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第4話「貫け!のびーるちんちん」(前編上)




摂津池田城を出立した久能たちは、高野山の付近に到着しました。

ですが、様子がおかしいと三夜が一行を止めます。


「どうも夷どもの臭いがします。

 あー…、どうやら雪姫を狙って高野山に兵を差し向けたようですね。」


「雪姫は無事か?」


久能が訊ねると三夜はニヤニヤして答えます。


「それなりの備えをしておいでですし、易々と首を取られるはずがないと思いたいんですが…。」


そういって「くっくっく…。」と三夜は口の端の頬を持ち上げて嫌な笑いをします。

久能は目線を泳がせました。


「エミリー、どう思う?」


「急ぎましょう。」


エミリーはテンガロンハットの端を持ち上げて高野山の山頂を睨みつけます。

先頭を歩いていたスカディも声を張ります。


「もし雪姫殿が熟達の術士なら、合流して戦力を合わせたほうが良いぜ!」


ルスランも頷きました。

久能は一同の意見を総合し、道を急ぐことに決めます。


「では、高野山に急ごう。」




一方、800余の夷軍は高野山に殺到しました。

迎え撃つのは遮光器土偶の仮面を着けた東日流王の手勢です。


『東日流王に、これほどの戦力があったとは…!』


畿内軍団中将、ゼリンクも表情を厳しくします。

それには鸞兵の姿まで見えます。


「我が君、敵は800と見ました!」


鸞鳥に乗る女騎士が地上の雪姫に向かって報告します。


この時代に無いはずの山形帽子トップハットに燕尾服のようなジャケットを着て、半ズボンを合わせています。

全体的に不思議の国のアリスに出て来そうな印象ですが、ところどころに和を感じる小物をあしらっていました。

腰にはレイピアらしい細身の剣が挿してあり、手には長槍を持っています。


「うぃーい!

 ちょっと多くね?」


「逃げますかー!?」


鸞兵が雪姫の意向を伺います。

雪姫は素早く答えました。


「大丈夫、なんとかなるって!」


雪姫はそう答えると何やら呪文を唱え、指を何度か鳴らします。

この指を鳴らす所作は、普通のものと違い、人差し指と中指を同時に鳴らします。

後に密教などの修験道でも用いられる所作です。


青い炎が火柱になって立ち上り、中から仮面を着けた兵士たちが現れます。

何かの術で操られているのでしょうか。

全員、非人間的な雰囲気を感じさせる動きで雪姫の命令に従います。


「っても残機がないなー。

 もう20人ぐらいかにゃあ。」


雪姫は敵軍に向かって突進して行く兵たちを見送りながら言います。


その時、不意を突く様に夷どもが雪姫の立つ、古代の石舞台の前に姿を見せます。

流石に山野を駆け周り、谷を飛ぶように踏破する夷の兵士です。


『目標の術士だ!』

『この隙を突けー!』


夷たちが雪姫に向かって行きます。

それを見た鸞兵が急降下して、取り敢えず一人を槍で背中から貫きます。

しかし、まだまだ大人数が残っています。


「うぃーい、ダメじゃん、聖覚しょうかくちゃあああーん!」


雪姫がそんな風に茶化しながら指を鳴らします。

高く澄んだ音が響き、敵兵たちが青い炎に焼かれ、何故か氷漬けになって倒れます。


『ぐああっ!』

『つ、冷たい!?』

『火が燃え移るぞぉ!』


「ふふん。

 性質は”炎”、しかし能力は”氷”。

 これがアラハバキ神の力だよ、ネモ君。」


青い炎が地を走り、夷たちを追い回します。

やがて追い込まれた夷たちが炎の円に包まれ、逃げ場もなく立ち止まります。


「滅・殺!」


雪姫が指で合図すると炎は夷たちを飲み込み、後には霜が張り付いた凍死体が残ります。

彼女の家来の鸞兵、聖覚が雪姫の傍まで近づいて謝りました。


「す、すいません。

 僕が我が君をお守りしなければならないのにっ!」


「私、超有能。

 You Know?

 You Say-HO!」


「ほ、ホー…!」


この人は調子に乗るっていうか、これがなければ凄い人なのに…。

聖覚はそう思いながら恥ずかしそうに答えました。


「Say-year!」


「い、イェア~!」


我が君、「year」じゃなくて「Yeah」だと思います。

聖覚はそう思いつつも言えない自分が流されてるなあ、と痛感するのでした。




雪姫たちが第1波の攻撃を退けるのを見て、ゼリンクは目を丸くします。

おいそれと首が取れる相手とは思えません。


『なんて奴等だ…。』


『将軍、背後からも敵です!』


『なんと!!』


それは作戦ではなく、ただの偶然でした。

勿論、そこに風魔忍者の三夜という案内役がいなければ、の話です。

久能たちは夷軍の背後から襲い掛かり、遮二無二に吶喊していきます。


「かかれー!」


スカディが持っているのは黄金の巨大な武具です。

斧のようでもあり、剣のようにも見える不思議な形状をしています。

天竺の武器でしょうか、見るからに強力な、骨まで断ち切りそうな分厚い刃をしています。


「どっせい!」


夷たちの身体から青い血が飛び散り、草木に着きます。

まさに豪快!


ルスランは静かに久能の背後を守ります。

黒いマントの一部が黒猫に変身し、敵を襲います。


エミリーはシャボン玉爆弾の風圧で夷たちを押し潰していきます。

近接戦でも愛剣ウルフバートが見事な切れ味を見せます。


他にも着いて来た家来たちが彼女たちに続きます。

結果的にあまり活躍していないのは、久能だけです。


「…わ、私は。」


「殿は皆の真ん中に居れば良いのでござる。」


久能の傍にフワフワっと寄って来たシャボン玉がエミリーの言葉を伝えます。

久能もシャボン玉に話しかけました。


「わ、分かっている。」


しかし、一方的に攻めるばかりでは終わりません。

夷軍の弓が久能たちに襲い掛かります。


ルスランの放った黒猫とエミリーのシャボン玉が大半を弾くか、防ぎますが、それでも被害が出ました。

スカディは矢に倒れ、他にも兵たちが負傷していきます。


久能は大弓を構え、夷たちに射かけ返します。

一人、二人と敵の弓兵を射殺して行きます。


久能氏は大和では古い血筋に連なる武家の名門です。

特に久能兵庫頭個人も卓越した武芸の腕を持っています。

夷の雑兵に後れを取るようなことはありません。


「ここは私一人で良い!

 皆は負傷した者を連れて行け!!」


和弓の極限は、果たして何処にあるのだろうか。

弓は農民の道具として西洋の騎士は取り立てて用いなかった。

しかし日本では神話の時代から登場し、邪悪な鬼神を払うとして神事にも取り入れられた。


江戸時代には通し矢という弓術大会で8000本を命中させる名人もいたという。

中国の神話では太陽を射落とすとか、鎧を着た兵士を何人も貫くなど逸話は多い。


久能は、流石にそこまでの名人ではない。

ないが、この際、比べる相手は夷の弓兵で十分でしょう。


夷の技術水準は、あくまで同程度の猟師から徴兵された者同士で比べるだけです。

しかし大和の武士が目指すのは、上記のような鎧武者を何人も射抜くとか、何千本も命中させるような領域です。


これでは生まれ持った才能とか、そういう段階にありません。

夷たちが100点満点でやめてしまった訓練の後、大和の侍たちは1万点を目指して訓練しているようなものだからです。

まったく勝負になりません。


夷たちの想像もしないレベル。

その極限を目指した弓の技は、エミリーら、南蛮人勢も恐れさせます。


『ぎゃう!』

『え、があ!?』

『おおおー!!』


5秒も間を置かず、久能は文字通りの矢継ぎ早で夷どもを仕留めて行きます。


「…と、とにかく負傷した味方を!」


エミリーが皆に声をかけ、負傷した味方を運びます。

その間、久能は一人で戦線を支え、向かってくる夷軍を次々に射殺します。

まさに獅子奮迅の活躍と言えるでしょう。




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