2-5 鍛冶屋にて
所変わって、応接間。店の奥にある応接間に黒無たちは集まっていた。
簡単な自己紹介をした後、おっさん(鎌鎖刀治郎と名乗ったが黒無を筆頭に無視されてしまった)が切り出した。
「んで、今日はなにしに来たんだ」
「ミーネの剣を直しにと、生樹の冷やかしだな。来たばかりらしいから色々教えてやってくれ」
「んん? 赤髪の嬢ちゃんのことは分かった。後で対応しよう。だが、そっちの坊主のことはお前さんでもいいんじゃねえか? おっさんの世話してくれたときみたいに」
寝癖を整え、さっぱりした顎をさすりながら、おっさんが言う。確かに、おっさんが来た当初は色々世話をしたが、それはおっさんが20代だったからだ。大人だったため、話をきちんと聞いてくれた。だが、今黒無が高校生である生樹に何か忠告しても、あまり重たく受け止めない可能性がある。そうなるのは面倒だからおっさんに頼むのだ。
「あー、まぁ、なんていうか、高校生だしな。おっさんのほうが説得力あるだろうし、ちょうど良かったしな。頼むわ。どうせ、暇だろ?」
「いや、暇じゃねえよ。……まぁ、お前さんの頼みだ。いいけどよ」
「助かる。んじゃ、生樹、後はこのおっさんに聞いてくれ」
あとは知らんとばかりにソファに身を任せる。
ちなみに看板娘りりは店の方に戻っており、ミーネは部屋には壁にかかった剣を眺めていた。
「えーっと、おっさん鍛冶屋なんだよな。刀とか欲しいんだけど、あったりする?」
「あーまてまて、その前の段階だな。お前には剣は売れん」
おっさんがバッサリと生樹の要望を切り捨てる。
「何でだよ、おっさん!」
生樹が立ち上がった。
「ミーネちゃんにはいいって言ってたじゃん! 何で俺は駄目なのさ!」
「いや、そりゃお前。剣握ったこともないだろ」
「そりゃそうだよ! 俺いい子ちゃんだったからな! 銃刀法違反なんてするかよ。ナイフだってないぞ! 包丁もだ!」
「いや、包丁くらいは握っとけよ」
「……同感ね」
ミーネのつぶやきに素が漏れている。黒無はそんなミーネの様子にちらちら視線をやっていた。
「まぁ、とにかくお前さんは駄目だ。基礎がなってないやつに持たしても、重荷にしかならん」
「……そうだな諦めろ。このおっさんは娘に絡むとやばいことと部屋の散らかしがひどいこと以外は、ちゃんとしたやつだ」
「おまっ……くろ」
「うっせー黒無! 剣やめたやつは黙ってろよ! 異世界に来て剣を振らないなんて選択肢はないんだよ!」
「っ! オレは……っ……」
生樹の言葉に声を荒らげようとした黒無だが、苦虫潰したように口を閉じる。
「まぁまぁその辺でな。おい黒無。そっちのお嬢ちゃんと一緒に娘の方を見ててくれないか? りりは母さんに似てしっかりしているが、やっぱりまだ小さいから不安なんだ」
年長者に注意されて、生樹も憮然とした顔で黙った。
「……わかった。ミーネの剣の打ち直し、やっといてくれ。安くまけろよ」
「えっ……? ちょっとクロナ、私お金ない……っ」
「どうせ、桜さんの金だろ……。いや、まぁ、そうだな。まけといてやるよ」
「ああ、半額で頼む」
「それはまけすぎだろ、おまえ!」
「そうよクロナ! 私自分でっ……」
「気にすんな。ババアは家族だって言ったんだ。家族に遠慮は要らねえよ」
「黒無おまえ……自分の金だったらいいセリフだったんだがなぁ」
「うっせえよ、おっさん。ほらミーネ行くぞ。都会にいちゃ金はすぐに消えてくんだ。素直に奢られとけよ」
「いやよ……ですっ。これから、稼ぐ予定でし――」
黒無とミーネが、部屋から出ていった。静寂が部屋に満ちる。静かな空気の中、生樹が切り出した。
「で? 何で駄目なんだよ」
「いや、言ったろ。今から剣を学んでも実践で役に立つのはずっと後だっての。ゲームじゃねえんだから素人が持っても重り以外の役には立たないんだよ」
「はぁ? じゃあどうしろってんだ。せっかくの剣と魔法の世界なのに魔物と戦えないじゃねえか」
「おっさんとしては、戦わずに済むなら、済ましたほうがいいと思うがなぁ。いや、まぁそういうお年頃か……。ああ、そうだ。そもそも異能は戦闘向きなのか?」
「何でおっさんに教えないといけないんだよ」
鎌鎖はため息をついた。確かに会って間もない他人に、生命線とも言える異能のことは話したくないだろう。鎌鎖だって普通は話さない。だが、生樹は黒無の伝手で来た。人の伝手で来たのなら、少しくらいは信用してほしかった。鎌鎖だって、黒無の紹介で来てなければ、そこまで踏み込むつもりはない。同郷と言っても、しょせんは他人だ。だが、全幅の信頼を寄せろとは言わないが、概要くらいは話してほしかった。
「おっさんはな、武器を作る人間なんだが、持つ人のことも考えてんだよ。武器を与えるってことは戦場に送り出すってことに等しいからな。いくら大義を掲げても、剣は敵を傷つけるものだし、命を奪うものだ。それを与える者のことは知っておかにゃいけないんだよ」
「表で売っているのは何だよ。あんたの娘が売っている相手を全員見極めているとは思えないぞ」
「まぁ、そうだなぁ。だからりりには武器は売らせていない。常連にも打ち直しの依頼とかだけにしてもらえるように頼んである。新規の人が来る可能性もあるから、本当は店にも立ってほしくないけどな。ガラの悪い客とかが来たりしたら、大変だし。
まぁ、おっさんのことはいい。それより今問題なのはお前に剣を渡して、果たして死なないかってことだ。俺の見立てじゃ、すぐに死んじまうってでてるからな。そんなやつには剣は売れねえよ。
だが、俺には分からないお前の異能が適しているなら、話は別になってくる。剣が欲しいか?」
生樹はごくりとつばを飲み込んだ。鎌鎖の視線をそらせない。剣は命を奪うもの。その言葉の意味を理解したか否か……生樹は頷いた。
「……まぁ、いいだろう。んじゃ、異能について教えてくれ。魔物相手には間違いなくへっぴり腰になりそうなお前さんでも使えるのか?」
「使、える……使えるはずだ!」
生樹は立ち上がった。
「俺のユニークスキルは『予定への道筋』っていう。なんて言ったらいいかわかんないけど、その……正解のやり方が分かるんだ」
「ほう、なかなか強力な異能だな」
今鎌鎖にそれを使っていないのは明らかなので、そこまで万能な能力ではなさそうだが、頷いておく。
「ああ、だから刀があれば斬れる筋が分かるはずなんだ!」
剣を売ってもられるかもしれない期待で、生樹は身を乗り出した。畳み掛けるように言葉を重ねる。
「剣筋通りに振れるかってのも問題ない! 時間は短いけど自動で体を動かす事もできる! だから、おっさん! 俺に刀を売ってくれ!」
「…………」
「おっさん!」
目を閉じて、腕を組み沈黙する鎌鎖。なおも呼びかけようとする生樹を片手で制して、何やら思案する。
そして、ゆっくり目を開けた。
「まぁ、やっぱ無理だな」
「なんで、だよ」
生樹はがっくしと肩を落とした。異能についてまで話して、結果がこれでは報われなさすぎた。
「まぁまて、売ってやらんとは言ってない。だが、お前この世界の剣士の役目を分かってないだろ?」
「……アタッカーだろ?」
「そう思うよな。ところがだ。この世界ではどっちかというと盾役なんだよ剣士って」
「盾……?」
困惑する生樹。クエスチョンマークが頭の上に浮かんでいるようだ。
「まぁ、そのへんは実際に見ないと納得出来ないだろうから、今は言わんがな。理解はできるだろうが、納得出来ないんじゃ意味はないし、面倒だ。後で黒無にでも教えてもらえ。
話を戻すが剣を売らない理由は三つだ。剣士の役割を理解してないと渡しても、重荷にしかならないこと。実際に振ってみないと使いものになるのか、わからないこと。それと金がないことだ。まぁ、試し切りはさせてやってもいいが、今日は予定があるから駄目だ」
「ケチだなおっさん。試作品でいいから譲ってくれよ。なんかあるだろ? 訳アリ品とかがさ」
「んなもんねえよ。うちはオーダーメイド専門だからな。俺の異能の都合上失敗することは滅多にないし、お前にあげれるもんはねえな」
「それにしちゃ、色々かかってるじゃん。この部屋とか、店の方とか」
生樹が壁にかかっている様々な武器を見渡す。壁には剣、刀、槍、弓、鎚、棍棒など様々な武器が並んでいた。剣もロングソードと言われるようなポピュラーな剣から、片やクレイモアと呼ばれるような大剣、ソードブレイカーのような特殊な形の剣まで様々なものがあった。
「こいつらは見本だ。うちの店がどんな武器が作れるのか、逆に客にどんな用途で使う武器が欲しいのか、想像しやすくするために飾ってあるにすぎねえよ。実用性がないわけじゃあないが、個人に調整されたものにゃ敵わねえしな」
そう言って、鎌鎖は肩をすくめた。
「まぁ、そんなに剣と魔法に憧れるなら一度ダンジョンへ行ってみるといい。どっかのギルドに入っているなら先輩についていってもいいし、黒無に連れてってもらってもいい。んで現実を知ってこい」
「黒無? あいつそんなに強いのか?」
「いや? 素の戦闘力はお前さんより弱いだろうな。だが、あいつは生き残れるやつだ。それに何より、この世界最強の存在に守られている。そして、ダンジョンの危険性が身に沁みているやつだ。行くんだったら必ず一緒に行けな」
そこで、鎌鎖はよっこらせと立ち上がった。
「そろそろ、戻るか。黒無たちが痺れを切らしてそうだしな」
「ちょっと、待ってくれ! 話が、まだっ……!」
「すまんな。聞きたいこともあるだろうが、こっちの時間の都合もあるんでな。それに黒無たちを待たせてる。また今度だ」
応接間を出ていこうとした鎌鎖は立ち止まって、言った。
「それと、黒無が剣をやめたのは理由があってのことだ。できれば突っ込んでやるな。あいつの傷の一つだからな」
そう言って、部屋を出て行く。応接間にはくすぶった生樹が一人残された。
「ダンジョン……行ってやろうじゃんか……」
拳を握りしめ、生樹も武器だらけの応接間で一人つぶやいた。




