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始まり

 


 自分独りだけ未来が見えたとして、それは幸運か不運か。

 俺はこんな能力なんていらない。自分だけ見えても、俺にはどうすることもできやしない。

 たった一人でできることなんて壮大な未来には到底敵わない。

 ずっとそう、思っていた。



*********************


 高校一年生入学してまだ学校には慣れていない5月の頃。いつも通りに朝食を終え、なんとなく見ている星座占い。もちろん信じてなんかいないけれど、清水サラの今日の運勢は最下位だった。

 「ラッキーアイテムは、はさみ……」

 こういう占いの胡散臭さは今にはじまった感情ではない。たまに、『そんなの持っていってどうするんだ』と思うような物もあり、つい心の中で突っ込んでみたりしている。

 そんなテレビを横目にかばんを手に取り、出発の準備をする。靴を履き、ぐるりと振り返り誰もいないリビングに向けて『いってきます』と、呟いた。



 朝の空気が清々しい5月。新緑の葉からこぼれる太陽の日差しは心地良く感じる。この町は都会とは程遠く、山や川がありとても自然豊かな場所でもある。

 サラの通う北桜高等学校は最寄駅から2駅乗り、そこから徒歩10分ぐらいのところにある。しかし、高校に行くには心臓破りの坂を上って登校しなければならない。それが唯一この学校の気に入らない点だ。

「次は北桜――北桜――」

 アナウンスが響くとサラは立ち上がりドアの前にたった。

 いつも通りに北桜の地に足をつける。

 サラはいつも混雑する電車を避け、一本早い電車に乗るため、降りる人はそれほど多くなかった。

 清々しい空気を一気に肺に取り込み、呟いた

「今日はいい天気だなぁ」


 そして歩くこと数分、突然肩を指でトントンと叩かれた。

「おい、そこの姉ちゃんよ」

 振り返るとそこには男が一人、高身長でガタイのいい強面のおじさんがいた。

「あ……えっと、なんですか?」

 その男の気迫に動揺しながらもサラは冷静を装った。

「財布」

「……え?」

「金だよカネ。わかるだろ? ほら、さっさとかばんをあけろ」

 サラは瞬時に状況を理解した。これはカツアゲというやつだ。しかし状況を理解したサラは同時に血の気が引いていくのを感じた。

 こういう時、大声を出したらいいのは理解している。理解はしているが、体がついていけないのだ。緊張で喉は絞められたかのように強張っていた。

「おい! きーてんのか?!」

 そう言うと男はサラのかばんに手を伸ばし、無理やり奪い取ろうと試みるがーー

「邪魔」

 そこには別の男の子が立っていた。

 目つきは鋭く細くて背の高い黒髪の男の子で、片手でおじさんの顔面を掴んでいた。その力は強く、男は悲痛な叫びをあげる程だった。やがてその男は気絶をし、男の子はその手を離しズボンで手を拭っていた。

 呆気にとられていたサラはただただその光景を見て固まるしかなかった。男の子はこちらを見向きともせず、学校の方角へと歩きだした。

「あの子って……たしか……」

 脳内が通常回路に戻りだしたころ、ふと思い出した。

「同じクラスの神代リュウくんだったような……」

 まだ話したことのない男の子、というか、クラスメイトと話しているところを見たことがない。いつも独りでいる。それに目つきが怖くて近寄りたがいのだ。

「でも一応、お礼を言わないとね」

 そう決意し、学校に向かった。





 サラが教室についた頃、そこに神代リュウの姿はなかった。

「どこいったんだろう……」

 まだ生徒も疎らで授業時間まで余裕があるサラは校内を探してみることにした。とは言ってもあてもなくふらふら歩いてみてるだけで、そう簡単には見つけられなかった。

 しばらく歩いて、少し歩き疲れたころ、職員室前の廊下から運動部の朝練の声が聞こえた。なんとなくその声に導かれ窓から外の景色を覗く。そこからはテニスコートが見えた。

「みんな朝から頑張ってるなぁ。私は眠いや……」

 やる気のな声を出し、サラは大きく欠伸をした。

「失礼しました」

 すると職員室のドアが開き、そこから誰かが出てきた。

「あ」

 振り返って見てみるとそこには神代リュウがいた。

 リュウはサラの声に反応もせず、スタスタと歩き始めた。

「ちょっとまって!」

 その声にリュウは立ち止まった。しかし背は向けたまま

「あの……今朝はありがとう!本当に助かったよ」

「…………」

 何も言わずにリュウは再び歩き始めた。

 反応を見せないリュウにサラは少し腹がたった。

「あのさ!」

 思わずサラはリュウの肩を掴んで振り向かせた。

「少しは何か、喋ってよ……無視はよくないよ」

「…………」

少し間をあけてリュウは口を開いた

「うるさい。わかったから、今後一切話かけるな」

「…………え?」

 どうしてそんなことを言われなきゃいけないのか、一瞬で頭に血が上った。そしてこの神代リュウがクラスで独りぼっちなのか、今ハッキリわかった。リュウは周りを遠ざけて生きている。そうサラには感じた。

「それにしても……」

 なんて今日はツイてない日なんだろう。そうしてサラは朝の記憶へとたどり着いた。

「そうか今日私占い最下位じゃん……。しかも、はさみもってたらもしかしたらあの男を撒けたのかもしれない……」


 サラも今日ばかりは占いも馬鹿にはできないな、と思わざる終えなかった。



 そうして神代リュウと清水サラは出会いを果たし、次第にに変わり始める運命へと一歩踏みこんだのだった。






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