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第4話「貫け!のびーるちんちん」(前編下)




生まれた時から訓練に励み、成人する頃には一級の才能を開花させてる上流階級の戦闘員と百姓兵では勝負になりません。

雪姫、久能の戦闘力は、そういう類のものでした。


『形が悪い。

 ともかく一旦引くぞ。』


久能勢と雪姫に挟まれ、ゼリンクは撤退を余儀なくされます。

予想外の損害に嫌な汗が体に噴き出します。


ゼリンクが引き上げると久能は味方を率いて雪姫と合流します。

雪姫も三夜の姿を見ると相手が例の話の相手だと分かり、温かく出迎えます。


「うぃーい!

 お迎えごくろうさーん!!」


王様って、狗奴王もそうですが、こんなのばかりなのかと一同は心配になります。

遮光器土偶を模した仮面に、貫頭衣、勾玉の首飾り、腕輪に足輪。

何より東日流王は、まだ子供ではありませんか。


「東日流王、雪姫様でしょうか?」


「うぃいいいいいいいいいいいいい!!」


雪姫は久能に飛びつくと大声でじゃれ付きます。

一同、唖然。


「我が君は病気ではありません。

 我が君は健康そのものです。」


聖覚がそういって一同の不安を払拭しようとしますが、嫌な汗が止まりませんでした。

久能は雪姫をそのままに、まだ話の通じそうな聖覚に訊ねます。


「ええ、と。

 聖覚と言ったか。

 雪姫様の家来は、貴様一人なのか?」


「…まあ、我が君が、こういう人…、ですから…、ね。」


久能は自分に抱き着いている雪姫を注意深く見つめます。

確かに優れた術士のようですが、まともなしつけを受けて来なかったようです。


「では、早くここを立ち去ろう。

 夷軍に狙われているとなれば、強行軍も止むを得ん。」


「いや…。」


エミリーが表情を暗くします。


「敵が行動を起こした以上、ここに来るまでのように大阪城の目の前を通過することは不可能でござる。

 このまま大和路に向かい、なんとか情報を集めて敵の目を掻い潜らなければ…。」


「いや、ああ。

 …だが、な。」


エミリーに指摘され、久能も考え込みます。

夷軍は山背国から河内、和泉の両国をぶち抜いて勢力を伸ばしています。

ここ紀州から摂津に戻るには、どうやっても敵の勢力圏を抜けなければなりません。


敵の目を盗むにしろ、バラバラになって摂津を目指すにしろ。

敵の守備線を一時的にでも突破するだけの衝力が必要になってきます。


重要なのは、素早く一点に火力を集中させることです。


時間をかけて細かく攻撃を重ねて、戦術を活かして敵を突破するには彼我戦力差が大き過ぎます。

敵の回復と反撃を阻止し切れません。


生半可な攻撃力でも山背国から摂津までの長距離を移動する間に、どこかで追撃を受けます。

追撃を防ぐには、ただ目を盗んで素早く移動する前に敵に打撃を与える必要があります。


「敵中横断、これは容易には捗らぬぞ…。」


久能がそういうとエミリーも無言で頷きます。

そんな二人の会話に聖覚が横から口を挟みました。


「船がありますよ。」


「天磐楠舟が?」


「帝より下賜されました。

 摂津まで1時間もあればひとっ飛びです。」


一同から明るい歓声が上がります。

尾州・近江陥落より正規軍に大打撃を受けてなお、大和軍が夷軍に抗し切れるのも天磐楠舟、この空飛ぶ船かあるからです。

夷軍とはいえ、この空中軍艦には未だに手が出せないのです。


「ねえ、そーいや、あっちの方向にあった船が見えないんだけど?」


急に雪姫が不穏当な発言。

聖覚が主の指差す方向を見やり、猫のように声を上げました。


「わ、我が君ぃッ!

 ふ、船が見えませんッ!?」


「壊されちゃったね。」


聖覚が鸞鳥に飛び乗って山の尾根に泊めてあった船を見に行きます。

雪姫が予想した通り、敵に見つかって破壊されています。

周りには船を守っていた素焼きの仮面を着けた兵士たちが倒れています。


天磐楠舟は呪術で操舵する魔法道具です。


当然、術を知らなければ動かすことはできませんし、容易に解析できるような代物ではありません。

もともとは神世かむよの時代、神々の戦乱で使用された超兵器なのです。

運用する大和の民もコピーしているだけで、まだまだ理解できないところが多い、謎の兵器でした。


夷軍も奪えないと知っているのでしょう。

見つけ次第に破壊する命令を与えられていたはずです。


「…ああ、帝より下賜された船がぁ…。」


破砕された天磐楠舟は材料である磐楠の性質により天に昇って行きます。




元の場所では久能が雪姫に訊ねます。


「ところで、天磐楠はどこで育てられているか、雪姫様はご存知でしょうか?」


「…諸王はおおよその場所を類推してるけど。

 ここで話すことはできないね。」


久能は「やはり」と声に出さずに口だけを動かします。

また質問を重ねました。


「紀州は、もとは”木の国”と呼ばれていたようですが、やはりここに?」


「だーかーらー。

 下賤な連中に話すようなことじゃないんだってば、てば。」


雪姫は誤魔化しますが、久能は引き下がりません。


「なぜ隠す必要があるのですか。」


「…そりゃ、太陽が見てるから。」


雪姫は、そういって大真面目に空を指差します。

真っ白な太陽が中天に輝き、光を降らしています。


久能には心当たりがあります。

確か、狗奴王も同じようなことを前に行っていた気がします。

宮中の公家たちさえ、似たようなことを言っていました。


「帝にそれだけの霊力があるなら、どうして?」


「…てゆーか、第一に本当に何も知らないし、話せないんだよね。

 術を使う上で最も危険なことって何か知ってる?」


「いえ。」


「それが術か、自然現象か証明できないってこと。

 悪霊憑きと精神病を正確に見抜かないとアレだ、手遅れになるって話。

 天ちゃんや天照てんてるの神威は、あらゆる敵を沈黙させる絶対的な霊験…。」


”天ちゃん”とは天皇の意、つまり帝のことです。

雪姫は話し続けます。


「でも、それが自然現象か、天ちゃんの術なのか、皆には分からないでしょ?

 だから、天ちゃんは力を振るわないし、その全てを教えない。

 知れば皆、天ちゃんを畏れる。


 だから考えさせる材料を取り上げちゃうわけ。

 知らなければ、それが天ちゃんの仕業だとビビらないで済むし、そもそも結びつかないじゃん。


 例えば雷が落ちて人が死ぬとするじゃん。

 で、うわー、こんな術使えるのは天ちゃんだけだわーってなったら困るのよ。

 それが偶然なのに雷に打たれた人の家族はきっとイジメられるし、天ちゃんも人殺しって嫌われるでしょ?


 だから皆は天ちゃんの全てを教えられないの。

 天ちゃんもいちゃもん着けられても説明し切れないしね。」


想像を超える話でした。

帝にしか使えない術と同程度の自然現象を証明する。

確かに疑惑を生み、万人を納得させられない議論になってしまうでしょう。


密室で起きた殺人事件のようなものです。

その時、その場所で犯行が可能な人間は、ただ一人。

しかし、その人はそれが偶然の自然現象だと主張しても誰が信じるでしょう。


逆も同じです。

到底、人間業ではない出来事を自分の仕業だと主張しても誰も信じません。


だから帝は封じたのです。

神話の時代、その圧倒的な神威も、超常の神業、大和王国を成立させた霊験を。

それは人間の時代には無用な不安と朝廷への不信を生むだけだからです。


「唯一、天磐楠舟だけは生活に根付いちゃったからね。

 まあ、その気になったら…。」


押し黙ってしまった久能に雪姫は改めて念を押します。


「理解できないものを知った時、人は思考停止する。

 勿論、自分にはそれが扱える、理解できると信じるのは尊重するよ。


 けど、天ちゃんも私たちもそんな賭けに出られるほど万能じゃない。

 責任取れんのだわー。」


「わ、分かりました。」


「この世界はさ、嘘で守られてるんだよ。

 嘘で何もかも包み隠さないと…。」


雪姫はそういうと帰って来た聖覚に飛び付きます。


「うぃいいいいいいいいいいいいい!!」


久能たちはバランスを崩して聖覚が倒れるのを見ていました。




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