たちは休めます。

ルスランが回復魔法で皆を治療します。

小さな黒猫が傷口にしがみつき、出血を抑えます。


「いっだいっ!」


スカディが声を上げますが、ルスランは気に留めません。

術に集中していて、それどころではありませんし、戦場では慣れっこのようです。


「…あまり、あれをやられると敵軍の優先度が上がります。」


エミリーが久能の隣で雪姫の様子を、そう評しました。

確かに、ああも暴れられては敵軍が無視できなくなり、追討の手が激しくなりそうです。


「しかし稀な才人であることは間違いない。

 …ここで見捨てて行くわけにはいかん。

 本人は悪人ではないようだしな。」


「…それは認めます。」


しかし一同が油断している隙を突き、決死隊が懐に飛び込んできます。

数名の夷兵が物陰から躍り出て雪姫に短剣を向けます。


「わがきみゃ!?」


聖覚が咄嗟にレイピアで一人を迎え撃ちますが、5人の敵が雪姫に向かって行きます。

突進してくる夷どもに雪姫は無防備に!


『死ね、サル!』

『覚悟ぁあ!』

『これまでだー!』


「ほい。」


雪姫が何かを振り下ろし、一撃で5人の敵兵を薙ぎ払います。

一瞬のことで何か分かりませんでしたが、おびただしい血が飛び散りました。


『行くぞー!』


さらに4人来ます。

雪姫は振り返りざまに軽く手を振りました。


ぶぎゃあああん、と気味の悪い音。

敵の骨も肉も削ぎ飛ばし、簡単にすり潰してしまいます。


「貫け、のびーるちんちん。」


雪姫の手に妙な道具が握られています。


のびーるちんちん、ペーパーカメレオン、紙ヨーヨー…。

色々な名前がありますが、棒に巻き付けた紙を伸ばして遊ぶ子供の玩具です。

ただし、雪姫が手にしているものはミヨイ紙という古代の呪術に用いるもので出来ています。


昔、珍しいものには何でも霊験があると人々は持て囃しました。


トマトには媚薬のような効果があるとか、コーラは元気になるという噂です。

現代でもマムシには精力剤となる誤解がありますが、あれは肉食が珍しい時代の名残です。

どれも特に珍しい成分はありません。


…コカが使われていたコカ・コーラは別ですが。


紙は中国で発明されました。

もともとはエジプトのパピルスが原形ですが、パピルスの材料がない中国では木の皮を使ったのですが、それがパピルスよりずっと丈夫だったのです。


当然、これは日本にも製法が伝わりました。

しかし高温多湿の日本では中国の製法では紙が崩れるので何度も技術が更新されます。

結果、”和紙”と呼ばれる唐紙とは比べ物にならない強靭な紙が発明されます。


和紙は書家の憧れ、特別な紙として中国でも持て囃され、わざわざ海を越えて取引されたほどです。


ミヨイ紙は伝説の呪物で、ハッキリした伝承はありません。

いわばオリハルコンやアダマンタイトのような”特別な金属”ならぬ”特別な紙”です。


「ちゅらぬけ、のびぃぃぃぃる、ちん…、ちん。」


雪姫がふざけ半分でのびーるちんちんを振るいます。

回転する紙の刃がドリルのように敵を撃ち抜き、肉片を辺りにまき散らしながら手元に戻ります。

この兵器の恐ろしいところは、伸び切ると戻ろうとして加速し、威力を増すことです。


そして手のスナップで自由に射程を変化させられるのです。

近くでも遠くでも変幻自在に敵を攻撃できます。


「雪姫様、それがあるなら最初から…。」


「やだ。

 これ、一歩間違ったらバラバラになって死ぬし。」


姫はそう言いましたが、横で見ていても軽く扱っているようにしか見えません。

ですが、確かに取り扱いを間違えば自分も傷つけてしまうのは納得がいきます。


「…我が君にあれを抜かせないで頂きたい。

 調子に乗ると木や岩を面白半分に…。」


「…なるほど。」


エミリーが聖覚の言葉に頷きます。

馬鹿に刃物を持たせるのは危険です。


「うぃいいいい!!」


気が着くと両手にのびーるちんちんを持って振り回して使っています。

もう敵の姿はありません。

早速、木や地面を掘り返して遊んでいます。


「我が君、もうそれまでに…。」


「うぇーえええ。

 折角、楽しくなって来たのに。」


そう言うと上着の裾から剣呑なものを取り出します。


「ブチ抜け、ぶっとい…、のびーる………ちん、ちん☆」


ギョイイイーン!

プロペラのようなけたたましい音が響き、林を薙ぎ倒し、地面がえぐれます。


「たぁーのしーい!」


事の異常さに夷軍は引き上げて行きます。

木々が飛び、地面に大穴が開き、風が千切れ、雲にも手が届くようです。


「ちーんちーん!

 ばばばば、どっかーん!!」


「やめないか!」


聖覚が怒鳴ると雪姫は大人しくなりました。

のびーるちんちんを服にしまいます。


「ご、ごめん。」


「い、いえ。

 ご無礼を、我が君。」




翌朝、久能たちは北条九厳の陣屋に到達しました。

少し前までは公家や大身旗本たちが伺候していましたが、九州の大友を頼って移動してしまったようです。

船もありません。


「久能兵庫頭にござる。」


「おお、兵庫殿。」

「摂津におられると聞きましたが?」


久能が姿を見せるとすぐに厚遇されました。

兵庫頭といえば大名が就くような官位官職です。

南蛮人のエミリーには詳しく理解が及びませんが、普通ではないことは伺い知れます。


「この国の慣習が分からないのでござるが、久能様のポジションというのは?」


「久能家自体は、そんな大きな侍じゃないんだよね。

 …藤原氏流としては、まあ不自然でもないけど。」


雪姫も何かハッキリしない物言いです。

ただ、エミリーも深くは詮索しません。


「上様が久能殿に御目見えを許しました。

 こちらに…。」


女官たちに呼ばれ、久能だけが白書院に通されます。

他のメンバーは北条の家来たちが駐留する寺に移動させられました。


「あまり上様の前で余計なことを言わないよう。

 …宜しいかな。」


「分かりましてござる。」


御目見えの前に久能に近習たちが釘を刺す。

久能もそれを了解した。




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