表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
20/30

2-11 弟子入り


 濡れて、汚れてしまった服を着替えてから、黒無とミーネは桜の部屋の前にやってきていた。黒無が“書斎”と木製の札がかけられたドアをノックする。「どうぞー」と中から声が返ってきた。


「ね、ねえ。本当に、いいのよね? サクラさんの迷惑にならない?」


「ババアは家族だって言ったんだ。迷惑なんてかけてなんぼだろう」


 そう言って、黒無は桜の書斎の扉を開けた。そして、中に入る。おずおずと続いたミーネは思わず固まってしまった。

 それはまるでおとぎ話の中のような神秘的な光景だった。

 風の魔術だろうか。羊皮紙やら書類やらが円を描くように飛び回っている。縦横無尽に舞う紙はどこか秩序性を持ち、並んで広がっていた。高速で並列に動き回る紙の中心には執務机と椅子が浮かんでおり、椅子には桜が座っていた。飛び回る紙の中心では桜が何やらすさまじい勢いで書類に書き込んでいた。


「二人とも。どうしたの?」


 すぅーと紙の中心から、机ごとおりてきた桜が顔をあげた。その手は止まらず、残像と化している。手元の書類は署名するとすぐさま、豪華で大きな木製の書斎机の片方の山に積まれる。そして、もう片方の書類の山から一枚の紙が浮かび上がって、舞い踊る紙たちに混ざっていった。そして、球体から一枚の紙が桜の手元に飛んでくる。


「こ、これは……?」


「相変わらず、バカげたなことやっているのな」


「失礼だなー黒くんは。初めてみたときはミーネちゃんみたく驚いていたくせに」


「そんな記憶はないな」


 首を振る黒無の横でミーネは目を見開いて、驚いていた。大きく開いた瞳はきつくないなと思いながら、ミーネの肩を叩く。ミーネははっと我に返って、


「いったい、何をしているのですか……?」


「んー? ただの書類仕事だよ。私色々と偉い立場にいるから、見ないといけないことも多いんだよね。でも、したいこともあるから。こうやって時間の短縮をだね、してるわけなのだ」


「魔法の並行処理訓練も兼ねて、な。正直アホだと思うが」


「あ、そういうこと言うんだ~。こうやってるから、黒くんたちのご飯作ってあげられるんだけどなー。洗濯も掃除もね。今度から自分でやってもらおうかなー」


「……すみませんでした」


「わかればよろしい」


「へいこう、しょり」


 ミーネは部屋を見渡す。よくみると空中には紙と一緒にペンがいくつも浮かんでおり、そちらも高速で何やら書きあげていた。時折調べ物をしているのか、壁の大きな本棚から本がひとりでに取り出され、パラパラとめくられた後、そのまま空に浮く。本は一冊だけではなく数冊同時に開かれることもあった。一体いくつの作業、魔術をしているのか、検討もつかない。

 ミーネの中では、魔術とは魔物と戦う術であった。神(龍ではない真性の神)が授けてくれる討魔の力。日常に用いるという発想はなかった。それは魔術が魔物と戦う時に重要な攻撃手段であり、村の学び舎では魔術を使えるものは魔物を狩るのが普通だと教えられてきたからだ。

 そうやって、ミーネが驚嘆している間にも書類の山はどんどん移動していき、やがて終わった。


「ちょっとごめんね」


 桜の言葉を皮切りに、全ての書類が巻き上がる。そのまま、空中で仕分けされ、封筒に入れられ封をされて、そのまま窓から外に飛んでいった。


「どっか行ったが平気なのか。外、雨降っているが」


「大丈夫。防水は完璧だよ。門の横の書類入れに飛んでいっただけだから」


「……門前のあの透明な箱のところですか?」


 そう言えば門の横に何かを置く窓口みたいなものがあった、とミーネは思い出した。王宮行きなどとプレートの貼られた透明な保護ケースが並ぶ場所が門の横にあり、一体なんだろうと疑問だった場所があった。


「そうそう。あそこに入れておくと係の人が取りに来てくれるんだ。それと私に見てほしい書類とかもあそこに置いてくれるよ」


「そうだったんですか」


 ミーネが朝に走り込みをするとき、人がたくさんいたのは書類を取りに来た人がいたのだろう。


「それじゃ、そろそろ要件を聞こうかな。いったいどうしたの?」


「龍を殺したいらしい。修行つけてやってくれよ」


 単刀直入に黒無は言った。


「修行はいいけど、龍を殺すってのは物騒だね。理由を聞いてもいいかな」


「はい。私は――」


 ミーネが助けたい人がいて、龍に囚われていること、その人が自身と龍の制約のことから生きていることを伝える。その上で、90度頭を下げた。


「何を犠牲にしたとしても、助けたいです。どうか、お願いします」


「う、うん。いや、修行はいいんだけど……ね。たぶん、その人。助かっていると思う、よ?」


 桜が黒無をチラチラ見つつ、何か言いたげに返事をする。頭を90度下げるミーネの横で黒無は眉をひそめた。


「そうかも知れません。あの邪龍は、私を攻撃しようとしたとき、そのような旨を言っていましたので。けれど、必ず見つけてやると怨嗟も吐いていました。今度こそ、危ないかもしれません」


「うーん、そっか。わかったよ」


 桜が頬に手を当てて、何やら考え込む。そのまま、椅子に座ったまま空中をくるくると回りだす。黒髪が流星のように流れた。


「サ、サクラさん?」


「……何やってんだ?」


「ちょっと考え事ー」


 それから桜はぴょんと飛び降りた。


「よし。じゃあ、ミーネちゃん強化作戦始めるよっ! 行こっ!」


「えっ!? え、え!?」


 ミーネの手を掴んで、部屋を走り去る。残された黒無は、


「何だ、いったい……」


 一人ポツリとつぶやいてから、二人を追いかけ地下の運動部屋に向かっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ