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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-6 ギルドと依頼


 ダンジョン。

 それは魔物の巣食う異空間のことだ。世界各地に点在する“門”から入ることができ、中には別世界が広がっている。中は広大な草原であったり、険しい山であったり、薄暗い洞窟であったり、いつ誰が建てたのかも分からないような遺跡であったりするのだが、共通点はそのどこにおいても魔物が住んでいるということだ。そして、魔物は人を好んで襲う。


 魔物たちは好んで人を襲う。理由は諸説あるが単なる食事であるという意見が一般的だ。しかし、兎やリスのような小さな獣から、巨狼のような強靭な獣、人型の悪魔たちまで、全ての魔物が人を好んで襲う理由は分かっていない。重要なのは魔物は人を好んで襲い、そして地上に生息する動物より、はるかに戦闘能力が高く危険であるということだ。


 そんな危険なダンジョンだが、人は集まる。ダンジョン内では、鉱石や宝石のような貴重な資源から、地上では手に入らない魔道具、人智を超えたアーティファクトと呼ばれる異界の遺産など、さまざまな物が発見できるからだ。そのどれもが地上においては高価なものであり、それを求めて、ダンジョンに潜る者が後を絶たない。特に異界の遺産とされるアーティファクトは一つ見つければ、平均的な4人パーティーが一生金に困らないと言われるほど高価である。そのため、どんなに危険であっても一攫千金を求め、ダンジョンには人が集まり続けている。そんなダンジョンに潜る人々は、“冒険者”あるいは“討伐者”と言われている。


 冒険者、または討伐者は危険な職業だが、必要とされている面もある。それは、人食を好む魔物たちが地上に侵略する“氾濫”という現象が起きるからだ。普段はダンジョン内のみに生息する魔物たちが、一斉に地上に溢れ出る。人を好んで襲う魔物が地上に出た際の被害は計り知れない。討伐者たちでさえ、命がけで倒す魔物を一般の人が戦ってもまず勝ち目はないからだ。抵抗する事もできずに食べられてしまうだろう。


 氾濫が起きる理由は諸説あるが、ダンジョン内の魔物の数が一定数を超えた時に起こると言われている。事実、過去にある王国で、ダンジョン内の資源を独占するためにダンジョン内への立ち入りを禁止した一ヶ月後には、氾濫が生じている。ダンジョン内で討伐者が一定以上魔物を狩っている場合には起きないため、氾濫はダンジョン内の魔物の数が一定数を超えた時に起こると言われている。

 ちなみに、魔物はダンジョン以外には存在しない。氾濫以外では外に出ることもない。また、全てのダンジョンは繋がって――。


「あー! もう分かった! ながいっ、長いんだよぉ!」


「まだ半分くらいだが?」


「うがぁーーっ! まだあんのかよ! もういいよっ! とにかく行ってみようぜ」


「ほーらー! オキくーん! 働いてー。オーダー詰まってるよー」


「うえっ、バレた! はいっすただいま!」


 ギルド“探求者たちの集い”の酒場に行き、昼食を食べた後。黒無(クロナ)は店のカウンター席に座り、ダンジョンについて語っていた。ミーネと生樹に話を聞きたいと言われたからだ。生樹はウェイターの仕事をしながらだが、適度にサボりつつ、話を聞いていた。先程はさすがにとどまりすぎて、カウンター裏で注文されたメニューを作っているエルシャに叱られてしまっていたが。


 ダンジョンの話を聞きたがったのは、生樹はおそらく好奇心から。ミーネはギルドに登録しようとしているからだろう。生活費を稼ぐために、とミーネが選択したのは何故か荒事バンザイのギルドであった。ギルドには日常関連の仕事も来るが、基本的にダンジョンに行って魔物と戦う仕事ばかりだ。とくに今、黒無達がいるギルド“探求者たちの集い”は零細も零細で、吹けば倒れるようなギルドである。認知度や信頼が必要とされる日用的な依頼が来るはずもなかった。


 むしろ、なぜここのギルドに入ると決めたのか、黒無には理解できない。生樹には紹介しておいてなんだが、ミーネにはもっと大きいギルドに行ったほうがいいと思うのだ。生樹は稀人という立場があるため、大きなギルドに入ると人間関係などのしがらみが面倒になると思って、ここのギルドを紹介したが、ミーネは日用的な依頼が入ってくる大きなギルドの方が向いていると思っていた。そちらのほうが、安全なのだから。


 それに都会には仕事はいくらでもある。何かしらの技術を持っていれば、それを元に仕事を始めることもできる。あまり使いたい手段ではないが、桜のコネを利用すれば、大抵のところで働ける。もっと安全な仕事はいくらでもあった。働くなら、できればそっちで働いてほしいと思う黒無だった。


「それで、討伐者とかいう人たちは何をしてお金を稼いでいるのですか?」


 給仕の人がつける前掛けを着け、料理を運ぶ生樹を眺めていた黒無に、ミーネが尋ねる。


「討伐者は主に魔物を狩って魔物から取れる魔石を売って、だな。後はダンジョンにある魔道具だの、宝石、鉱石だのを持ち帰って、売る場合もあるな」


 ちなみに討伐者、冒険者の違いは主目的が魔物を狩ることか、否かである。ダンジョンは異世界と言ってもいい空間である。そこを探索し、アーティファクトや魔道具を探すのを目的としているものたちを冒険者という。とはいっても、冒険者も魔物と戦うのでそこまで違いはない。単に目的が違い、名乗る名前が違うだけだ。


「おお、それそれ。俺、一度魔物と戦ってみたいんだよな。だから、ダンジョン行こうぜ」


「死にたがりは勝手に行け。骨は拾ってやる」


「いやいや、一人だったらなんかあったとき困るだろ。頼むよー」


「私も行きたいです」


「うっ……。いや、やめといたほうがいいぞ」


 生樹に続いて、ミーネまでダンジョンに行きたいといい始めた。生樹になら勝手に行けと言えるが、ミーネには言えない。


「……なぜですか?」


「……魔物は、本当に危険だからだ」


 ダンジョンに潜れば、それがどんな目的であっても必ず魔物に出会う。ダンジョンは奴らの住処なのだから、必ず何処かで遭遇するだろう。そして、戦闘になる。ミーネたちは戦おうとするだろう。当然だ。討伐者になるのなら、戦ってお金を稼がなければいけないのだから。


 だが、魔物は基本人間より強い。元の世界からするとありえないくらい強靭な肉体を持つ魔物に対抗できる武器は、剣ではなく、魔術だ。剣は魔術の準備ができるまでの時間稼ぎでしかない。ミーネには特に相性が悪かった。

 討伐者たちの基本的な戦術は待ち伏せである。敵を集めて、引っ張ってきて、有利な地点で魔術で殲滅する。剣士は魔術が発動できるまでの足止め役でしかない。倒すのではなくて牽制する役目なのだ。魔物も魔術を使ってくるから、その妨害もしないといけない。遊撃&索敵一人。剣士とタンク(盾役)が一人ずつ。火力一人の計四人が討伐者の基本パーティーだった。ソロなんてもってのほかなのだ。この世界の人間には。


 異世界人の場合は少し異なる。異世界人は異能を持っているから。魔術と同じように、人の枠を超えたその力は、魔物に対して非常に有効な武器になる。能力によっては、異世界人ならソロだって可能だろう。

 異世界人なら、ダンジョンに行っても、まだ何とかなる。生樹の能力は知らないが、ダンジョンに行きたがっているところを考えれば、戦闘系だろう。なら、魔物にも通用するだろうから、生きて帰ってこれるはずだ。

 だが、ミーネは違う。ミーネはこの世界生まれの現地人だ。魔物に抗う武器は剣しかない。ミーネの剣は、努力は感じられたけれど、悪く言えば普通だった。一対一で魔物に絶対に勝てないとは言えない。だけど、戦うのは一体だけじゃない。ダンジョンに潜れば、何体も、何回も戦うだろう。


「危険なんてことは知ってる。そのために剣を学んできたから。危険なんて承知のうえよ」


 知っていた。たった一回しか見ていないけれど。黒無とて過去には剣を学んでいた者だ。見れば分かる。きっと、長い間努力し続けたであろうことは理解できるのだ。

 けれど、ミーネの剣は倒して生き残る剣だ。敵を倒して、先に進む剣。でも、その剣では必ずどこかで力尽きる。

 魔物に抗うのに必要なのは剣ではなく、魔術や異能のような超常的な力なのだ。

 だが、それを言って何になる。絶対に伝わらないし、納得もできないだろう。黒無だってミーネの立場だったら納得しないのだから。

 実感しないと分からないことなのだ。

 それでも、黒無は言った。


「無理だ。むいてない」


 ガタンと椅子が音をたてた。


「それは私の剣が通用しないって言いたいわけ?」


 ミーネが語尾を荒げて、立ち上がっていた。コップの水が大きく波打つ。敬語は抜けていたが黒無はそれどころではなかった。どう言えば、相手を傷つけずに伝えられるか、分からなくて、言葉に困っていた。


「……ありたいに言えばそうだ。だけど、それはお前に限った話ではなくて――」


「そんなのやってみないとわからないじゃない!! 私は5つの時から剣を振ってきた!! 野生の動物だって倒したことあるわっ!!」


「外の動物と魔物は違う。外のイノシシを剣で倒せたところで、兎の魔物を倒せるとも限らないんだ。それほど、まも――」


「もういいっ! 勝手に行くわ! 考えてみれば、あんたは“あの人”とは違う! 別にあんたに許可取る必要なんてないのよ。私一人で行――」


「“あの人”って――」


「まぁまぁまぁ、お二人さん落ち着いて。クロナもそんな言い方しなくてもいいでしょー。行くのは自由なんだからさ」


 エリシャが話しに割り込んだ。店を出ていこうとするミーネの前に立ちふさがる。お盆で通せんぼしつつ、黒無の方に向いた。


「ミーネちゃんとうちのオキくんは行きたいんだよね。でもクロナは向いてないから、行かせたくない。そうだよね?」


「そうよ」


「……そうだ」


 ミーネが鼻息荒く、黒無が仕方なさそうに頷いたのを確認して、エリシャは続ける。


「でもこのまま話を続けると平行線になるので、私が審判します。クロナ、二人をダンジョンに連れて行ってください」


「……は? ……お前も敵かよ。断わる」


「おお!……おぉ」


 仲介に入ったはずの人間は敵でした。裏切られた気分で天井を見上げる。天井の照明のロウソクによって、木の天井には黒いの焦げ跡ができていた。

 天井を仰いだ黒無の横では、いつの間にかやって来ていた生樹が期待した声を上げて、その後肩を落とした。


「まーまー話は最後まで聞きなさいな。黒無が行かせたくないのは、二人が心配だからでしょ? でも、二人は心配ないって思ってる。これって、どちらが正しいか分からないじゃない? クロナと二人は違うんだから。それにね。結局のところ、見て実感しないと納得もできないの」


「……だから、連れてけってか?」


「そ♪ このままだと二人ともたぶん勝手に行っちゃうだろうし、クロナが付いていったほうがまだ安心でしょ?」


「……まぁ、そうだが」


 行かないのがベストではあるが、このままでは二人は勝手に行くだろう。そして、痛い形で現実を知ることになる。

 仕方なしに頷いた黒無にエリシャが耳打ちする。


「どちらかと言うと私はクロナと同じ意見だよ? でも二人は魔物と戦う道を選んでる。この先、ずっとかは分からないけど、少なくとも今はそう。なら、魔物と戦わなければいけないときが必ず来る。その時に現実を知っているか、いないかは大きく違うよ。だから、クロナには二人を研修の意味で連れて行ってほしいの」


「……オレは二人を守れるほど強くないぞ」


「だいじょーぶ! クロナが死ぬはずないって。ダンジョン一階層に行って他の人の戦闘を見学するだけでいいから。それに心配なら、誰か応援を頼めばいいじゃない。あんた、稀人にも顔広いでしょー」


「……今の時期は無理だ。そろそろ氾濫期も近いらしいから、稀人はどこも忙しい」


 氾濫期とは、氾濫が起こりやすい時期のことだ。必ず起こるわけではないが、ある時期になると、氾濫の兆候が出るのだ。分かりやすい兆候は浅い階層に普段は居ないはずの魔物がいるとかだ。


「あーまぁそっか。でもクロナなら大丈夫でしょ?」


 ぱちんとウインクして、エリシャは黒無の鼻をピッと弾いた。それに黒無は嫌そうな顔をして、顔を振って目を閉じる。

 そのまま、しばらく考え込んで


「……わかったよ。じゃあ、報酬はツケの帳消しで頼む」


 不承不承、頷いた。報酬を付けて。


「ちょっ! ぼったくりすぎでしょ! あんた一体どんだけ、ツケ貯めてると思ってんの!? 一ヶ月分だけよ!」


「だめだ。一年」


「五ヶ月! あんた、高いものばっかりだべているじゃない! それ以上はムリぃ! うちが潰れちゃう」


「……いっそ潰れてしまえば、行く必要がなくなるな」


「~~ッ! 今日の分もタダでいいから!! それと秘蔵のお菓子!」


「……まぁ、これ以上は無理そうだな」


「ううう。ひきょうものぉ。おにぃ~、しゅせんどぉ……うぅ……ミーネちゃんおまたせ。クロナ案内してくれるって」


 エリシャが肩を落として、ミーネの方を向いた。ミーネの隣では生樹がガッツポーズをする。


「私、別にあの人付いてこなくてもいいですけど」


「わたしの努力ぅぅう!!」


 ミーネの棘のある言葉に、エルシャは崩れ落ちた。



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