2-3 相談
「ミーネちゃんが想像以上に堅い件について」
「まぁ、当然だろうけどな」
朝食後。黒無の部屋に桜がアリスの首根っこを掴んでやって来た。一瞬目が合うが、ぷいとそらされる。黒無もそらしていたのでお互い様だったが。
「独り言だけどな。あいつがこの家に来る前に会ったけど、その時はめちゃくちゃ尖ってた。あの丁寧具合は正直不気味だ。できれば何とかしたい」
「そうだねぇ~。変だよねぇ。これは独り言だけど」
仲良くしたらいいのに、という顔で桜はニコニコと笑っていた。
「というわけで、ミーネちゃん歓迎パーティーを開催したいと思います! はい! 拍手ー」
パチパチパチ、と乾いた音が黒無の殺風景な部屋に響く。
「もう! 二人とも、もうちょっとやる気を出してよ! やるのやらないの!」
「やるぞ!」
「……やろうぉ」
黒無は桜につられて勢い良く。アリスはそんな黒無にため息を付きながら、ゆるゆると拳をあげた。
「はい! 賛成率10割で可決しました! というわけで何しよっか」
桜の提案に黒無とアリスは顔を見合わせる……た後にそのまま視線を流して、壁を眺めた。
「……とりあえず無難に料理豪華にして、クラッカーでも鳴らせばいいんじゃないか?」
「発想があんちょくー。こういうときはサプライズがいるもんだよぉ。プレゼント作戦でしょう」
「頭ゆるふわ通り越してふやけたか? プレゼントと言っても、お前のセンスを考えてみろ。何をあげるつもりだ」
「んふふ~。女の子が欲しがるものなんて決まってるんだよぉ! お城が建つくらいのお姫様ドレスでも送れば完璧だよぉ!」
「はっ。お姫様ドレスね」
「アリスちゃん……無難に髪飾りとかがいいと思うけど」
桜が苦笑いして言った。プレゼントと言ってももらって嬉しいものは親密度によって異なる。会話さえ気まずいミーネがそんなに重たいものを受け取って心から喜ばれるとは思えなかった。
「うーん、そうかなぁ~。……じゃあじゃあ、頭安直ちゃんは何あげるのさぁ~」
「そりゃもちろん、武器だろ。今朝も剣振っていたからな。レア度マックスな魔剣でも上げれば喜ぶだろ」
「黒くん……魔剣は危なすぎるよ……というか、さすがに女の子に剣をあげるなんて……」
「女の子はお姫様に憧れるんだよぉ」
「はっ、魔剣のほうがいいに決まってんだろ」
「いや、二人とも……」
微妙センスの持ち主二人には桜の忠告が耳に入らない。黒無とアリスはそのままさらにヒートアップしていった。
「城が建つほどのドレスなんて絶対遠慮するに決まってんだろ。このアホ貴族!」
「女の子に魔剣なんてありえないよぉ! ヒジョーシキニキビぃ!」
「お前に非常識とか言われたくないわ! 限度があるんだよ!」
「魔剣なんて危ないもの送ろうとする人に言われたくないよ!」
「魔剣だろ!」
「ドレスだよぉぅ!」
「どっちも要らないわよ! ッ……コホン。サクラさん、ちょっとお話があるのですが……」
「非常識はお前だろ! 人の部屋に入り浸るし、貞操概念ないし、お子ちゃまだし――」
「クロは絶対モテないよね。すぐ暴力振るうし、ニキビだし、チビだし――」
「どうしたの?」
桜は口喧嘩し始めた二人を放置して、部屋の入り口の立つミーネに近づく。睨み合う二人はミーネが部屋に入ってきたことにも気がついていないように口喧嘩を続けている。
「あの、剣とかドレスとは一体?」
「う~ん、できれば秘密にしておきたかったんだけど。ミーネちゃんの歓迎会を開こうって話てたの。その贈り物について、ね。まぁあの二人のは阻止するから安心してね」
「……ありがとうございます」
「うん。期待して待ってて。それで、何の用かな?」
「あ、はい。買い物に行きたいのですが、何故か出れなくて……。その膜のようなものに止められてしまって」
「あれ? そう言えば、まだ認定してなかったっけ? ん、でもどうやって入ってきたのかな? 門番に止められなかった?」
桜は首を傾けた。この屋敷には不法侵入防止用に結界が張られている。そして、結界が破られた又はすり抜けられた時のためにゴーレムが配置されている。許可されていないものは入ることができないようになっていた。ちなみに道場の日は普通に入れるが、物置や黒無たちの部屋には入れないように個別に結界が張られていたりする。
ミーネの場合は黒無が許可しておいたので入れたのだった。うっかりな黒無は、入る許可を与えたはいいが、出る時の許可を忘れていた。
「いえ。普通に入れました。門番って、全身鎧たちですよね? あれって中に人がいるんですか? 話しかけても反応がなかったのでただの飾りなのかなと」
「ううん、あれはゴーレムだよ。怪しい人とかが勝手に入ろうとすると止めてくれるの」
「ゴーレム……ですか?」
「うん、お母さんとから聞いたことないかな? おとぎ話とかに出てくる石の兵たち」
「あ、それなら聞いたことが。古の大戦である賢者が石像の兵を使って砦を一晩で築いたとか」
「アルメラの一夜城だね。まぁ、そういうやつかな。ま、あんなのよりはうちの子のほうが高性能だけど」
桜が胸を張って言った。エプロン越しでも分かる膨らみが揺れ、思わずミーネは自分の胸に手を当てる。それなりに膨らみはあるが、桜のものには到底追いつけそうになかった。
「ま、それは置いといて。出入りできないのは困るね。直しておくよ。でも、設定直すのに少し時間がかかるから、とりあえずあそこの二人のどちらかと一緒に行動してもらっていいかな? 一緒なら、通れるから」
そう言って、黒無たちの方に行く。絶交でもしたのか、背中を向け壁を睨んでいる二人に拳骨を落とすと、頭を抱えてうずくまる二人の首根っこを掴み引きずってミーネのもとまで引きずってきて、差し出した。
「どちらか連れて行ってくれる? 二人でもいいけど、今喧嘩しているから」
「えっと、買い物に行きたいので、店をよく知っている方にお願いしたいです」
鋭い目つきを困ったように彷徨わせて、希望を告げる。
「じゃあ、黒くんのほうだね。黒くんは趣味が散歩だから、色々知っているよ。ほら立って」
「もの、じゃ、ねえんだぞ……」
痛む頭に手をやって呻く黒無が、ミーネに渡される。ミーネは黒無の手をとった。まるで鍛えたことのないような、苦労を知らないような柔らかい手だった。




