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【AI生成された小説の権利】についての解説

作者: 史優楓


 先日とある出版社にて、『AI生成作品が小説大賞を獲得したあと書籍化が中止』というニュースが話題になりました。

 その一方で、ニュースに対しての評価がネット上でかなり分かれていました。


「AI生成作品の何がいけないの?」

「AI生成された作品の権利ってどうなるの?」


 本短編はそういった疑問に対して、知的財産権の観点から、実例等を踏まえた上での【解説作品】となります。

―――――――――――――――――――――――――


※本作品は、作者が現在執筆中の別作品【天宮有希の知的財産管理】のキャラと設定を用いた短編となります。

 出版契約や漫画のトレスなど、知的財産権に関して楽しく学べるエンタメ作品なので、もしよろしければ【天宮】の方もお読みいただけると幸いです。


※後書きに権利についての解説概要を用意しました。

 権利だけの情報だけ拾いたい方は、本文章を飛ばして、後書きのみ閲覧することをお勧めします。



もし可能であればブクマ・高評価いただけると励みになります。

ご感想やご質問も受け付けておりますので、

何かあればお気軽にお聞かせください。

よろしくお願いしますm(__)m





「先輩……これ、本当に大丈夫なんですかね」

 秋灯社から徒歩三分のところにあるビルの屋上公園で、深夏(みなつ)結子(ゆうこ)は携帯電話を片手に青ざめた。


「大丈夫だと思うよ」

 天宮(あまみや)有希(ゆき)は何事もないような表情でレタスたっぷりのサンドイッチを頬張る。


「でも、すごい騒ぎになっているじゃないですか……」

 深夏の携帯電話には、先日コンテストで大賞を取った小説作品の大半がAIで生成されたことを理由に受賞を取り消されたネットニュースが表示されていた。


「ニュースコメントも千件近く付いているし……私たち本当に大丈夫なんですか?」

「うちは三年前からネットコンテストに参加していて経験もあるし、それに、やることはいつもと変わらないから安心して」



 近年の出版社においてはコンテンツの原作確保の動きが活発であり、とりわけ無料投稿小説サイトで発表されている作品に対して出版社が商業化をオファーするケースが多かった。しかし最近では、コンテスト形式で作者側から作品を募る機会も増え始め、有希が所属するノベル・コミック編集部も、三年前から『小説家になれる』内で、複数の出版社による合同コンテストを開催していた。


「そのあたりは天宮さんや備前を信用していますけど、応募作品の中にAIで書いた文章が混ざっているなんて私には見分けがつきません……もしもうっかりAI作品を評価して書籍化になったら思うと」

「怖いのは分かるけど、やらなかったら競争に負けちゃうからね」

「先輩は前向きですね」

「学生時代ずっと野球やっていたから恐怖の感覚が麻痺しちゃっているのかも。それに最悪なにかあったら、そのときは編集長の備前さんになんとかしてもらおう!」

「えぇ……?」

「まあ、怖がっていても良いことなんてないから、とりあえずニュースの閲覧はやめて、午後の仕事頑張ろう!」

「はい。午後からも一緒に頑張りましょう!」

「ちょっと待って。私は作家さんと打ち合わせがあるから先に行ってて」

「あれ、スケジュールに会議の予定ありましたっけ?」

「さっき急に連絡来てさ」

「それじゃ先に戻ってますね。失礼します」


 深夏は有希に一礼してから屋上公園を後にする。

 有希は後輩の姿が完全に見えなくなると、ふう、と息をついた。


「とはいえAI生成作品は直近の問題だよね……」


 後輩の前で強がっては見たものの、コミックとノベルの編集者である自分もAI生成作品に対しての懸念はある。たとえ予防線をはっていたとしてもタイムリーエラーをしたときの心境は決して慣れるものではない。人である限り不安は常に隣人なのだ。

だとしたら根本を変えるしかない。

 AI生成を拒絶するのではなく、逆にその本質を学ぶ。

 そうすれば何かしら解決策が見えてくるかもしれない。

 有希は決意を秘めた表情で、秋灯社に戻った。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「――それが作家との打ち合わせだと嘘ついてここに来た理由?」

 秋灯社の二階にある法務室で、法務部員の詩海(しうみ)(かえで)はアニメ雑誌を片手に来訪者を一瞥した。


「はい!」

 有希は詩海の机の前で手を合わせる。

「最近はAI関連のニュースも増えていて、私の仕事にもすごく関係あるし、そろそろ学ぶべきなんじゃないかと思ってさ」

「でも、嘘つくことはよくない」

「後で備前さんに謝るから……」

「さっき備前さんに連絡したら『別にいいよ』ってレスが来た」

「ちょっと待って、何で備前さんと連絡取り合ってるの?」

「社内のメールアドレスなんて身内なら誰でも知ってるでしょ」


 有希は「そうじゃなくて……」と言ったところで口を閉じる。こんな些細な事で上司に報告されるのは胃が痛い。今後は先輩として見栄を張ることを控えよう……。


「とりあえずソファに座って。そこに立たれると暗いんだ」


 有希はごめんと述べてから室内の中央にあるソファに座った。


「詩海くんは先日、よその出版社でAI生成された小説作品が大賞を取り消されたニュース、知ってる?」

「知ってるよ。話題になっているからね」

「あのニュースって何が問題なの?」

「随分とざっくり聞くね」

「文章をAIで作ったことが発覚したから受賞が取り消されたってニュースには書いてるけど」

「AIで生成された文章は原則として著作物にあたらないからだと思うよ」

「作品なのに著作物じゃないの?」

「以前も話したけど、著作物の定義は思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものが著作物として保護されるんだ。だからAIが自動で生成した文章は著作物とは認められず保護の対象外になる」


「とはいえ、騒動の応募作品は作品として評価されていたから、賞の取り消しはもったいないような気もするけど」

「評価どうこうよりも権利が発生しないことが問題なんだ。出版社が書籍を出版する際、基本的には作家と出版社間で出版契約を締結する必要がある。その出版契約においては複製権と公衆送信権が必須だけど、件の作品は権利そのものがない。出版自体を強行することは可能だけど、権利のない作品は誰でも好きに使えるから、企業側においては独占利用が阻害される可能性が極めて高い」

「それきっと利益化が難しいよね。ライトノベルの初刊を出版するにもトータルで百万円以上のコストがかかるし……」

「作品選定の人件費も加わる上にプロジェクトも失敗に終わる。だから企業側もコンテストの注意書きにAIで生成された小説作品の投稿は対象外にしているところが多いんだ」


「あれ、でも過去に大きな作品コンテストで小説にAI生成を使った人がいたような……」

「小説がAI生成物なのか否かは作品内でAI生成が使用された程度によって異なるんだ。小説の大半でAI生成が使用されていたらアウト。小説内で多少使うのはセーフ。最近だと校正とかでAIを使用するケースもあるけどそれも問題ない。ただ、AIの使用範囲の判定基準は著作権法で明記されていないから、司法による判断が必要になる場合もある」


「うーん……権利にならないのなら何で作る人がいるんだろう」

「AI生成された創作物も著作権が発生する場合もあるからね」

「あれ、さっきAI生成された文章は原則として著作物にならないって言ってなかった?」

「人間が思想や感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用した場合においては著作物に該当する場合もあるんだ。具体的には、思想や感情をある結果物として表現する行為を『創作意図』、AIを用いた制作過程の中で人がどれだけ創作に関与したかをあらわす『創作的寄与』……この二点によって著作物になるかどうかが判断される」


 詩海はタブレット端末でとあるニュースを表示させて、それを有希に見せた。


「最近だと、他人がAI生成した画像を書籍の表紙に無断複製して警察に摘発された事例がある。この件に関しては、二万回のプロンプト(指示)を経て画像が生成されたことに創作性があると判断された、全国初のAI著作関連の摘発例だ。これは画像に関しての事例だけど、今後は幅広い著作物において似たような事が起きると思う」

「それは便利だけど出版社に所属する身としては怖いね……」

「だからコンテストでAI作品を取り扱わない出版社が増えているんだよ。今後は出版契約内にも『作品内にAIを使用していない』ことを誓約させる項目が追記されるんじゃないかな。損害賠償請求権を発生させて権利をよりクリアにする必要性があるから」

「ちなみに、うちは大丈夫なの?」

「山村さんが去年から『AI作品はコンテストの対象外』と追記しているから問題ないよ」


 有希は胸をなでおろした。しかし思った以上に事は大きく、そして近い。もしかしたら担当作品がAIによって作られていたと思うとぞっとする。


「今後はAIによる創作活動もやっぱり増えていくのかな……」

「増えると思うよ。AIを使うメリットの多くは時短による効率化だけど、対話を通して学習させたAIのポテンシャルを見てみたいという人も少なくない。人が機械に対して同調する時代が来たということをちゃんと理解したほうがいいよ。じゃないと価値観が時代遅れになる」


 辛辣だなと抵抗感を覚える一方で、その辛辣さが現実としてあることは否めない。時代の波というものは年代など関係ないのだろう。有希は聞いた話を何とか呑み込むと、ソファから立ち上がり、詩海に解説のお礼を述べた。


 詩海はタブレット端末をデスクに置くと、再び有希を見やる。


「天宮さんは現場の人間としてどうするの? 日本はAI生成を毛嫌いする人は多いし、権利関連においては課題も多い」

「正直……よくわからない。でも、時代やツールが変化しても作品の本質は色褪せないから、今後も作家さんと一緒に面白い作品をつくれるように、真面目に、実直に頑張ろうと思う」

「政治家の所信表明みたい」詩海はいつもの無感動な表情で微笑を浮かべる。「でも、正しいと思うよ」

「知的財産まわりで何かわからないことが聞きに来ていいかな。お礼にお菓子持ってくるから」

「気を遣わなくていいよ。お菓子はこっちで用意しておく」

「ありがとう」


 かねてから人は従来の価値観の上に新たな価値観が重なることを忌み嫌う。

 しかし現実としては、価値観が人の歴史と共にレイヤー状になっていて、それが普遍的であることも事実である。

 AI生成という時代の波が到来した。

 AIが新たな価値観を創造するというのなら、その上に新たな価値観を創造することも人はできる。人だからこそできる。

 作家の創作意欲を編集が守り、漫画や小説を創造する。


 その関係性はこれからも続いてくと信じて、有希は法務部を後にした。



Q1:AIで生成した作品は著作物なの?

 A:原則として著作物にはあたりません。

   著作物ではないため著作権が発生しません。

   ただし、AI生成された創作物も『①創作意図性』『②創作的寄与性』によっては著作物と判定されて著作権が発生する場合もあります。



Q2:なぜ出版社はAI作品の応募を断るの?

 A:出版社が商業作品を出版する際、作家側と出版契約をかわします。

   出版契約においては著作権の内の複製権・公衆送信権が必要となります。

   出版社は基本的に作品を独占利用したい思惑があり、

   著作権が無い場合はいわゆるフリー素材として誰でも使用できるため、

   独占利用を阻害される観点からAI作品の応募を断る傾向にあります。

  


Q3:小説内でAIを使ってもいいの?

 A:人が制作した作品内において多少は使っても問題ないと言われています。

   逆に、小説作品の大半をAIで生成した場合は著作物として判定されません。

   使用範囲の判定基準は著作権法には明記がないため、程度においては司法の判断が必要になる場合があります。



Q4:AIを使用して制作した小説作品をコンテストに応募していいの?

  A:大半のコンテストは応募規約にAIの使用について可否が記載されていますので、その規約に沿っての判断になると思われます。



Q5:他人の著作物を勝手にAIに読み込ませていいの?

 A:他人の著作物をAIに読み込ませることは著作権法第30条の4を理由に問題ありません。



Q6:人気作品をAIに読みこませてつくったパクリ作品は応募していい?

 A: AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かの判断は、人がAIを使用せずに創作した場合と同様です。

   例えば、とある人気作品と設定やキャラクターが明らかに被っていて、

   人気作品に依拠して独自創作ではない(いわゆるパクリ)場合は

   類似性、依拠性を理由に著作権侵害と判断される場合があります。

   簡単に言うと「これ、〇〇と内容が丸被りじゃん」みたいな作品はダメ。



『①創作意図』 :思想や感情をある結果物として表現する行為

『②創作的寄与』:AIを用いた制作過程の中で人がどれだけ創作に関与したかをあらわす基準


――――――――――――――――――――――――

その他、気にあることがあれば

ご感想やDMからお気軽にご連絡ください。

お読みいただきありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
凄く勉強になりました。AIの著作権は原則認められないんですね。 海外ではどうなのかも気になりました。
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