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Die fantastische Geschichte

とある魔女の話

作者: 黄尾

*自作シリーズの微ネタバレ有り

 これは、とある魔法の国に住んでいた、一人の魔女のお話。

彼女は誰よりも美しく、誰にでも優しく、誰もが憧れる存在でした。

たくさんの人が彼女を褒め称え、その国でその名を知らぬ者はいないほど。

彼女が国一番の魔女となった時、誰もが口々にこう言いました。


「彼女ほど恵まれた人はいない。彼女は国一番の幸せ者だ」


 けれども、本当はそうではありませんでした。

魔女にはたくさんの悩みがありました。

彼女を妬む魔法使いに酷い仕打ちを受けたことがありました。

彼女を羨む女性に虐められたこともありました。

彼女を利用しようとした人に騙されたこともありました。


 そのような人たちはいつも皆が見ていない所で、こそこそと嫌がらせをしてくるので、知っているのは魔女だけです。

彼女はいつも一人でひっそり泣いていました。


「私はお母さんのように苦しんでいる人を助けるために魔法を使いたいだけなのに。偉くなって守るために一番を目指していたのに。どうしてみんな邪魔をするの? どうして上手くいかないの?」


 魔女のお母さんは、裕福な家のお嬢様でした。

魔法は使えませんでしたが、立派な男の人と結婚し、三人で幸せに暮らしていました。

ところがある日、魔女のお母さんは悪い人に攫われて、酷い乱暴をされてしまいました。

ようやく帰って来られた時には、恐怖と苦痛のあまりに、見る影もないほどやつれていました。

魔女のお父さんはとても怒って、悪い人に罰を与えるように、偉い人へ訴えようとしました。

しかしその偉い人こそが、悪い人の正体だったので、その事件は無かったことにされてしまいました。


 魔女は悲しくて仕方がありませんでした。

お母さんが何をしたというのでしょうか。

お母さんを苦しめた人が、どうして平気な顔をしているのでしょうか。


 そして魔女は決めました。


「私が弱い人たちを守らないと。強い人たちに負けないぐらい強くならないと」


 魔女はこの決意をたくさんの人が応援してくれると思っていました。

けれども実際は、嫌がる人の方が多かったのです。

彼女に守ってほしい弱い人たちは、強い人に虐められる彼女を支える力はありません。

強い人たちには強い味方がたくさんいました。

彼女にはほんのわずかな味方しかいませんでした。


 強い人たちは魔女を責め続けます。

お母さんと同じような目に遭わされそうになったこともありました。

だんだん彼女は疲れてきてしまいましたが、それでもなんとか頑張っていました。


 どんなに辛くても、優しさを忘れてはいけないと、思いやりを大切にしました。

お母さんを苦しめた悪い人も、きちんと反省して謝るのなら、許そうと思っていました。

強い人も弱い人も、みんなが幸せになれることが正しいのだと、そう信じて魔法を使っていました。


 しかしとうとう、魔女にとって最も許せないことが起こりました。

彼女が妹のように大切にしていた女の子を、また悪い人が苦しめようとしていたのです。


「もう我慢できない。私の大切なものばかり傷つけられて、私の夢ばかり否定されて。誰も彼も、他人の痛みを気にしない。それなら私も、心のままに生きてやるわ」


 そして魔女はある日、魔法の国から姿を消しました。

誰にも行方は分かりません。

どんなに捜しても見つかりません。

理由を知っている人もいません。

これには彼女を嫌っていた人たちも慌てました。

何しろ彼女は国一番の魔女ですから、彼女にしかできないことはたくさんありました。

彼女の代わりなどすぐに見つかるはずもなく、強い人も弱い人もみんな困り果ててしまいました。


 それから一年が過ぎました。

一通の手紙が、女の子のもとに届きます。

魔女からの手紙です。

彼女については、元気だということしか書かれていない、短いものでした。


 女の子は旅に出ます。

魔女を迎えに行くために。

魔女を助けるために。


 全てを諦めて、全てを壊そうと決めた、悪い魔女を止めるために。


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― 新着の感想 ―
[一言] ☆とある魔女の話  単独で読ませていただきましたが、独立したお話としても読み応えがありました!  その上、色々な方向へ謎や興味が膨らんで行く巧みな書き方と瞠目しました。  最初のイメージで、…
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