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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-14 狩りと遭遇


 ピクニックという名の強制的な親睦会の次の日。いつものように黒無(クロナ)が部屋でだらけていると、ミーネが狩人衣装でやって来た。


「クロナ。狩りに行くわよ」


「……何で俺が」


「あんた、昨日努力するって言ったじゃない。今日は師匠も出かけて居ないから、修行の代わりに行くのよ。あんたも来なさい。ほら、ちゃっちゃと準備する」


「……わかったよ」


 努力すると言って覚えはなかったが、ミーネの中ではそうなっているらしい。一緒にいたいという気持ちはあるので別にかまわないのだが、今日は休みだと思っていた。


「今日は休みじゃないのか?」


「バカね。休んだら、鈍っちゃうでしょ。努力は毎日するから意味があるのよ。そうでしょ?」


「……そうだな」


 異論はない。努力は止まってしまえば、後退し、遅れを取り戻す期間が必要になる。休まなければ、その期間も歩み続けると考えれば無駄でしかない。……まともに進めるのであれば。


「じゃあ、行くわよ」


「りょーかい」


 迷彩柄の上着を羽織って、ミーネに付いていく。その下は灰色のワイシャツに黒のズボンなので合わないことこの上ないが、森に行くのだろうし、問題はない。どうせ、付いていくだけなのだ。荷物持ちくらいにしか、手助けできることがあるとは思えなかった。


「行かないほうがいいと思うよ」


 玄関でアリスに出会う。相変わらずのボサボサゆるヘアーとダブダブスウェットだが、手に剣を持っていた。


「何でだよ」


「クロ。一応言っておくよ。出かけないほうがいいからね」


 黒無の問いには答えず、剣を放って、アリスは踵を返した。


「理由を聞かなくていいの?」


「……いいだろ、別に。それよりこいつは……」


 喧嘩中のアリスを追いかけるのには少し抵抗があった。絶対に謝される流れになる。それは、ちょっと、いや、かなり嫌だった。

 渡された剣を見る。それは鎌鎖に預けていた確率の魔剣だった。ミーネにプレゼントするために、調整を頼んでいた剣。


「アリスは気が利くわね。あんた手ぶらじゃない。後でお礼言っておきなさいよ。あと、さっさと仲直りする」


「重たいから要らないんだが……」


「いいから持っとく! お礼も言うの! どちらかが折れないと一生喧嘩したままになるわ。そんな家、嫌よ。後で絶対仲直りすること。わかった?」


「…………」


 返事はしたくなかった。



「よう! 心の友よ! 友人を外で待たすなんて、サイアクだぞ☆」


 門を出ると門脇の詰め所(桜が書類を置いておくところの隣。急ぎの書類などは提出して、そこで待つこともある。桜がどこに居ても、連絡がつく魔道具も設置されている)から、生樹が現れた。最後に出会った時の沈み様が嘘のようだ。


「悪いが、オレにはこんなに気持ち悪い心友は居ない。人違いだ」


「そりゃないよぉー! お前ん家、入れないじゃん! 門番通してくれないんだけど!? 待ってる間におかしくなってもおかしくないよね!?」


「そうだな。おかしくなる前の心友に合掌だな。やつはそれなりに、たぶん、確か良いやつだった」


「グレードさがってるんだけど!? 忘れられてんじゃん!? 俺!」


「このうるさい奴、誰よ」


「ミーネちゃぁーん?! そりゃないよぉー! ミーネちゃんにまで見捨てられたら、俺、俺、どうしたらいいの!?」


「死ねばいいんじゃないか?」


「魔物のエサになればいいと思うわ」


「辛辣! ちょっと会わない間に友人たちが辛辣になっているんですけどぉ!?」


「うるさいぞ。近所迷惑って知ってるか?」


「いや俺知ってるからね! ここら一帯、全部お前ん家じゃん!! 近所居ないからね!? しかも、お前ん家四人しか居なかったじゃん!! 家政婦居なかったじゃん、全部ゴーレムでしょ。うるさくたって迷惑じゃないでしょうがぁー!!」


「今、私に迷惑ね」


「詰め所、人居るだろ」


 生樹が出てきた詰め所の方に目をやる。明かりの魔道具が付いていた。人がいるのだ(対人魔道具の応用で、自動照明となっている)。

 ガクリと生樹が膝をついた。


「……そう、でした。すみません」


「謝罪を受け入れよう。久しぶりだ。元気そうで何よりだな」


「なんつー上から目線。……いやまぁ、元気だよ。色々あったけどな」


「そうだな。装備が一新しているしな」


 生樹の服装は革の剣士装備から、迷彩系レンジャー装備に変わっていた。


「それで、何しに来たんだ?」


「いや~、日程聞きに来たんだけど、まぁそれは今度でいいや。ところでどこ行くんだ?」


 ミーネのほうをちらりと見て生樹が言う。それで、なんとなく目的がわかった。生樹は、ミーネのサプライズの日を聞きに来たのだろう。もう、知られているので隠しても意味はないが、生樹はそれを知らなかった。


「オレらは狩りに行くとこだ」


 剣を見せる。重たいのですぐに下げた。


「その格好でか? おま、さすがにそれは……」


「どうせ付いて行くだけだから問題ないな、いてっ」


「あんたも手伝いなさいよ」


 頭を叩かれる。ガントレット付きの拳はとても痛かった。


「んじゃ、俺も一緒に行くぜ」


「いや、来なくていいぞ?」


「いや、もういいって。お前らだけだと心配だから付いて行ってやるよ」


 生樹が胸を叩いた。とても魔物に竦んでいた人物のセリフとは思えない。


「別に来なくても……いや、やっぱ来い。ほれっ」


「よっし、そうこなくっちゃ……って、荷物持ちかよ!」


 黒無は剣を生樹に渡す。重かったのでちょうど良かった。それに何を狩るにしろ、持ち帰る手間を考えるなら、人は多いほうがいい。便利な収納系の魔道具を持っていくのなら別だが、盗られても困るので、持って行きたくはない。


「ああ、助かるぞ心友よ。持つべきものは友だちだな」


「ああ、心友よ。お前は今友だちを亡くしそうだぞ」


「行くわよ。漫才はそこまでにしておきなさい」


 ミーネがさっさと歩き出す。黒無も後に続いた。


「そうだな。じゃあ行くか」


「いや待て。どこまでが、漫才なんだ? お前全部本気だろ、きっといや絶対……。あっ、ちょっと待ってくれよ!」


 ぶつくさ呟いていた生樹も慌てて後を追った。黒無に渡された剣を持って。



 生い茂る木樹の中、まばらに陽の光が差し込んでいる。草丈は低いが、根が張り出て歩きにくい中、黒無(クロナ)たちは街の裏手にある山を進んでいた。

 そこは前にピクニックに行った場所よりもさらに森の奥。山道を外れた場所だった。


「あっれ~? おかしいな。なんか反応が悪いな」


「ああ、おまえの異能か。獲物の位置とか、分かるのか?」


「そのはずなんだけどな」


 生樹が首をひねって答える。どうやらなぜか獲物の位置がわからないようだった。


「別にいいわよ。そんなのに頼らなくても分かるから。狩人の娘なめないでよね」


「んじゃ、任せた」


「任せなさい」


 軽い足並みで森の中を進むミーネは非常に頼もしい。やはり原理不能な異能より、経験と受け継がれた先人の技術のほうがいいものだった。特に黒無の異能など、ろくでもないから、尚更そう思った。


「いや、異能自体は普通に使えるんだけどな。この剣、魔剣だろ? それも危なくないやつ。そういうのは普通に分かるんだけどな」


「……能力は使えるのか。なんでだろうな」


「役に立たないなら意味ないじゃない。その剣が何の魔剣か分からないんでしょ?」


「……そんなことないって。でも、そうだなぁ、鑑定は付けてくんなかったんだよな。あの神様。言語は普通に付けてくれたんだけどなぁ」


「ふん。そんなに都合よく行くもんですか。神様が力をくれたんだから文句言ってんじゃないわよ」


「まぁ、そうなんだけどさ。んで、この剣何の効果があるんだ?」


「……何でも斬れる。運さえ良ければな」


 確率の魔剣は果物さえ斬れないこともあれば、建物だって斬れることがある。理論上世界だって斬れるはずだった。どうやって斬るのか検討もつかなかったが。


「へえ~もしかして、よっと」


 そう言って、軽く剣を引き抜き近くの木を切りつけた。何かがずれるような剣閃が走り、木がゆっくり傾いてきた。ミシミシと葉と枝が無理やりこすれる音が響く。


「何してんのよ!」


 ズ、ズンと重たい音を立てて木が倒れた。幸いなことに誰も下敷きにならなかったが、危険なことに変わりはない。


「す、すっげぇ!! この剣やべぇぞ! 何の手応えもなかったんだけどっ! く、黒無! この剣くれ!!」


「やらんわ」


「あんたみたいなのに渡したら、ろくなことにならないわよ!」


 興奮する生樹の言葉をばっさりと切り捨てる。


「いや聞いてくれよ! 俺の異能と相性すごくいいんだこれ! これさえあれば俺は最強になれる!!」


「無理だ」


「何でだよ! なんでも斬れるんだぞ! それに俺の異能は危険が分かる! 何でも斬れて、何でも対処できる。最強だろ!」


 興奮して振り回された魔剣が周囲の木樹を伐っていく。弾かれることもあるが、まるでお構いなしだ。興奮で周りが見えていない。これでは、いくら異能で危険が分かっても意味がない。


「気持ちは分からなくもないが、それだけじゃ最強には足りない。危ないから剣を止めろ」


 木樹を避けながら生樹に言う。幸い、倒れる速度は遅く、倒れる木も別の木に引っかかったりして、大事には至っていない。


「あんたねぇ! 周りも見えてないやつが最強になんてなれるわけ無いでしょ!」


 木を避けながらミーネも叫ぶ。


「周り? おわっ!」


 ズズんと音を立てて崩れてくる木樹に驚く生樹。どうやら、本当に意識になかったようだ。


「な、何だこれ」


「あんたがやったんでしょうがッ!」


 周囲は散々なことになっていた。木樹は伐られ倒れて、草花が散っている。黒無も生樹を注意しようと口を開いた。

 その時だった。


「「――!?」」


「ど、どうしたんだよ」


 突如、危機感が黒無を襲う。隣を見れば、ミーネも硬直していた。生樹だけが気が付いていないようで、驚いていた。そして、それに構う余裕は黒無とミーネにはなかった。


「何か、来る……ッ」


 大気が赤く濁り始める。どす黒い赤色の粒子が大気に混ざり始めた。


「逃げるわよ!」


 そう、ミーネが叫んだ瞬間、


「グルゥルゥルゥルゥルッ!」


 邪な龍の唸り声が辺りに響かせて、邪龍が木樹をへし折って現れた。



 龍がいた。黒と灰色の禍々しい龍鱗の巨龍が。家より大きく、鋭い棘を持ち、人を丸呑みできそうな大きな龍が。鼻がひん曲がりそうな汚臭と潰れそうな圧力を撒き散らしている龍が。


「ギャッギャッギャ」


 嗤った。悪臭ととびっきりの悪意をこめて。龍の細い瞳孔がちょうどいいおもちゃを見つけたように黒無達を見つめていた。

 動けない。そのギョロリとしたトカゲの瞳孔に込められた圧力が、身体の自由を奪っていた。

 ズン、と重たい音を立てて、邪龍が動いた。身体の硬直が解ける。だが、近づいてくる邪龍に黒無もミーネも動けないでいた。


「はっ、つくづく面白いよな異世界ってのは」


 意外にも、まず動き出したのは生樹だった。魔剣を龍へと向ける。かつて動けなかった経験が、彼を強くしたのか。それとも恐怖が分からないだけか、または恐怖を乗り越えた勇気か。その目に恐れはなかった。


「今の俺は無敵だぜ?」


 魔剣を肩に担ぐようにして邪龍を挑発する。邪龍は、気にせず近づいて来た。


「前の俺はビビってた。敵の危険性が分かるってだけで、恐怖に動けなくなった。だけど、今の俺は違うぜ? 同じ轍は踏まねえんだよぉお!」


 踏み込む。だが、その足は途中で止まった。


「なっ!? 見え、ない……!?」


 生樹は気がつくべきだった。己の異能で邪龍に気がつけなかった理由を。



 この世界で神たる龍種に、異世界人の異能は通用しない。



 この世界の主である龍は、異法たる異能を認めない。許さない。

 踏みとどまった生樹を邪龍の巨爪が襲った。


「ちっ、世話のやける!」


 入れ替わるように、生樹を引っ張り黒無が間に入った。

 龍の豪腕によって、切り裂かれつつも弾丸のように吹き飛ばされる。


「グガァァアアアア!!」


 龍が咆哮をあげた。




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