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JEWEL SOUL ―――世界樹の巫女―――  作者: フロストマン


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第七章 若者たちの選択 ②

 破壊の衝撃と快感を予感し、振り下ろす寸前だった大槌がその手から離れマイケルの背後に鈍い音を立てて落ちる。

 マイケルは自分の胸の中心に突如として生えた、銀色のそれを不思議なものを見る目で見つめた。それは刀身の半分ほどが自分の身体に入り込んだ、飾り気のない細身の小剣だった。

 何が起こったのかと口から息を漏らしながら頭上を仰ぎ見る。しかしそのまま何かを瞳に写すこと無く白目をむくと、その巨漢は背中から地面へと倒れた。


 樹の上から多数の小枝と葉が舞い落ちてくると、その間を縫って金髪の少女を抱きかかえた坊主頭の大柄な少年が飛び降りてきた。

「よお、ハルト。間に合ったか」

 ハルトに向かって声を掛けるバズ・トロットの腕から降りると、レオナ・ホーファーは倒れた傭兵を踏みつけ愛用のサーベルを抜き取った。

 そして座ったままのハルトを庇う様に、村への侵入者達に血で染まった刃先を掲げ、向き合った。

「どこの誰なのよ、あんたら」

 傭兵はもう常に張り付いていた笑顔はなく、冷静に情勢を見極めていた。

 ハルトは安堵と緊張の狭間で、何とか誰よりも信頼のおける幼馴染に返答する。

「こんな時にごめん、でも来てくれて助かったよ」


 樹の上から三つの小石をバズ宅の屋根に落とすのは、昔からの幼馴染をこの場所へと誘い出す秘密の合図だった。

 もともとは記憶を失う前のやんちゃなハルトが考えていたものらしい。

 一人だけでジアの所に向かうのはさすがに無謀かとも思えたので、最も信頼する人物に助っ人を願ったのだが、恐らく今夜はレオナも一緒なのではないかとも思っていた。その意味を理解できないほど鈍感ではないが、かといって非常事態に気を使ってしまうのも、余計に二人とも後で怒らせてしまうとも思い、直接頼むでもなく、昔ながらの幼稚な合図に任せたのだ。

 そんな中途半端な想いをくみ取ってきてくれたバズはただ黙って頷くと、降りて来る時に使ったロープを離し、やや短く太い二本の木剣を抜き、レオナに並び構える。


「おやおや、これで三対三ってわけか。随分と都合のいい劇的な展開になったもんだ」

 そう言いながらもカギ爪の男はふと一人味方が消えていることに気が付いた。

「おいシャロン。アニーのやつはどこ行った」

 うつむく長髪の女傭兵はどもりながら聞き取りにくい声で返事する。

「に、逃げたよ。あ、相手が三人になった途端、音をたてずに一目散に……」

「ええいくそ、またかよあの女は。いつもいつもこうだ。ちょっとでも自分が不利に感じたら自分だけさっさととんずらかましやがって。それでいて二、三日たったら、毎回しれっとした顔で戻ってきやがる」


「三対二だけど、どうするよオッサン。村を襲ってきた連中もあんた等の仲間なんだろ。今頃皆もうやられちまってるぞ。あの程度でこの村を落とそうなんて無謀が過ぎるぜ」

「大体あんた達何が目的よ。この村の事何も知らないようだし、世界樹の巫女、ジアが目的だとしてもなぜこんな所でハルトを狙ってるのよ」

 バズとレオナの両者の言葉に逃げた仲間への苛立ちの吐露から一転、また再び冷静さを取り戻すと、その男はまた不快でありながらどこか薄っぺらな笑顔の仮面を貼り付ける。

「さあてね、それを教えてやる義理があると思うかい、お嬢ちゃん。でも、そうさな、このまま三対二じゃなく、二対二で遊んでくれるってなら、そこのハルト・ヴェルナーという少年はこっそり見逃してやってもいいぜ。なあどう思うよシャロン」

 急に振られた女傭兵は、一瞬動揺しながらもぶんぶんと激しく頷く。


 不可解だが魅力的な提案に、それでも親友二人をこの危険な人物たちの前に置いていくことに忌避感を覚え、ハルトは何も言えず、樹に刺さった銃剣を黙って引き抜いていると、自分よりも先にレオナが胸を張って答える。

「のったわ。バズもそれでいいわよね」

 その勢いに半ば呆れながら彼女を諫めようとするも、レオナは敵に背を向けながらハルトの目をしっかりと見据え、その言葉を制した。

「ハルト、あんたはこんな所でぐずぐずしていないで、やることがあるでしょう。もう彼女を二度と待たせないであげて。バズのことなら心配しないわ、私がちゃんと守るから」

「俺が守ってもらう方なのかよ」

 いつもと変わらぬ二人の様子に微かに頬を緩めると、ただ一度ハルトは頷いた。


 まだ全身を覆う痛みを振り払うように首を回すと、ハルトは歩き出した。

 バズとレオナは警戒しお互いの武器を構えるが、それとは対照的に侵入者二人はリラックスしたまま、道を開けハルトを広場の中心へと通す。

 緊張に身を固めながらも両者の間を通り過ぎようとしていたハルトはふと振り返ってカギ爪の男へと言葉を投げかけた。

「なあ、あんたの名前は何て言うんだ」

 おそらくその男にとっても予想外の言葉に一瞬表情を失くすが、それでも一応は答える。

「そんなことを知ってどうする、どうあってもこれから仲良く何て決してなれないぞ」

「だってあんた等の方は僕の名前を知っていた。一応命のやり取りをしたのにこっちだけ知らないなんて不公平じゃないか。僕にとってこれは初めての経験なんだよ」

「くくく、変な奴だな。律儀というか馬鹿というか。傭兵が名を名乗るなんておかしな話だが、まあサービスしてやろう。俺はロバート・クルーガー。そこの女はシャロン・クエイド。ついでに、逃げた黒髪の女がアニー・ベイツ。嬢ちゃんにぶっ刺されたデカブツがマイケル・カーペンター。そしてお前さんが吹っ飛ばしたのがブラド・リー・レイだ。これで満足か」

「ありがとう。なるべく忘れない様にするよ。さようならだ、ロバート」

「なんだ、なるべく忘れないって」

 そう苦笑しながらロバートは地面から落ちたままのハルトの牙刀を拾い上げる。

「そら、さっそく忘れもんだ、ハルト」

 バズとレオナがそろってあっ、と声を上げた時にはその牙は凄まじい勢いでハルトの顔面めがけて投擲されていた。

 瞬間、深緑の光が発せられ、ハルトの掌から植物の蔓が跳び出しその刃を空中で巻き付き受け止めた。

「おお、さすがだ。やるじゃないか」

 感心するロバートとは対照的に、激高する幼馴染二人に対してハルトは落ち付いて声を掛け、走り去っていく。

「それじゃあ僕はジアの所へいってくる。二人ともまたあとで」


 さて、どうしたものか、と若い二人に向き合ったロバートの袖を、いつの間にか近づいていたシャロンが控えめにくいくいとひっぱる。

 げんなりしながら、お前もいい加減いい歳だろ、そういう仕草は十年程遅いじゃないかと、緊張感が削がれ内心愚痴る。

「ロ、ロバート。あ、あのね私男の子の方の相手がしたいな」

 少女の秘密の告白のように恥じらいながら、愛用の茨の鞭を愛おしそうになでる。

 別にフェミニストを気取るつもりはないが、なんとなく二対二の戦いなら自分が坊主頭の相手をするのだと、自然にそう考えていたがこの陰気な女はそれがいやらしい。

 バズと呼ばれていた小僧も武器を構えながら怪訝な顔をしている。

「別に構わんが、何でだよ」

 シャロンは乱れた長髪の下から品定めをする様に大柄な少年の身体に、湿っぽく歪んだ視線を向けると鞭をだらしなく地面へと垂らし、引きずりながら言う。

「そ、そっちの方が、これで傷をつけて、と、とってもとっても面白そうだから」

 初めて浴びる類の感情を向けられ、バズは顔を引きつらせる。

「ひゃはは、相変わらずいい趣味してるな。おいどうだよ少年。大人のお姉さんからのちょっと過激な遊びのお誘いだぞ。いっちょ体験してみるのも悪かねーかもよ」


「ダメよ」

 バズが何か言う前に割り込むように、金髪眼鏡の少女が燃えるような瞳で拒否する。

「この男は今日からわたしのものよ」

 途端にシャロンはつまらなそうに舌打ちする。さっきの恥じらいはどうした。

「おいおい、お前もてるな。羨ましいぜ」

 ロバートがカギ爪をちらつかせると、それが合図だったかのようにそれぞれ武器を構える。


 ハルト・ヴェルナーをはじめ、他の村人同様、この二人もそれなりに鍛えられ、素人とは言えない様だが、ロバートにとっては即座に無力化することも、なんなら殺してしまうことも容易だろう。が、この時はシャロンに合わせて遊んでやろうと思った。対等に戦ってやろうと。

 もちろん今の自分の一番の目的が時間稼ぎであることも確かだが、再び自分の闘争の勘がいっていたのだ。おそらくこれが自分の生涯にとって最後の戦いになるだろうと。

 哀れなシャロンと同じく、傷つけ合うことでしか物事の価値を見出せない俺は、精々最後まで命一杯愉しまないと損じゃないか。


 ケイン、そしてメルヴィン、あんた等もそう思うだろ?



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