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JEWEL SOUL ―――世界樹の巫女―――  作者: フロストマン


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第八章 すべてが重なるとき ⑥

 ハルトは落下の衝撃により閃光と暗闇に呑まれ、一瞬気を失っていたが、地面に着地したままの体勢で倒れることもなく再び目覚めた。

 全力で振り下ろした木剣は大樹の根を突き抜け、そのまま地面に達していたが、咄嗟に発生した剣の柄を握る手から無数に生えた樹の蔓が幾分か衝撃を和らげたようだ。

 響き渡る轟音が意識を征する。

 ハルトが突き抜けた部分を中心に成分が樹から陶器に突如変化したように大樹の成れ果てが降り注ぐ。

 それはハルトを中心として広がってゆき徐々に視界が開けてゆく。そして驚くほど近くにケイン・ボーヒーズが立っていることに気が付いた。


 今し方まで命がけで戦っていた男がそばにいるというのにハルトは武器を構えることもなく、なんとなく静かに彼を見上げていた。全

 身雨に濡れるように樹の破片を浴び、案外薄い頭髪の乱れたその男には、先ほどまでのむき出しの殺気や覇気が感じられなかったのだ。


「降参だ。私の負けだよ」

 騒音の中でも聞き取りやすい彼の第一声がそれだった。

 微かに血のにじむ脇腹を抑える傭兵の姿は先程まで思っていたよりも小さく見えた。

「僕の勝ち……」

「そうだよ。納得いかないか?なんならこのまま止めを刺してみるかい」

「いや、降参した相手にどう戦えばいいかわからない」

「お優しいな。じゃあこのまま見逃してくれるのか」

 殺し合いをしていたにしては何とも緊張感のない奇妙なやり取りだった。

「ここで見逃したらあなたはどうするんだ」

「そりゃあ逃げるのさ、見苦しく、泥臭く、這いずり回ってね。そして私は大樹の使徒と戦って生き残ったぞ、と吹聴し、自慢しながらまた傭兵としてどこかで戦って孤独に野たれ死ぬよ。君が見逃したとして、責任を感じるほどにまともな末路にはならんだろうから安心したまえ」 

「そうしたら誰か、あなたに傷つけられる人が出てくるんじゃないか」

「かもしれんし、もしかしたらそれで誰か助かるかもしれん。残念ながら私は他人の人生に昔から無頓着なんでね。だから意味もなく傭兵なんかやってる。

 それでもごくたまに今日みたいに興味深い経験をすることができたりもする。

 どうする?

 将来私が殺してしまう誰かのためにやっぱり私の命を今ここで奪うかね」


 少しずつ視界が開け、騒音が遠くなってゆく。

 ふと視線を巡らせると少し離れた場所に見間違えようのないジア・アーベルの影が見えた。

「いや、僕はまだその判断をできるほどに立派な英雄になれたわけじゃない。どうやら一番大事な人は守れたようだし。

 それだけで今の僕にとっては出来すぎるほどの立派な戦果だ」

「謙虚なことだな」

「ただ、一つ聞かせてほしい。さっきの最後の瞬間のあなたの行動は何だったんだ。

 ジアが無事なところを見ると彼女を狙ったわけでもないようだし」

「いや、巫女さんを狙ったことに変わりはないさ。ただ私の最後の仲間が彼女にやられそうになっていたのでつい手が出てしまった。

 最後の最後で君に向き合わなくてすまないね」

 再びジアの方に目を向けると、その足元の地面に深々と彼の金棒が刺さっていいた。

「あなたは戦いの最中に、自分の身を犠牲にしてまで仲間を助けるような人間なのか」

「意外かな。所詮私は血も涙もない人間だと。

 まあ否定はしないがね。ただ私がメルヴィン、私の助けようとした若者の名だが、彼を助けた大きな理由は君にこそあるのだよ。先ほど君は私と相対しながらも、同じくその身を顧みずに彼を助けていたじゃないか」

「?」

「気付いていなかったか、ますますお人好しだな。

 小屋の前で女に捕まっていたローブの若者、彼は私の仲間が化けていたんだよ。

 なぜ同じく仲間のはずのあの女、アニーに取っ捕まっていたのかは理由はしらんが、君は躊躇なく彼を救おうとした。私との闘いの最中にね。

 あの君の行動がなければメルヴィンは見捨てていたよ。ただ今度は私が彼を助けないと不平等だと思った。

 まあもともとは、彼をそそのかして巫女を殺させ、そのままメルヴィンにすべての罪を押し付けとんずらするつもりだったのだがね。巡り巡ってこんな結果になってしまった」

「わからないよ。僕が助けたからあなたも助ける。

 それも自分が殺そうとした人間を。それはあなたの立場をますます不利にするだけじゃあないのか」

「わかる必要などないさ。私はもともと巫女や君を含めてこの村の住人を皆殺しにしようとしていた極悪人だぞ。君らとは縁遠い人種だ。

 ただ最初に言ったよう実は正々堂々とした方が私は好んでいるんだよ。残念ながら私に絶望的にその適性がないだけでね。

 だから結局他人の事情など考慮せず、自分の中で勝手に平等の線引きをしているだけさ。つまりは私のわがままだ」

「わがままか。それならわかる気がする」

「それに勇気ある若者が好きなんだよ。君や巫女、我らがボスのメルヴィンの様なね」

「結局僕はそのメルヴィンって人とも顔を合わせてすらいないよ」

「それは残念だ。おそらくお互いの運命を大きく変えたのだと思うぞ。

 さて、そろそろ敗者は去り行くとするよ。どうやら君以外の人間も集まって来ているようだ。ここの住人に捕まってしまってはさすがに許してはもらえんだろう。

 村人に袋叩きにされる不名誉よりかは君に負けた名誉を抱えて夜を終え、朝を迎えたい」


 その言葉にハルトが辺りを見渡すと、ようやく落ち付いてきた夜の闇を透かして複数の人影が見えた。

 立ち上がりながら振り返ると、そこにはもうケインの姿はなかった。ただ地面に点々と付いた血の跡が森の奥へと続いていた。

 ようやく全ての大樹の一部が崩れ落ち村の丘に静寂が戻り始めた時、見計らったように遠い空の彼方が白み始めた。

 長い夜だった。


 そこでようやくハルトはジアと向き合うことができた。

 彼女もハルトと同様格好は土や木屑で汚れていたが、その佇まいは相変わらず凛として圧倒されるばかりだった。

 これが命を狙われていた籠の中の小鳥か。

 本当に僕なんかがそこから救い出すために手を伸ばす必要があるのだろうか。

 その僕の内なる疑問に答えを出すかのように彼女はそっと右手を差し出した。 

 あたりに集まってくる人々の気配を感じながらその手を取ろうとハルトも手を伸ばす。


 その手が触れ合おうとしたその時、大地を揺るがす振動が二人の足元を襲った。

 顔を見合わせた二人は同時に空を見上げる。徐々に夜の暗闇が日の光に洗い流されてゆく中、マナの光が消えうせ、闇に溶け込んでいた村の大樹の巨影が不吉な振動を起こしている様子が見えた。


「嘘だろ、倒れるぞ」


 驚くバズの声が辺りに響く。


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