第4章 博士
加筆修正しました
センターはいつも何の匂いもしない。
外を通る人からは病院のように見えるらしいが、どちらかというと研究所であり、
私たちにとっての監獄であり、そして生きられる場所だった。
2年ぶりのゲートはあっさりと私を迎え入れてくれた。
生体認証はちゃんと機能しているようだ。
ゲートの先にはまとわりつくような清潔な空気と、塵一つ落ちていない大嫌いな通路が続いている。
私はセンターが嫌いだった。
だからあの時も博士の誘いを断った。
現状には満足しているし、この美しく正しい世界でうまくやっていこうと思っていた。
…そう、
親友が殺されるまでは。
センターが正しく機能しているならどうして親友が死ぬ事になったのか、私は博士に問い詰めるつもりだ。
受付でアポイントを取り、博士に会える事になった。
ロビーで待っている間も自然と喉が渇いてくるのが分かる。
計算するよりも遥かに速く、体が反応していた。
2年ぶりになる博士との対面。
今度は上手く話せるだろうか。
ほどなくして、博士の研究室へ通された。
扉が開いた時、いや、その前から
既に考える力は弱まり、私は息を殺したようになっていた。
まるで見つかってはいけないモノと対峙するような感覚に陥る。
「お久しぶりです」
これはどちらの声だっただろうか。
「聞きたい事が」
「彼女のことだろう?」
どうして、いつも私が話す前に言葉を被せてくるのだろう。
今は真実が知りたい。負けてはいけない。
「あの子は、どうして死ななければいけなかったのですか」
その言葉に博士は何一つ、トーンすらも変わらず答えた。
「代わりだからね」
「代わりって、なんの…」
「話はもう終わりだね。
君との再会を喜びたいのは山々だが、この後が忙しくてね」
まともに話をさせてもらえない。
博士は私の事など目に入ってすらいない。
それでも、絞り出した。
「私が来るのは判っていたんですか?」
「そうだね。君はここにしか居られないから」
「…」
言葉の中に答えはある。
その答えの意味は伝わらない。
博士は2年前と何も変わっていなかった。
…その感覚だけで私は、嫌な事を思い出させられる。
私は2年前のあの日、
博士からの誘いを断ってしまった。
しまった?後悔なんてしてないのに。
「世界を君が正しくしたいと思うかい?」
「?…いいえ、世界は私ひとりでは成り立たないと思います。博士」
あまりに荒唐無稽な質問だったから、私は思うままの答えを返した。
そもそも世界は私一人が何をしてもしなくても正しく回っている。
「そうかい。なら君はここまでだね。未来に期待しよう」
「…?それはどういう、」
「ここまでと言ったよ。もう何もない」
それ以上、博士から何かを聞く事はできなかった。
…それが、私の罪だった。
あの時も博士の部屋には似つかわしく無い、
アナログな時計の針が3時5分を指していた。




