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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-8 ダンジョンに


 翌日。曇り空に太陽が少し登った頃。

 黒無たちはダンジョンの前にやってきていた。


「おおー。The 異空間だな」


 生樹が思わず声をあげた。

 生樹の目の前には空間がきれいな横長の楕円形に裂け、虹色に光っている。これが、ダンジョンの入り口だった。ダンジョンの入口の周りは濠になっていて、黒無たちは“門”前の橋の上にいる。馬車が何台も同時に通れそうな幅広い橋は、濠を囲む城壁から続いていて、まばらだが武器を持った討伐者たちが行き来していた。興奮して声を上げる生樹にクスクスと笑うものもいる。革装備に剣を提げ、一端の討伐者に見えるが、態度で初心者だと丸わかりだった。


「ねえ、この濠は何なの?」


 生樹がダンジョンに興奮する一方、現地人であるミーネは超常的な“門”よりもその周辺を囲む濠と城壁のほうが気になる様子を示していた。魔術が普通にある世界の住人にとっては、何もないところから火や水をおこすことがあるため、周りの機構の方が気になるのだろう。

 対比してみると感じる差に黒無は納得する。確認したわけではないので、正しいかわからないが。


「濠は氾濫対策だ。城壁もそうだな。万が一、氾濫が起こったときに食い止める、迎撃の時間を稼げるようにだな」


「へぇ~。だから、門番がいるのか」


 生樹が橋の入口にある城壁下の詰め所を見つめていった。その視線の先にいる門番たちの役割は、生樹の言うとおりダンジョンの見張りである。とはいえこの地で氾濫はもう何十年も起こっていない。ダンジョンの見張りの仕事は形骸化し、討伐者や冒険者の監視、行商の検問が主な仕事になっていた。


「まぁ、そういうことだ。納得したら、ダンジョンに行くぞ」


「さっさと行きましょう」


「よっし。いよいよ、だな」


 黒無の呼びかけに頷き、三人はダンジョンに入っていった。


「あっはぁ! 異世界だっ、ふぉおおー!! げべっ」


「うるさい」


 虹色の空間をくぐると草原だった。草の匂いが鼻を突く。広い青空を見上げれば、サササァと草の擦れる音が聞こえた。

 一名うるさい黒髪がいたので、蹴って黙らせる。敵地で叫ぶバカは捨て置きたいところだ。


「邪魔にならないように少し離れるぞ」


 言って、ダンジョンの入口から数歩離れる。ちょうど後続の人間が現れ、ちらりと黒無達を見てから離れていった。


「じゃあ確認するぞ。まずは目的地だな。生樹、地図もらって来てるな? それを出してくれ」


「あーやっぱ来たか。……見ても笑うなよ」


「わ、汚いわね」


「ミーネちゃんんっ!?」


 生樹の取り出した地図を三人で覗き込む。お世辞にも綺麗とは言えないその簡易地図は、かろうじて役目を果たしているように見えた。


「いやな。俺頑張ったのよ? 昨日の今日で頑張って描いたわけ。ダンジョンに行く準備もしなきゃいけなかったけど、睡眠時間を削るわけにもいかなかったから」


「頑張りは認める。汚いが」


「そうね。汚いけど」


「ひどい奴らだ……」


「それと、はぐれたとき用の簡易コンパスを渡しておく。生樹は持っているな?」


「いや。忘れたからくれ」


「地図だけ持ってどうするつもりだったのよ……」


 ミーネの生樹を見る目がマイナスに振り切られていた。


「ふふん。太陽さえわかれば、だいたいの方位は分かるからな。それにこの“門”からは東西南北に街道が続いているから、最初に向かった方角さえ覚えておけば、南北か東西に行けば街道に着ける。あとは来た方向の逆に行けば“門”に帰ってこれるって寸法よ!」


 生樹はガリガリと地面に十字架を描きながら、話す。位置関係のみを表す簡易地図だ。ダンジョンの一階層は他の街にも繋がっていて、行商が利用するために街道が敷かれている。アケレラはちょうど各主要都市を結ぶ十字架の中心に位置するため、街道は非常にわかりやすい形をしていた。


「だがまぁ、逃走中に方角なんて測っている暇はないから、簡易コンパスを渡したわけだが」


「オーマイっガー!」


「無様ね」


 崩れ落ちる生樹にミーネが追い打ちをかける。


「ちょちょちょ! ミーネちゃーん! 当たり強すぎない? 俺けっこうガラスのハートだよ? 許容量超えるとパリンだからね? ね? 最初の頃のあの不気味な敬語キャラはどこに行っちゃったんだよっ~……。まったく似合ってなかったけど、あっちのほうがまだマシだった……」


「あんたが、私をどう思っていたのかよく分かったわ……」


「まぁその辺でな。それと今回は近場の“門”を示す特別性コンパスがあるのでそれを使う。はぐれたときは各自の簡易コンパスで街道に合流してから“門”に向かってくれ」


「このボンボンが! 知ってるぞそのコンパス! めっちゃ高いやつだろ!」


「よく知ってるな。普通のやつのうん千倍のコンパスだ。ババアから貸りてきた」


「おばあちゃーん!! ここに悪い子が居まーす!」


「失礼な。ちゃんと許可は貰ってる」


「そうね……とっても軽く貸してくれたわ」


 桜は子どもの生存のためなら、とても甘かった。そして、金銭感覚もおかしかった。


「まぁババアのことはいい。話を戻すぞ。目的地はここから一番近い狩場。さっきの位置関係で言うなら、北東の方角にある奴だ。はぐれたら、南か西に行ってくれ。大きな街道にぶつかるだろう。集合は昨日の打ち合わせの通りギルドな。まぁ、逸れることはまずないだろうが」


 足で、だいたいの位置を生樹が地面に描いた地図に印をつける。生樹は持ってきた地図で場所を確認し、顔を上げた。


「なぁ、この辺森になっているんだが、強い魔物出たりしないのか? 最初だし、そのへんで慣らしたほうがいいと思うんだが」


「そうね。肩慣らししたいわ」


 ミーネも腰に帯びた剣をチャキリと鳴らして言った。


「黙れ黙れ、戦闘狂ども。オレという非戦闘員がいるのに戦闘なんて許すわけ無いだろ。今日は見学だけだ。オレのいないところで好きに暴れろよ」


「横暴だ! 守られるくせに偉そうだぞ!」


「そうよ! あんたくらい守る自信はあるわ!」


 黒無の情けない理由のくせに、偉そうな態度に二人が反発する。そんな二人の抗議をどこ吹く風で黒無は続けた。

「いや、だいたい戦闘になったら死ぬのお前らだしな。まぁ、遭遇したやつにもよるが。

 さて、そんなことはどうでもいい。質問に戻るが、たしかに生樹の言うように森のほうが強い魔物に遭いやすい。だが、それはあくまで確率的な話だ。別にいま目の前に見える草原でも強い魔物にである可能性は十分にある」


 街道から見える草原には腰丈ほどの草が、生えていてどこから魔物が飛び出してもおかしくはない感じだった。


「ただ、戦うだけなら適当に歩いているだけで襲ってくるから、散歩でもしてればいい。だが、危険を最小限に抑えて、しかも有利に戦うとするとそこら辺をほっつき歩いているだけじゃ。駄目だ。それは分かるな?」


「ういっす、黒無せんせー。質問です。適当に歩いていても魔物は襲ってくると思うんですけどー。それはどうやって対処するんですかー?」


「警戒は索敵の仕事でしょ。あんたがやるって言ったんじゃない」


「あ、それもそうだった」


 打ち合わせの時点で、生樹は役割分担について、索敵を志願していた。異能が適するからという理由だった。


「道中の安全は、任せる。協力はするけどな。最低限、不意打ちさえ防げれば致命的なことにはならないはずだ。あと、オレは見捨てていい。戦闘になったら、まぁ臨機応変に対応する必要があるが、オレを無理に庇う必要はないから、そのつもりで。

 それで、森に行くのは目的が他パーティーの戦闘の見学だからだ。森は狩場としては、条件が良い。罠を仕掛けやすいし、うまくやれば木を利用して陣を張れば、地形的にも有利にできる。魔物の数も多いから、効率がいい。もちろん、それは魔物から見ても同じだから、きちんとしないとリスク、危険も高いけどな。まぁ草原をほっつき回るよりはよっぽど安全だ。それが、森に行く理由だ。何か質問は?」


「ないっす、黒無教官。了解しました」


「ないわよ。さっさと行きましょ。話が長いのよ」


「じゃあ、さっさと行くとしよう。生樹頼んだ」


 黒無はリュックを背負い直した。ミーネ袋を肩にかけて頷く。


「よっしゃ行きますか! 

 我は予定を知るもの。筋道立てることこそが、権能にて異能。世界に正しき道を知らしめることこそ、我が使命! 彼の地を示せ! ナビゲート!」


「何だ、その呪文は……?」


「え? 気分。即興だからかなり甘いけど、カッコつけてみた」


「……おぅ、そうか……まぁ、いいんじゃないか……?」


 本人の気分なら仕方ない。気恥ずかしくなる心を押し殺し、無表情を保つ黒無だった。その隣ではミーネが歩きだしていた。




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