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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-7 準備

 

 ダンジョンに行くことが決まった。決まってしまった。なら、死なない準備を最大限にしなければいけない。そうでなければ、死んでしまうからだ。

 エリシャが泣き崩れたあと、さすがにミーネも負い目を感じたのか、黒無と一緒にいくことを了承した。ダンジョンが危険なところだという認識はあったため、一人で行くよりはいいと考えたのだろう。そしてミーネ、生樹と三人、ギルドでそのための打ち合わせをした後、準備のために別れた黒無は、屋敷で支度をしていた。


 屋敷の台所。

 黒無は棚を漁って、携帯食を探していた。一応は日帰りだが、黒無たちが向かおうとするダンジョンは広く遭難することも考えられる。腹が減っては戦はなんとやら、移動できるエネルギーだけは確保する必要があった。


「何してるの……? クロ」


 突然かかった声に、ビクリと肩を震わす。黒無が部屋の入り口の方を向くと、アリスがぶすっとした顔で立っていた。相変わらずのだぼっとした服装で、金の瞳がつまらなそうな視線を黒無に向けていた。


「何だ。お前か……。何してるって、お前は関係ないことだよ」


「ふーん、そぉ? まぁ別にぃ? その携帯食を持って今は危険なダンジョンに行こうとぉ~、アリスはどうも思わないけどぉ~?」


「ババアには黙っとけよ」


「気ぃがむーいたらねぇ~」


 それだけ言うと、たぶついた袖をひらひらさせて、アリスは去っていった。

 アリスのことは気にしても仕方ないので、リュックに携帯食を詰め込むと屋敷の中庭に向かった。

 中庭ではミーネが剣を振っていた。見ていれば、実践を経験していない剣ではないことは分かる。きちんとした反復練習と実戦を積んだのだろう。鹿や猪などには、逃げられなければ勝てるかもしれない(というか、剣士……狩りをしていたのに弓矢ではないのだろうか……)。けれども、魔物相手に討伐者として、生きていくにはそれでは足りないのだ。


「ミーネ。こっちだ。ちょっと来てくれ」


「わかった。今行くわ」


 ミーネが素振りをやめて来るのを確認して、黒無は中庭の一画の倉庫に向かう。黒いズボンのポケットから鍵を取り出して、倉庫を開ける。そこは武器庫だった。


「……すごいわね」


 武器庫にはミーネが言葉を漏らすほど様々な武器が置かれていた。ホコリよけにガラス張りされている棚が無数に立ち並んでいる。ミーネの腰にあるようなショートソードや細くて反りのある片刃の剣。戦斧や鎚、投げ槍や長槍、短槍と実に様々な種類の武器がある。倉庫は広く、ひょっとするとカマサの鍛冶屋のより多いのではないかとミーネは思った。あちらにはミーネにも武器だと分かるものしかなかったが、こちらには分からなかったものも多くあったからだ。黒光りする黒いL型の鈍器から、誰が持ち上げられるのだろうかと首をひねるほど大きな大剣まであった。


「これ、サクラさんのなの?」


「いや。集めたのはそうだが、だいたいオレのだ。ババアは武器を使わないから、管理する名目でほとんど貰ってる」


 そう言って黒無がスタスタ歩いていった先には肘当てや鎧、兜、帽子など防具があった。これが黒無の目的だった。生樹はギルドの先輩のお古があるが、元村人のミーネには防具を揃える伝手はない。そこで黒無が貸すことにしたのだ。桜の集めた武器防具は多種多様であり、ミーネが付けられるものも多くある。


「確か、軽装で動きを阻害しないようなもの、だったな」


 そう確認しつつ、黒のインナー上下と肘当て、膝当てなどをミーネの方に放る。インナーは中世ヨーロッパの世界観にそぐわない耐斬撃性と汗の吸収に優れている近未来的装備だ。この世界においてはアーティファクトに近いが、安全には代えられない。ミーネの革で補強された丈夫な服を利用すると防具の選択肢がほとんどないため、選択肢がなかったこともあった。


「なんか、不思議な服ね。これは何よ? 服なら今着ているのでいいわ」


「汗を吸収するのと皮膚の保護用だ。大きさは勝手に合うはずだ。動きは阻害しないはずだから着とけ」


 耐斬撃性と言ってもどうせ信用されない。肘当てをつけると動きにくいと文句が出た。


「私の服も肘とかは革で強くしているから、動くの邪魔になるし、要らないわ」


「そうか。じゃあ、後はガントレットとかか」


 肘当てなどを元の場所に戻し、移動する。途中で、キラキラと優しく輝く剣が複数置かれているところを通ると、ミーネから声がかかった。


「あれは一体なに?」


「あれは魔剣だ。光ってるのはババアがした封印だ」


 足を止めて、魔剣達を眺める。非常にカラフルであり、見ていて飽きない。黒無も気が向いたときには、何もせず眺めていたりもした。


「ねえ、あんた魔剣くれるとか言っていたじゃない。何をくれるつもりだったの?」


「……あれだな」


 そう言って、黒無はカラフルに輝く魔剣たちの中で端の方の剣を指した。中央で光っている魔剣よりはだいぶ暗い魔剣だった。


「なんか暗いわね」


「端の方にあるのは危険度の少ない魔剣だ。中央のものほど色んな意味で危険になっている」


「危険ってどのくらいなのよ」


「敵の前に自分が死ぬくらいだな」


「それって意味あるの……?」


 危険という意味は持ち主の命も含まれている。封印されるだけのことはあるのだ。下手すれば、敵より先に自分が死んでしまう剣を、好き好んで使う者がいるとは思えないが。


「ねえ、ところで龍殺しの魔剣ってあるかしら。おとぎ話に出てくるようなやつは」


「……そういうのはババアが隠しているからないな」


「そう……」


「……? まぁ、使いようによっては通じるのもあるが」


 顔を落としたミーネに黒無は先ほど示した魔剣を再度指し示す。ミーネの顔が上がったのを確認してから、黒無は言った。


「あれは確率の魔剣だ。運さえ良ければ何でも斬れるけど、たいてい何も切れない変な魔剣だ。まぁ、その分デメリットもないが」


「……そう。まぁいいわ。行きましょう」


「ん、ああ、わかった」


 それからガントレットの置いてある場所に行き、渡すとミーネは素振りをしてくると出ていった。小さく振り向き「ありがと」と呟いて。

 残念なことに黒無はそのとき考え事をしていて、気付かなかったが。

 黒無は考えていた。ミーネが龍殺しの魔剣を尋ねた意味を。

 そして、ミーネが魔剣のところを過ぎる時に見た横顔から、魔剣をプレゼントしようと、決めた。比較的、安全なものを。



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