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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-12 龍と戦うには


 桜の屋敷の地下には体育館のような運動場がある。魔法のある中世的世界観にあわない現代的体育館はさておいて。そこは能力を測るにはうってつけの場所だった。


「3,2,1,はい、終了ー!」


「はっ、はっ、はっ、あり、がとう……ござい、ました……」


「お疲れ。タオルと水だ。あわてるなよ」


「はっ、はっ、たす、かるわ……」


 ミーネが桜に弟子入りして、まず行われたことは身体能力のテストだった。まずは現状の把握というらしい。黒無は居る必要はないが、世話係をかって出た訳だ。その心は言うまでもない。


「これで、計測終わりね。お疲れ様」


「ありがとう、ございます。その、結果は、どうだったでしょうか」


「うーん、まぁ普通だね」


「普通、ですか……?」


 肩を落としたミーネに桜は続ける。


「一般の人の範疇だね。鍛えているってのは分かるけど、討伐者になるには足りない、かな」


「……っ!」


「……おい」


「過度に期待させるようなことは言わないよ。結果は結果だからね」


魔法の才能 無し

身体能力テスト 50m 6秒9 シャトルラン130回 反復横跳び…… 

ボール避け(指定空間内で100個発射されるボールをいくつ避けられるか)52個

バランスパネル(常にバランスを崩そうとするパネルにどれだけ乗っていられるか。平均18秒)40秒


「黒くんはミーネちゃんを討伐者にしたくなかったみたいだけど、私もそれに賛成かな。ミーネちゃんの能力は討伐者向きじゃないよ」


「でもっ、私は……!!」


「……おいババア。話が違うぞ」


「まぁまぁ、それは今の話だよ。早合点しないの」


 俯き、顔を上げたミーネたちを手で制し、


「これが現状。これからの話しをしよう。お義母さんに任せなさい!」


 桜は胸を張った。大きな豊乳がたゆんと揺れた。


「さて、ミーネちゃんの目的は龍殺しだよね。それを前提に話をすすめようか」


 教室みたいな部屋に移動し、桜が教鞭を振った。ミーネは最前列に、黒無はその後ろに座って話を聞く。


「まず、さっきの検査のことからね。能力検査では、ミーネちゃんの現在の能力を簡単に確認させてもらいました。今後確かめてもらうけど、扱えそうなアーティファクトがあるかってことの参考にね」


「アーティファクト……ですか?」


「そうだよ。龍を相手、というか魔のつく生物を相手にするときは、魔術や魔道具、アーティファクトといった超常的な力がないと通常は太刀打ちできないの。前回のダンジョンでミノタウロスと戦ったけど、理不尽に硬かったでしょ?」


「はい……。剣がまるで通りませんでした」


 桜に指摘されてミーネは頷いた。ミーネの剣も討伐者の斧も魔物には通じなかった。斧のほうは力筋が通っていなかったということもあるが、それを抜きにしても魔物は強靭だった。


「黒くんは言わなかっただろうけど、討伐者が使う武器は特別性で、魔術による切れ味の強化がされているからね。ミーネちゃんの武器は地上の獲物向きだから、なおさら通じなかったんだよ。ほんとは、そこの引率者さんが教えて上げる必要があったんだけどね」


「そうだったんですか。……ちょっとクロナ、ひどいわよ」


「……うっかりしてたんだよ。忘れてた」


 正確にはダンジョンに入る前まで忘れていた。だが、魔物と戦う予定はなかったので、黙っていたのだ。もし遭遇して、剣が通じなければ、それはそれでいいと思ったということもある。どうせ逃げるのだから。


「そういう訳で魔術を覚えるか、アーティファクトを使えるようにならないと龍とは戦うこともできないってわけ。まぁそれ以外の方法が効かないってわけじゃなくて、例えば水に強制的に沈めて溺れさせれば、死んじゃうけどね。龍だって、手足縛って羽もいで魔法封じて海に沈めれば魚の餌になっちゃうよ。そこまでするのが難しいけどね」


 毒も病も効くが、龍には魔法という手段があるため自力で治療されてしまう。


「ミーネちゃんは魔術の才能は残念ながら無かったから、アーティファクトの利用になるんだけど……アーティファクトって癖があってね。使うには色々必要な条件があったりするの。例えばこれ」


 そう言って、桜はどこからともなく、一本の剣を取り出した。大きな青い宝石が真ん中に埋め込まれたショートソードだ。中庭の倉庫にあった一本である。

 剣を持つ手と反対の手にこれまたどこからか取り出したレンガを出し、剣を当てる。剣はバターを斬るかのようにレンガを切断した。


「これ、見ての通りの切れ味を誇る剣のアーティファクトね。一般的には魔剣って呼ばれる部類なんだけど、実は体力を吸い取るんだよね。体力自慢の大人でも、3刻もあれば、へばっちゃうくらいに。この剣だったら龍の魔法障壁を破って、目とかの急所なら傷つけることができるんだけど、それまで体力が残らないのが残念な魔剣だね。ミーネちゃんが底なしの体力を持っていれば、これをあげたんだけど」


「それが、あれば、龍を殺せるのですか……?」


 フラフラと伸ばされた手からひょいと魔剣を遠ざけて、桜は背に隠した。


「ミーネちゃん落ち着いて。残念だけど、これは持っているだけで体力が奪われるから駄目なんだよ」


「だけどっ……」


「ミーネ落ち着け。別に魔剣はあれだけじゃねえよ」


「そうだよ。後でゆっくり探せばいいよ」


「……はい」


 落ち込んだ様子で椅子に戻った。その様子にホッとして、黒無も腰を落とす。


「それじゃ次だね。けっこう重要なのが歩法ね。相手の意識をすり抜けるような、ね。龍相手には基本的には不意打ちが必要なの。龍ってのは、基本的に魔法障壁って言う、卑怯な壁を張っているから。ただでさえ強靭な龍鱗を超えて、攻撃を加えるには魔法障壁なんて、構っていられないよね。で、一応魔法障壁には意識外の部位は脆くなるって性質があるから、そこを突きます。なので、相手の意識をすり抜けるような歩法が必要なのです」


 そう言って、桜の身体が、蜃気楼のようにブレる。次の瞬間、黒無は後頭部に柔らかいものを感じた。


「……いい加減抱きつくのやめろ、ババア」


「そして移動は静かに! 音がないってことは無駄なエネルギー、力がないってこと。日常生活でも(しのぶ)んだよ」


「……まさか、道場のガキどもに教えていないだろうな。嫌だぞ、住民のほとんどが足音しない街なんて」


 桜が元の位置に戻る。


「身につくまでは常に意識して、無意識にできるようにすること」


「要は日常生活全てで修行しろってことだろ」


「そゆこと~。お母さんクラスになると日常生活全てが修行だね。掃除、洗濯、料理! 全て魔術操作の練習だし、今だって、実は魔術を使っています!!」


「え……?」


「どこにだよ」


 黒無には桜はただ、目の前で腰に手を当ててポーズを取っているようにしか見えない。


「身体を地面すれすれに浮かばせているのと、同じくらいの圧力を上からかけているのと、足場は作用点が一点しか無いから、そのバランスをとることを同時にしてます!!」


「ミーネ。あれは真似しなくていい。ただのアホだ」


「黒くーんそんなこと言わないでよー」


「……すごいと思います」


 ミーネは静かに言葉を漏らした。龍と戦い倒せるような人は、このような次元でなければならないのだ。


「大丈夫! ちょっと時間はかかるかもしれないけど、ミーネちゃんが龍と戦えるようになるくらいまでは引き上げてあげるからね。頑張ってついてきてよ!」


「はい。頑張ります」


「よーし! じゃあ、早速修行だよ! 訓練所まで、なるべく静かに行ってみよう!」


「はい! 師匠!」


「……なんだかなぁ」


 やたらテンションの高い桜に、そろりそろりと付いていくミーネを黒無は呆れたように見送った。


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