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疲れたニートと優しき世界  作者: こねか
一章 行動することにこそ意味がある
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2-4 買い物



 黒無とミーネは商店街を歩いていた。未だに手を繋いだまま、歩いていた。


「なぁ、ところで何を買うつもりなんだ? 買うものを教えてくれると案内できるんだが」


「……剣よ。最近、痛めてしまったので。ところで、手、離していいですか」


「あ、ああ、悪い」


 言われて、黒無は手を離した。少し名残惜しかったが、変に思われたくはない。


「剣か……直せるかもな。とりあえず、鍛冶屋ならこっちだ」


 先導するために半歩前を歩いて案内する。

 表通りにある華やかな鍛冶屋を通り抜け、裏通りに入る。


「さっきの鍛冶屋は行かないのですか?」


「表通りのは貴族客向けだからな。どうも派手だから好かない。値段も高いしな。そっちが良いか?」


「いえ、あなたのお勧めをお願いします」


「わかった」


 会話が途切れる。てくてくと人のまばらな裏通りを歩く。

 気まずい雰囲気に何か話しかけようとしたとき、黒無は肩を叩かれた。

 叩かれたほうに振り向く。ほっぺたに指が刺さったので、冷たい視線を返してやったが、効果はなかった。


「おいっす。昨日ぶり」


「……よう」


「お、昨日の人も一緒じゃないか。なになに黒無頑張ったの?」


「うちのババアの客だったってだけだ。オレは何もしていない」


「あなたは……?」


「え? おいっちょっと黒無! 何あったのこの人!? 昨日とぜんぜん違うんですけど!? なんか不気味だぞ!」


 相変わらずのテンションだった生樹は黒無に耳打ちした。近すぎる生樹の顔を引剥して黒無も答える。


「気にすんな。ところでどうした何のようだ? オレらは今から行くところがあるから、街案内はできんぞ」


「えー、残念。いやうそうそ。見かけたから、声かけただけって。どこ行くんだ? 途中まで一緒に行こうぜ」


 一瞬本気で残念そうにした生樹に、勝手に行こうかと思った黒無だが、ミーネが律儀に待ってくれているので、話に付き合うことにする。


「オレらは鍛冶屋だ。ちょっと剣を見にな」


「おー剣か、ちょうどよかった。俺も見に行くとこだったんだ。うむうむ。これで合法的に案内してもらえるぜ。案内よろ!」


「はぁ、わかったよ」


 ため息をついて、歩きだす。


「なぁなぁ黒無。こちらのお嬢さん紹介してくれよ。昨日はさぁ、すぐ別れちゃったじゃん? せっかくだし、仲良くなりたいじゃん」


 ミーネの方に目をやると、こくんと頷いた。目つきが恐ろしいので生樹は若干静かに引いていた。一目惚れ補正とは恐ろしいもので、黒無としてはまったく許容範囲なのだが。


「……えー。こちらはアイラル村というところから来たミーネだ。趣味は剣を振ることだそうだ。まだ、会って一日だが剣振っているところ見た限りかなりの努力家だ。

 ミーネ、この特徴のなさそうなやつはサダノリ=オキだ。見ての通り稀人で、最近こちらに来たばかりらしい。変な行動もするかも知れんが、そのときはそれとなく教えてやってほしい」


「悪意を感じる紹介だなー。まぁいいや。ミーネちゃんよろしく! オキでもサダでも好きに呼んでくれ」


「……ミーネです。よろしくお願いします」


「おー、よろしく。よかったら今度剣教えてくれな」


「お前にはオレが教えてやる」


「またまたー。安心しろよ。別に取ったりしねえから。俺はもっとかわいい系の子が好きなの」


 生樹が耳打ちしてくる。そんな心配はしていないので余計なお世話だった。そして、生樹の好みはもっとどうでもいい。

 そしてそんな黒無を鋭い視線を飛ばしながら、ミーネが話しかけてきた。


「あなた、剣をやっていたの?」


「昔の話だけどな。今はこの通りなんにも残ってないが、素人に教えるくらいはできる」


 手をひらひら振りながら、黒無が答える。剣だこ一つない手を見せられて、剣をやっていたなど信じられないだろうが、事実だった。つい一年前くらいまで、黒無はがむしゃらに剣を振っていたのだ。今はもう、痕跡すら残っていないが。


「じゃあ、今度教えてもらうとするかなー。まぁ、それより先に剣がないとな」


「そうだな。だが、剣より先に他のものを買えって言われてるだろ」


「あー、言われたわー。装備はギルドで貸してくれるらしいしな。まぁ、下見ってとこだ。最悪借りれるらしいし」


「討伐者で生活をするなら、自分専用の武器は必要だと思いますが……」


 討伐者として生活するなら、魔物を倒さなければいけない。だが、命を預ける武器を借り物で済ますのは危険だ。熟練者ならともかく、ビギナーは特にそうだろう。だが、金がなければそうせざる得ないときもある。現実はなかなか非常だった。


「……まぁ、そういうのは本職のやつに聞いたほうがいいな。そろそろ着く」


 そう言ってから、黒無は立ち止まった。目的地に着いたのだ。そこは、古ぼけた一軒家だった。扉は閉まり、看板一つ立っていないため、素通りしてしまいそうな家だ。木窓も固く閉められ、人が住んでいないようにも思える。


「なぁ、ほんとにここか? 人が住んでいないようにも思えるんだが……」


「……同感だわ」


 生樹ははっきりと言い、ミーネはポツリとつぶやいた。


「俺はてっきり隣の鍛冶屋だと思ったんだけどなー。確かギルドで教えてくれたのもそっちのほうだったし」


「そっちでも同じと言えば同じだ。だが、手間が面倒なんでな。こっちから行ったほうが早い」


 そう言って、黒無はドアノブをひねった。ぎぎぎと立て付けの悪い音がして扉が開く。黒無はそのまま中に入る。ミーネと生樹も顔を見合わせてから、あとに続いた。

 家の中はごちゃっとしていた。あちこちに物が散乱し、家の主の性格が伺える。


「おい、おっさん生きてるか」


 部屋の主は奥のベットで寝ていた。寝癖の立ちまくった黒髪と無精髭の中年。細身の身体で太ってないだけまだましか。布団と一緒に脱ぎ散らかした服に埋もれるように眠っている。


「寝てやがるな。おい、生樹ちょっと頼む」


「何だよ」


 生樹を招き寄せ、起こすように耳打ちする。おっさんを起こす魔法の言葉を吹き込んでやった。


「ええー。それ、殴られるやつじゃん。お前やってくれよ」


「大丈夫だ。お前なら避けれる」


「まぁ、避けれるけどさー」


 生樹が寝ているおっさんに近づいていったところで黒無は後ろに下がる。ミーネも後ろに下がってもらった。生樹がこちらを向いたので頷いてやる。


「お義父さん! 娘さんをください!」


「絶対やらん!!!! 誰だぁッ! 俺の天使を拐かそうとするやつは!」


「くらうか! のわっ」


 一瞬にして覚醒し、己の娘に手を掛けようとする不届き者を捕まえようとするおっさん。生樹はその手を後ろに飛んで躱したが、そのまま部屋の脇に積んであった物の山に突っ込んでしまう。さらに、振動で棚に積んであったものが落ち、盛大な音をたてた。


「ちょ! 助けてくれー」


「お前らか! 俺の天使に手を出そうとする……ん? なんだ。黒無じゃないか。久しぶりだな。最近、いや、まて。その前にだ。

 ああいう起こし方はやめろ。心臓に悪い。普通に起きるからな、俺は」


「絶対起きないやつが何を言うか。それより、こいつ引き抜くのを手伝ってくれ」


「あとで片付け手伝えよな……せーの!で引っ張るぞ」


「「せーの!」」


 汚部屋に埋もれ、足をばたつかせる生樹の足を掴んで一気に引き抜く。上のものをどけようにもどける場所が足りないから仕方ない。

 チャキ、と音がした。見れば、ミーネが腰の剣に手を当てていた。同時にドタバタという誰かが駆けてくる音がする。


「誰か来ますね」


「おとーさん! すごい音したけどだいじょーぶ!? わぁ! ひさんー」


 バンと横の扉が開いて、中学一年生くらいの小さな女の子が部屋に飛び込んできた。茶色のかかった黒髪をツインにした少女。おっさんの娘だ。


「りり! お父さんは大丈夫だよ。それより学校はどうしたんだい?」


「あ、黒くんだ! 久しぶり! 元気だった? 相変わらず、弱いまま? それとも強くなれた? なれるわけないよねー」


「相変わらずだなクソガキ。学校はちゃんと行けよ」


「学校は今日は休みだよ。ぐーたらしてるから、わかんなくなるんだからね! おとーさんも! おかーさんに言いつけちゃうよ! 部屋もまたこんなに散らかして!」


「わぁ、ごめんよりり。ちょっとお客さん来ているから、相手していてもらっていいかな? お父さん着替えてくるから」


「わかった! じゃあ、そこのおにーさんたちこっち来て。お客さんまたしちゃってるから急いでね!」


「え? 今日は休み……」


 何やら呆然としているおっさんをおいて、鍛冶屋の娘りりは店の方にかけていった。

 それを


「りりちゃーん、今行くねー」


 と追いかけるのが生樹だ。将来捕まりそうなやつである。


「……生きましょうか」


「ああ、そうだな。おっさん、早く着替えてこいよ」


「あの小僧。俺の娘に手を出したら……! ああ、すぐ行く!」


 おっさんに声をかけてから、黒無とミーネも店の方に歩いていった。扉を閉じた後にミーネが誰ともなしに話す。


「都会の人は人前では着替えないのですね」


「人にもよるだろ。気にしないやつもいるしな。まぁ、大抵のやつは気にすると思うが」


「そうですか……田舎とは違うのですね」


 ポツリとミーネがつぶやいた。



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