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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
18/30

2-9 ダンジョン内にて


「ここらへんだな」


 二時間くらい歩いた頃、黒無(クロナ)たちは目的地付近に到着していた。こんだけ速く着いたのは、目的地を近くに設定していたこともあるが、


「魔物の影すらないんだが……」


 魔物に遭遇しなかったということもある。


「あんたが、そう誘導しながら来たんでしょ」


「いや、俺は示された道を来ただけだから……。確かに一番安全のルートを選んだけど……」


「はっきりしないわね。自分の力に確信を持てないなら使わないほうがいいわよ、そんな力」


「まぁまぁ。魔物に遭わないことが目的で、それを達成できるなら、自信を持っていいと思うけどな」


 ミーネの言葉に肩を落とした生樹を励ます。どんなに自信がなかろうと、結果が出せるなら十分なのだから。

 生樹にそう言いながら、近くの木の頭くらいの位置に青い布を巻く。休憩中の合図だ。狩場の近くであるため、同族狩りや横取り狙いと勘違いされないようにするためだ。


「ん? 何だそれ?」


「これは――」


「誰か、来たわよ」


 荷物をおいて、木に腰掛けていたミーネが立ち上がって、剣に手を当てる。同時に草木をかき分ける音が鳴った。


「どうも。この辺で使ってもいいのか聞きに来た。いや、いいみたいだな」


「どうも。ああ。オレ達のことは気にしないでくれ。誤解されるような位置で悪いが、目的があってな」


 スキンヘッドの大男が一人現れる。防具は身につけているが、武器は持っていない。とはいえ、隠し持っている可能性もあるし、攻撃を仕掛ければすぐに後方のパーティーメンバーと合流するだろう。


「聞いておいていいか?」


「ああ。わかっている――」


 黒無はスキンヘッドの討伐者に目的を簡単に説明した。盗賊などと怪しまれて、魔術でも打ち込まれても困るからだ。


「わかった。視線を感じても気にしねえでおくぜ」


「感謝する」


 スキンヘッドの討伐者は離れていった。黒無は、生樹たちの方に振り向く。


「まぁ、そういうわけだ。その布は他の討伐者たちに、同族狩りに誤解されないためのものだ。目安にしかならないけどな……お。出たぞ、結構いるな」


 森の開いた場所に、先ほどのスキンヘッドのパーティーが現れていた。斧を持ったスキンヘッドを覗いて6人。大きな盾を持った者が二人。剣を持った者が一人。身軽そうな索敵らしい者が一人。剣士と索敵は腕にラウンドシールドを着けている。魔術師と思われる初老の男が一人。そして、黒髪のローブを着た少年が一人だった。一階層にしては少々大所帯だ。


「……けっこう多いなー。普通のパーティーってあんな感じなのか?」


「いや、多いぞ……おそらく、あいつらも研修だろうな。だから多い。なんかあった時のためにな。魔術師が二人いるところ見るとあの黒髪が新人か。なかなか至れり尽くせりだな」


 黒髪の少年は緊張しているように見えた。盾の男やスキンヘッドに声をかけられている。


「ねえ、あの黒髪、あんたたちと同じ稀人じゃない?」


「……たぶんな」


「顔的にそうじゃね? つーか、異世界人多すぎねえ?」


「そうだな……ん、始まるみたいだ。よく見ておけ」


 周囲に罠を仕掛け、逃走路を確保したらしいスキンヘッドのパーティーから、索敵の男が一人、森へと消えた。残ったメンツが魔術師たちを囲むように陣形を組む。


「もっとも基本的な誘い込みの陣形だな。索敵が魔物を引っ張ってきて、魔術師が殲滅する。準備に時間のかかる魔術の詠唱を剣士や盾が稼ぐ。最もリスク、危険の少ない陣形だ」


 逃走路側は斧を持ったスキンヘッドが見張っている。その逆の方向には盾二人が構えていた。陣の中心では精神統一している魔術師と杖を握った少年がいて、その横では剣士が陣の横を警戒している。


「魔術は対魔物で非常に強力な攻撃手段だが、時間がかかることが欠点だ。だから、ああいう陣形が基本になる。剣で斬りつけるよりも、安全で効果的だからな」


「それじゃあ、剣の役目は……」


「まぁ、見てろ。来たぞ。あそこの索敵は優秀だな」


 索敵の男が、茂みから飛び出してきた。入れ替わるように、盾の男が魔術師達の壁にと立ちふさがる、とそこで魔物が飛び出してきた。狼だ。


「森狼……の群れだな」


 次々と、飛び出してくる森狼たちを挟み込みように盾と索敵、剣士が移動する。スキンヘッドは魔術師のそばに移動し、全体を警戒していた。


「「「「GRURURURUッ――」」」」


「今だ! 撃てぇ!」


 スキンヘッドが叫ぶ。その声に、ローブの少年が杖を掲げた。前衛が盾を構える。


「で、でろ! 『豪炎』!」


 だが、何も起こらなかった。慌てすぎて、イメージが崩れたのだ。


「落ち着け!! 前は崩れないぞ。前衛! もう少し頼んだぞ!」


「あいよー! 俺様たちにまかせなぁー!!」


 前衛たちが押さえ込むように動く。剣士と索敵は森狼が広がりすぎないように切り込み、牽制し、盾二人が盾で森狼を受け止めている。その後方で、初老の男がローブの少年を落ち着かせるように話していた。その腕は森狼たちの方に向けられている。いざという時は、彼が殲滅するのだろう。


「すげぇ、あれが……討伐者……ッ」


「ああいう感じだ。人間の力じゃ、魔物には敵わないんだよ」


 盾の大男でさえ、森狼の突進に地面を削って受け止めていた。身体の半分しかないような森狼でさえ、受け止めるには腰を落とし、全力で受け止めている。剣士や索敵も受け流すようにして、森狼たちを止めていた。それでも抜けさせないのは、一重に彼らが熟練の討伐者たちだからだ。


「熟練の剣士でさえ、魔物と一対一では戦わない。剣で斬るより、魔術で倒したほうがいいから」


「……ッ」


 ここまでは、想定通りだった。いや、期待以上だった。手練の剣士が魔術の時間を稼ぐ役をしている姿をミーネに見せることができた。魔物に対する決定打は魔術であり、剣士はその補助だと示すことができたのだから。


「……? なぁ、なんかやばい。俺の異能が危険だって言ってる」


「――え? どうしてだ? うまくいっているだろう?」


 戦闘は佳境に入っていた。熟練の前衛達は森狼たちを押さえ込み、落ち着きを取り戻した少年が杖を掲げ、集中していた。

 少年が魔術を放てば、戦いは終わる。初老の魔術師に魔術を打たせず、新人に自信を持たせる試みは概ね成功しているだろう。

 スキンヘッドの男も異世界人が初めての実戦で竦んでしまうことは想定内だったはずだ。だからこそ、魔術師を保険に連れてきて、なおかつ魔物を確実におさえこめるような腕利きを用意していた。素早い森狼たちを見事な連携で魔術師たちの方に行かせない前衛たちを見せつけさせ、魔術師は仲間を信用して魔術を撃てばいいことを新人に強く認識させる試みは成功していた。再起まで経験させる非常に効果的な教育――になるはずだった。

 だが、それが裏目に出た。

 スキンヘッドの男には知りようのないことだったが、今回ばかりは時間をかけるべきではなかったのだ。


「……ッ!?」


 最初に気付いたのは索敵の男だった。


「魔術を撃てっ」


「私がやります! 君は待機を!」


 初老の男が少年を手で制して魔術を放つ。


「『かまいたち』ッ!!」


「GRUUU――」


 精密な風が、最小限の損傷で森狼の命を刈る。即座に離脱しようとする前衛達。だが、一瞬遅かった。

 森狼たちが崩れ落ちる前に、高速で飛び込んできた巨影が盾役を弾き飛ばし、高速で振るわれた長い影が剣士を吹き飛ばした。


「ガァ――」「おっ、グ――」


 冗談のように飛んだ剣士が森へ消える。盾役の男が木樹にぶつかりへし折って、血反吐を吐く。


「なっなんだ、あ――」


 生樹が叫ぶより早く、巨影の雄叫びが響き渡った。


「BUMOOOOOOOOOOO!!!!」


 静寂。

 ドサッと、どこかで重たいものが落ちた音が聞こえた。時が動き出す。


「ミノタウロス!! くっそ! 悪魔種か!!」


「動きを抑えこむ魔術を! 新人は火力だ!!」


 盾と索敵が動き出す。魔術師たちから、標的を移させるために。スキンヘッドも指示を出し、魔術師たちを庇うように駆け出していた。


「ッ!!」


「おいっ! 待て! 生樹! 来るなよ!」


「あ、ああ……」


 ミーネが駆け出す。黒無は、生樹を静止してから追いかけた。そして、7秒ほど駆けて、広場手前で倒れた。フラつきながら立ち上がり、無防備のまま戦場に歩いて行く。


「はっ、はっ、はっ……くそ……がっ」


 生樹は立ちすくんでいた。彼の異能は危険性を正しく認識していたから。そして、それは正解だった。


「助太刀します!!」


「ばかやめろっ!」


 ミーネは叫んでミノタウロスの背後から斬りかかった。丸太のように太い足に剣が当たるが、硬い感触とともに刃が剛毛を滑った。体勢を崩したミーネにミノタウロスの尾が鞭のごとくしなった。剣が弾き飛ばされ、森に消える。ふらついたミーネにミノタウロスが拳を振り下ろした。


「BUMOO!」


「やめろォォおおおおお!!」


 クン、と入れ替わるように黒無がミーネを引き戻した。代わりに、自身がミーネの場所に移る。グシャッと肉が潰れる音が鳴った。


「クロナッ!」


「ばっ、爆炎豪炎スプラッタッ!」


「駄目だ! 巻き込む――」


 轟音。

 爆炎とともに重たい音がのしかかる。黒無に拳を振り下ろした体勢のままのミノタウロスを飲み込んだ爆発は範囲内の生物を焼き尽くした。肉が焦げる匂い。毛が燃える嫌な匂いが周囲に広がる。爆風にミーネが吹き飛ばされ、転がった。


黒無(クロナ)ァァアアーー!!」


 爆煙から、巨影が飛び出る。狙うは黒髪の少年。振るわれた豪腕をスキンヘッドが斧でかろうじて受け流した。ミノタウロスが怒りの声を上げる。


「BUMOMOMOOOO!!」


「効いてるぞ!! 魔術いけ――」


 声を上げた瞬間に殴り飛ばされスキンヘッドが吹き飛んだ。魔術師を巻き込んで、後方に転がる。斧がミーネの方に投げ出された。


「諦めてッ、たまるかぁッ!!」


 かろうじて、立ち上がっていたミーネは斧に引っ張られるようにミノタウロスに斬りかかった。しかし、力の定まらない斧の刃は、ミノタウロスの足の剛筋に弾かれる。斧の反射した衝撃に手から斧がすっぽ抜けた。そして、戦意喪失した少年よりもミーネのほうが煩わしかったのか、ミノタウロスはミーネに狙いを変えた。ミノタウロスが倒れるミーネのほうに振り向く。ミーネが逃げようとするが斧の衝撃で思うように動けなかった。

 ミノタウロスが拳を振り上げた。


「私は……ッ、こんなところで死ぬわけにはいかないのよっ……!」


 拳が振り下ろされる。迫りくる拳をミーネはせめてもの抵抗で睨みつけた。


「うーん、それは許容できないなぁ。そこまでね」


 と、そこに影が割り込む。ミノタウロスの拳が止まった。

 音もなく、桜がミーネの前に現れていた。片手でミノタウロスの拳を止めている。そしてデコピンを放った。

 パァン! と高い音を響かせて、ミノタウロスが後退する。


「サクラさん!?」


「よく頑張ったねミーネちゃん。後はお義母さんに任せなさい」


「どうして、ここにっ……!? 何で……ッ」


 ブロンド(・・・・)の髪をなびかせて、桜がミーネに振り返り、笑顔を見せる。見るものを安心させる笑顔に緊張を解かれたミーネの口から疑問が飛び出た。


「うーん、実はね。最初からミーネちゃんたちを尾行してたの。アリスちゃんが危険だってぼやいていたし、ミーネちゃんのことも心配だったからね」


 ミノタウロスは止まっていた。突然現れた乱入者に、同対処すべきか分からないかのように。そんなミノタウロスは尻目に、桜は話しながらピッと指から淡い光を飛ばす。淡い青の光は黒無以外の負傷者に飛んでいき、その傷を癒やした。かろうじて生きていたものたちが命を繋ぐ。


「そしたら、黒くん立派に引率してるんだもん。お母さん感動しちゃって。いつの間に親離れが進んでた子どもに嬉しいのやら、寂しいのか分かんなくなっちゃって」


 嬉し涙を拭いながら、桜が続ける。

 ベギっとミノタウロスが、身近な木を根本からへし折った。そして、葉の方もへし折り丸太を作り出す。


「ずっと見ていたんだけどね。他所(よそ)様ともしっかり交渉してたし、家族を守るために危険に飛び込んでて、すっごく感動しちゃった。黒くんもいつの間にか、男の人になってたんだなぁって」


「どうしてっ、どうしてっ、クロナを助けてくれなかったんだ!! あいつは……ッ、あいつはひねくれてたけどいい奴だったのにッ」


 生樹が広場にやって来ていた。黒無を助けに入らなかった桜に食って掛かる。


「えっと、君は黒くんのお友達だね? 初めまして、黒無の母の桜です。黒くんと仲良くしてくれてありがとう」


「母親ならなんでッ!! 黒無は、黒無は死んだんだぞ!!」


「大丈夫だよ。黒くんは生きてる。そうじゃなきゃ、こんなにゆっくりしてないよ。あのミノくん消し飛ばしてるよ」


 桜がひらひらと手を振りながら、丸太を爪で尖らせていたミノタウロスをちらりと見る。生樹がへなへなと腰を落とした。


「クロナは……生きてるんですか?」


「うん。そこで潰れて焦げてるけど。あ、潰れたって言っても、ちょっと凹んだだけだから。黒くん頑丈だし。その程度じゃ死なないから」


「なんで、怪我するまで助けなかったんですか……」


 生樹が絞り出すように言う。


「うーん? 黒くんの試練を取り上げないためかな? それと黒くんの選択を尊重させてあげたかったからとかかな。黒くんが決めて黒くんが選んだ道をね。親ができるのは、背中を押してあげるだけだから。守ってあげることもできるけど、黒くんはもう成人しているから。甘やかしすぎるのはよくないし。あ、でもほんとは怪我もしてほしくなかったんだよ?」


「でも! 死ぬかも知れなかったんだぞッ! そんなのッ、いくら異世界だって……」


「死ぬのは駄目だよ。この世界には死が溢れているけど、私より長生きしてほしいし。

 まぁ言いたいことは分かるよ。もし黒くんが死んでしまうような選択肢を選んだら、私は絶対に阻止するから。君も気をつけるんだよ。身に沁みたと思うけどこの世界の命は軽いから」


「BUMOBUMOMO」


 ミノタウロスが即席の槍を構えていた。対する桜は気にも止めていない。ミノタウロスが怒りの声を上げ、高速で突進した。


「BUMOOOO!!」


「サクラさんッ!!」


「大丈夫。待ってあげただけだから」


「BUMO!?」


 巨大な木槍が無造作に挙げられた右手に止められた。ミノタウロスの巨体が止まる。極太の足が地面を抉るが、桜はピクリとも動かなかった。


「邪魔だね。これ」


 桜が目に見えない速度で左腕を振った。

 ミノタウロスの腕が根本から切断される。丸太の槍が地面に落ちた。赤い血が間欠泉のように吹き出る。ミノタウロスの絶叫が響いた。


「BUMOOOOOO!?」


「私は怒ってるんだよ」


 ミノタウロスの血が飛び散るのを見ながら、桜がつぶやく。至近距離だと言うのに、一滴たりともその服に血は届かない。


「確かに私は助けなかった。だから、ほんとは筋違いかもね。でも、子が傷ついて悲しまない親はいないんだよ」


 腕を失った肩を抑え、叫ぶミノタウロスを桜は見上げた。黒曜石の瞳が魔物を捉える。


「BUUUUUUUMOOOOOOO!!!!」


 ブクブク!! とミノタウロスの腕が膨張するように再生する。大きく後ろに飛んだ。ズシンと音を立て、逃げようとする。


「逃がさないよ」


 パチンと指が鳴った。

 ギュルンと地面から金属の鞭たちが飛び出てミノタウロスの動きを拘束する。さらに縛りついた金属は棘を生やしミノタウロスに突き刺さった。ミノタウロスの絶叫が森に響く。動きが止まった巨体に七色のイルミネーションの雪が舞い降りた。


「――きれい」


 虹色の火花が雪のように、ゆっくりと落ちる。

 七色に輝く幻想的な種は、動けない魔物に静かに着床し――


「『雷帝――セブンス・ローズ――』」


 彩り豊かな雷バラが咲き乱れた。


「BOBOBOBOBOBOBOOOOO!!!!」


 七色に輝くバラがその花弁を落とす。

 断末魔が、命の終わりを告げる。

 ドシンという重たい音を立てて、ミノタウロスは崩れ落ちた。


「まぁ、こんなもんね。さっ、帰りましょう我が家に」


 黒無の、ミーネたちの初めての冒険は、そうして終わりを告げた。



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