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一話 「日本におけるe-Sportsを見据えたMMOアクションRPG」

頑張ります! 一発ネタじゃないです! 信じてくださいお願いします!

 現在は12月23日午後29時30分。

 とうに消灯時間を過ぎたために明かりが落とされた部屋には、液晶から溢れる光を反射する人々の瞳が輝いていた。男女合わせて12人居る社員の、誰も口を開きはしない。しかし、無音という訳でもなくキーボードを叩く音とマウスのクリック音だけが、鳴りやむことなく続いていた。

 世間やメディアはクリスマス・イヴだということで盛り上がっているが、天気予報くらいしか気にしなくなった彼らには関係のない話だった。何よりも、彼らに12月24日は来ていない。数度のリリース延期を繰り返しているゲーム開発プロジェクトを進める彼らにとって、12月24日はクリスマス・イヴでなく、最終期限と言い渡された納期だった。

 今日を終える訳にはいかない。それだけを頭に手を動かし続けるのは、畑幸一はたけこういちという、この企画のプランナーだった。彼の主な業務は制作スケジュールの管理。制作は彼のスケジュールにより進められている……筈だ。筈だというのも、スケジュール通りならば最終日に徹夜などしているわけがないのだ。彼のスケジュールは、あらゆる不運と不手際によりズレることで有名だった。今回に至っては、少し前から完成が怪しく、何度もリリース延期した。

 そんな彼は、上司から「これが最後のチャンスだ」という通告を受けている。客観的な成果が得られなければリストラ。そして、現状のプロジェクトの進行度合いから言えば、それは確実なものになっていた。

 時間が過ぎていく中、突然にキーを打つ音が減り始める。一人が手を止めると、また一人、また一人。いよいよ手を動かしているのが最後の一人……畑のみになった時、名前も思い出せない男性社員が口を開いた。

「もうやめましょう。もう無理ですよ」

 その言葉を後押しするように、オレンジの陽光がオフィスの窓から差し込んで、畑の目を眩ませた。その時には、畑の手も止まっていた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 誰が言い始めたのかわからない、おやすみの声。その言葉を発しながら、次々とプロジェクトメンバーは倒れていく。それは畑の終わりを告げる言葉だ。どれだけ無能でも、どんな時でも諦めずに戦ってきた畑だが、この時ばかりは限界だった。

「おやすみ」

 寝息に満たされたオフィスに、彼の弱々しい降参の声が響いた。


_____________________________________



「君、それが最終案かね?」

「え?」

 目覚めた畑は、目の前にいた上司の声で我に返る。開発している時はラフな格好をしていたはずなのに、気づけば今はスーツを身に着け、ネクタイをしっかり締めていた。

「困るよ、そんな事じゃあ。プランナーの君がちゃんとしなきゃ、出来上がるものも出来ないんだから……」

「えっと……」

 畑は隣に立つ先輩、昨日諦めた企画のプロデューサーを務める佐竹俊さたけしゅんに腕を引っ張られる。

 佐竹は畑に顔を近づけ耳打ちした。

「返事しときゃあいいって、どうせ後で調整すんだから」

「は、はい」

 畑はその場の勢いに任せて返事をしてしまう。その返事を聞いた上司は、手元の資料を閉じ、眼鏡を外した。

「それじゃあ、各プロジェクトをしっかり進めるように。解散」

 何事かわからない畑は、廊下を歩きながら手に持っている資料に目を落とした。

『日本におけるe-Sportsを見据えた大規模MMOアクションRPGプロジェクト』

 昨日終わってしまったプロジェクトの、随分と懐かしい企画資料だった。

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