閑話 サプライズパーティー
一応前の話で終わっていますが、サプライズパーティーについて忘れていたので、投稿します。
サプライズパーティー当日。
部屋の飾りつけ(何故かクリスマス模様)が終わり、後は食品が出て来るだけの部屋で、黒無は皆が来るのを待っていた。
まず、生樹が部屋に入ってきた。
「黒無~。よく生きてたなぁおまえ~」
「ええい、鬱陶しい。くっつくな」
部屋に入るなり、生樹が飛び込んでくる。避けきれなかったので身を捩って、振りほどく。
「お前こそよく生きていたな。ババアの戦闘に巻き込まれたと聞いたが」
「そうなんだよ! お前の母ちゃんやばすぎ! 死ぬかと思ったわ。気がついたら、お前らいないし、倒した龍よりでかくて、禍々しいのが暴れているし、どうしようかと思ったね」
ははは、と乾いた声で笑う生樹。そのまま、暗い目でつぶやき始めた。
「と言うかさ、何で山が消えるの? 攻撃が地形を変えるのデフォルトとかおかしくねえ? バランスおかしいんだけど、何でラスボスの戦闘に巻き込まれてんの俺。逃げるに逃げられなかったんだけど、危なすぎて。異能使っても攻撃の余波を避けるのが精一杯ってどういうこと? 気を抜くと、土砂に埋まりそうだし? つか、埋まったし? 埋もれたし? 土の中って、やばいのな。何にもできない圧迫感がやばいのよ。動けない恐怖って分かる? 息もできないし、死がはっきりと分かってさ。もうだめかと思ったら、土砂ごと吹き飛ばされて、今度は水の中だぜ? 巻き込まれるだけで、何回死にかければいいんだよ。つか、何でそもそも巻き込まれたの、俺? おかしくない? 揺れるおっぱい見ようとしたのが悪かったのか? 仕方なくね? 男だし? おか――」
「帰ってこい! 悪夢は終わったんだ!」
生樹の肩を揺すぶる。ガクンガクンと揺すぶって、ようやく瞳の焦点が安定した。帰ってきてくれて助かった。聞かないほうが良さそうなことまでつぶやき始めていたから。今後の関係に支障が出そうだった。人の母親をどんな目で見てるんだこいつは。
「よう! 黒無、どうしたんだ?」
「よく帰ってきたな現実世界へ」
「へっ? 何のことだよ。いや~、それにしてもよく生き残ったな」
「いや、それはもういい」
無限ループの予感がして生樹の言葉を遮ぎる。
「お? そうか? あ、そうだ。あの、アリスちゃんだっけ? 薄い金髪の子。お前の見舞いに来たとき、あの子から頼まれたものがあるんだ、これ返すわ」
そう言って、差し出されたのは確率の魔剣だった。
「……いや、これはお前にやるよ」
「え? いや、嬉しいけど。めっちゃ嬉しいけど。いいのか?」
「ああ、知っているものを渡してもなってことで別のものを用意したから」
と言うより、失くなったものだと思っていた。ミーネがレゼリカにぶん投げたからな。地形が変わっていたからということもある。それに、生樹へのお詫びの意味もある。邪龍との戦いに巻き込んだから。この魔剣で、せいぜい無双でもしてくれ。
「おいっさ~クロナ久しぶりー。元気ー?」
エルシャがいつの間にかやって来ていた。心なしか怒っているような気がする。
「よう、久しぶりだな。一応元気だ」
「あはは、一応ってなによー? まぁ、いいっか。オキくん借りるよ」
「わかった。熨斗をつけて貸してやろう」
「あれ? エルシャも呼ばれてたのか? お店は? イテテっ!」
きょとんとした感じにエルシャに手を降った生樹は思い切り頬を抓られて、悲鳴をあげた。
「何で先に行っちゃったかな~? 私も行くって言ってたよねぇ?」
「え? あ、いや、それは別口かと……」
「言い訳無用! 男でしょ!」
「ぐぼらっ」
腹に見事なストレートをくらい生樹は沈没した。それに憐れみの視線を向けながら尋ねる。
「店の方はいいのか?」
「今日は休業! だって、ミーネちゃんの歓迎会やるんでしょ?」
「まぁ全然人呼んでいないからありがたいけどな」
結局床に伏せていたこともあり、あまり知人を呼ぶことはできなかった。まぁ、ミーネとしても、知らない人にいる歓迎会は気まずいだろうという事もあったが。
ちなみに一週間ほど寝ていたようだ。さすがの【命魂至上】でも脳みそまでイカれてしまったら、難しかったらしい。それでも治るあたり、意外とこの能力は優秀なのかも知れなかった。
「どぉーん! クロちゃん何話してんのぉ? エーちゃん久しぶりぃー」
背中に飛び乗ってきたアリスに抗議するが、当然のことごとく無視された。しょうがない奴だ。
「アリスちゃんおひさー。最近どうしたの? 全然顔見せてくれないじゃん。あ、髪飾りかわいいね~」
「ありがとぉ。ちょっとクロがねぇ~」
力が抜けて崩れ落ちる瞬間、アリスがさっと背から降りた。そのまま一瞥もせずに会話が続く。
「……おまえな……」
「なになに? クロナが何かしたの?」
「ふふぅ~秘密ぅ~」
「え~? 教えてよ~」
キャッキャと騒ぐあたり、アリスも女だったらしい。ついていくつもりもないため、さっさと場を離れる。
「おま、おま、おま、おまえぇー」
「何だ何だ。落ち着け」
アリスが来てから離れていた生樹が首元を掴んで揺すぶってきた。こいつはどうしたいったい。
「何なの!? あの子何なの?! めっちゃ可愛いんですけど!? 抱きつかれてたよね? どういう関係よ!?」
「ただの幼馴染だ。あと、あいつはアリスだ」
混乱する生樹に説明してやる。今日のアリスは大きめの灰色ポンチョを羽織っている。どうせ下はいつものスウェットだろうが、少しは見た目に気を使っているようだ。幽霊みたいだが。
「嘘だろ、アリスちゃん? それに、幼馴染、だと……!? 二次元の存在ではなかったのか……?」
「いや、いるだろ。お前にも。たぶん」
「居ねえよっ! 居たとしてもすぐに疎遠になったわ!」
「まぁ、そういうこともあるよな」
「勝者の余裕かっ。おのれ見てろ。俺だってすぐにハーレム築いたるわ! この剣を使って無双してな!!」
「……まぁ、頑張れ」
魔剣を掲げて、何処かに向かって宣言する生樹に適当にエールを送っておく。油断しなければ無双できるだろう。油断する未来が目に浮かぶけど。
そうこうしていると、鎌鎖親子と桜が入ってきた。一応これで全員だ。
「皆集まっているみたいね。じゃあ、早速始めよう! まずは主役の登場だよ! ミーネちゃん、入ってきてー」
桜の言葉に、おずおずとミーネが部屋に入ってきた。拍手とともに迎えられる。部屋中の人間に注目されて、銅色の目を瞬かせた。すぐに入ってきたということはほとんど一緒に来ただろうに、入場を分ける意味があったのだろうか。
「紹介するよー! この度、めでたくドラゴンスレイヤーの偉業を成し遂げたミーネちゃんです!! ここから少し離れたアイラル村から来てくれました」
「……師匠。別に、人数も少ないし、知っている人しか居ないので紹介はいらないと思います」
「まぁまぁ、いいじゃない。それじゃ! まずは贈り物を渡そうかな。私からはこれ」
「これは、お守り、ですか?」
桜が渡したのは、小さな紺色のお守りだった。首からかけられるようになっている和式のお守り。
「うん、健康、護身、幸運お守りだよ。ミーネちゃんをいろんなものから守ってくれるからね」
「師匠……ありがとうございます」
「これから、よろしくね」
ぎゅっと桜がミーネを抱きしめた。ぽんぽんと背中を撫でてから離れる。
次に、アリスがミーネの前に来る。
「アリスからはこれねぇ~」
そう言って、アリスが渡したものは小さな腕輪だった。複雑な紋様が描かれた鈍色の腕輪。
「これは……」
「付けてくれると嬉しいなぁ」
「……分かったわ。ありがとう」
ミーネが腕輪をはめる。アリスがにへらと笑った。
「んじゃ、オレからはこれだな」
あんまり注目されるのは好きではないから、さっさと終わらせようと、アリスと入れ替わるようにミーネの前に立った。もっと気楽に渡せるはずだったのに、どうしてこうなったのか。……全部、桜が悪い。
「龍殺しのための本だ。まぁ、暇な時にでも読んでくれ」
「ありがとう、黒無」
「お、おう」
ミーネが手を握って、微笑んだ。思ったより喜んでもらえたようで、胸をなでおろす。選んでおいて何だが、少し不安だった。ミーネはアウトドア少女だから。
「じゃあ、次は私だね。ミーネちゃん。おめでとう」
次にはエルシャが進み出た。花束を持って、ミーネに渡す。常識人がここにいた。桜もそうだが、なぜ誰もお祝いなのに花束がないのか。桜を見ると少し固まっていた。意外と抜けているところがあるんだよな。
「ミーネちゃん。いつでもギルドに来てね。諦めない子は大歓迎だから!」
「エルシャさん……」
「エルでいいよー。じゃあ、これからもよろしくね」
そう言って、次の人に代わる。
続いて鎌鎖親子が、ミーネの前に立った。
「よう、嬢ちゃん。おめでとう。ドラゴンスレイヤーとは大したもんだぜ。お祝いにしちゃあ、変だが受け取ってくれや」
「お姉ちゃん、おめでとー」
「ありがとうございます」
鎌鎖が鍛錬用と思わしきショートソードを渡す。その次にりりが、小包を渡した。
「お姉ちゃん、剣が趣味だって聞いたから、剣の小道具たくさんね! 無くなったら、うちに買いに来てね!」
「うん、分かったわ。ありがとう」
ミーネがりりの頭を撫でる。地味に今日一番嬉しそうだった。
最後に、生樹が前に出た。
「よっしゃ。とりは俺だな。プレゼントだぜ」
生樹の手にあったのは剣の帯だった。黒塗り革製の剣帯。そう言えば、ミーネは剣を紐で持っていた。
「……ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」
「おー、使ってくれ。喜んでもらえて何よりだ」
「ふふ、なんかいっぱい貰っちゃたわね。良かったね」
「はい……皆さんありがとうございます」
「うん。それじゃあ、後は無礼講! 美味しいものたくさん用意したから気が済むまで食べていってね。アリスちゃんお願い」
「はぁーい」
パチンと桜が指を鳴らすと、机の上に食事が出てきた。ピザに、コークに、ハンバーガー。七面鳥の丸焼きに、ホールケーキに、フライドポテト等など。バケツプリンのようなものまであった。
「待ってました! 夢に見たまでのジャンクフード! いやっほー」
生樹が声をあげて、向かっていく。
なぜに、ジャンクフード? クリスマス模様にはあっているが、桜の選択基準がよく分からない。
「お皿はこっちでーす。好きにとって食べてね」
桜が軽い木の皿を配る。パーティーが始まった。
「クロちゃん、あーん」
「やめろ恥ずかしい。自分で食べるわ」
「嬉しいくせにぃ~」
アリスがポテトを口に突っ込んでくる。いや、今ピザ食っているから。迷惑だ。
「おうおう、ご両人熱いねぇ。おっさん焼けちゃいそうだよ」
「いつ結婚するのー?」
「しないわ! マセガキが」
アホなことを言うりりに声をあげたら、アリスの後ろに隠れやがった。片目を閉じて舌を出してくる。このマセガキは……。
「アリスおねーちゃんクロナが怒ったー」
「大丈夫だよぉ。クロちゃん、ヘタレもやしだから」
「そっかーヘタレもやしかぁー」
「……そうか、おまえか。こいつに変なこと吹き込んでいたのは」
「何っ!? アリスお前。うちの天使になんてことを……!」
「すごぉーい。これシュワシュワするー!」
「わぁ、フリーダム……」
いつの間にか、りりはコーラを飲んでいた。ちゃんと、子供用のジュースもあるのだが。いや、別に飲んでもいいけども。この世界には普及していない飲み物だから、喉が痛くないだろうか。
「これおいしいー! さすが市長様! すごいの飲んでる!!」
「そうだな。良かったな、りり。ただ、飲み過ぎには注意な」
正確にはコーラに似た何かだが、炭酸があまり体に良くないのは変わらない。特に成長期の子どもには。だがまぁ対して問題はないだろう。
そんなことを考えているとアリスがまたも背に寄りかかってきた。
「クロは心配性だねぇ。だいじょぶだよぉ」
「まぁ、桜さんがその辺のことを考えていないとは思えないけどな」
「そうだな。……いや、分からないぞ? 意外と……」
そんな風に話していると、ミーネがやって来てその右腕を掴む。
「黒無、あんたやればできるんだから一緒に修行するわよ。今回だって、普段から努力しておけばもう少し頑張れたでしょ」
「いや、いきなりどうした。オレは……」
何が悲しくてパーティーを抜けて修行しなければいけないのか。
「ほら、行くわよ」
「いや、まだ、食べている途中……」
「いいよいよ~貸したあげるぅ~」
「借りないわ。黒無が一緒に来るだけよ」
「いや、いいって……てか、誰が貸したあげるだ」
借りる、借りないの話の前に行きたくない。勝手に人を扱わないでほしい。ため息をつく。人権はどこにいった。そんな事を考えていると生樹が左腕を掴む。
「そうだ黒無、行くぞ! 修行だ!! 可愛い女の子に囲まれてやれやれだぜなんて精神、叩き直してやるぞぉぉおお!!」
「ちょっと、待て、おい、行かないっての……っ」
「うふふ、じゃあ、皆で見学しましょうか。アリスちゃんご飯の転移お願い。結界は張っておくね」
「りょ~」
血の涙を流している(ような)生樹にも引きずられ、外に連れられていく黒無。その後をゆっくり話しながら付いて来る桜とアリスたち。引きずられる黒無に苦笑しながら移動する鎌鎖親子やエルシャ。
青空が見える窓際には、見晴らしのいい崖に笑っているミーネたちの写真が飾られていた。




