閑話 エルシャ
「うわぅ、今月もギリギリだぁ」
私は帳簿を放り投げて、頭を抱えた。
あ、こんにちは。ギルド“探求者たちの集い”の看板娘エルシャです。ギルドの受付嬢に憧れてきたのに、何故か決算書と格闘する羽目になっています。どうしてこうなってしまったのやら。
今現在、探求者たちの集いは訳あって、私とオキ君だけになってます。お陰で、ギルドの経営は火の車。最近はオキ君が頑張ってくれているから、少しだけましになったけどそれでもまだまだ。
「もう、皆どこいっちゃったのよぉ~」
机に突っ伏してつぶやく。皆が居なくなって一年。もう死んでいるかと思っていた。二度と会えないかもって。でも、オキ君が占ってくれた。皆生きているらしい。かなり確率は低いけどまた会える未来はあるとか何とか。でも、生きているのは嬉しかったけど(思わず泣いてしまったのは秘密)、じゃあ何で返ってこないのって話だ。
返ってくれば、またギルドの仕事が回って楽になるのに。うぅ、生活が重いよ……。
「というか、クロナ! あいつが悪い! ひどいよ、ツケ五ヶ月分免除って! 弱みに付け込み過ぎだよ! 秘蔵のお菓子まで持ってって、何様だあいつぅ!」
机をバシバシと叩くが全然気が晴れない。あれがなければ、けっこう楽になったのに。……まぁ、先行投資と考えれば安いかもしれないけど。でも、くやしぃ~。
「はぁ、まぁいいや。クロナのは、まぁ、痛いけど、あいつはサクラさんがしっかり払ってくれるからな~」
クロナは毎回ツケにするバカ野郎だったが、しっかりお金は払っている。サクラさんが、だが。
「というか、でなきゃ、出禁だけど」
クロナがツケをしまくってもブラックリストに載らない理由は、彼女がこっそり払っているからに他ならない。いや、クロナも気が付いているだろうけど。
「あいつはあいつなりにお店を助けてくれているんだろうけどさぁー。方法はひどいよね。まぁ、それでうちは助かってるから文句言えないか」
思えば店にクロナが入り浸り初めたのも、皆が居なくなってからだった気がする。それまではたまにくるくらいだったのに、皆が居なくなってからはアリスを連れて結構な頻度で来て、なんか駄弁っていた。
「クロナは絶対認めないだろうけどね」
ふふっと笑顔が溢れる。クロナのバカは絶対認めない。素直じゃないから。だから、アリスちゃんが苦労しているのだけど。まぁそれは置いといて。
保護者に金を間接的にせびるクロナの方法は確かに褒められたものではない。けれど、それで助かっている面は確かにあるのだ。(困っている面ももちろんある! アイツのせいでうちの客の多くがツケでくるようになってしまった! 払ってくれる人もいるけど……少数だよ)
クロナが宵越しの銭は持たないとばかりにいろいろ注文するから――自分じゃ食べきれないくせに――客の少ないこの店でも何とかギルドとしての体裁を整えられている。ギルドって税金がけっこう掛かるのだ。命の危険はあるし、メンバーの問題もあるけど、ギルドって儲かるからね。規制はしておかないと怪しいギルドが乱立しちゃう。
ギルドだけは守りたい。皆が返ってきたときに、帰る場所を残しておいてあげたいから。いや、守るのだ。皆の居場所は、かならず。
「みんな……はやく、返ってきてよ……」
瞼が重くなって、目を閉じる。いつか、また会える日を信じて、今日も眠りについた。




