第六章 純なる野犬と邪なる毒蛇 ⑥
リアム・パターソンは湖の見張り台の上から、辺り一面明かりで照らされた村を見渡すと、サイレンが鳴り響く中、素早く梯子を下りる。
そして村のメインストリートの真ん中をまるで日常の散歩であるかのように無警戒に歩いてゆく。
そこかしこで人々の争う物音が鳴り響いていた。銃声、怒声や悲鳴、金属を打ち鳴らす音に、肉を打つ鈍い音。
ある一軒の民家の影から転がる様に4人の人間が悪態をつきながら必死に走り出してきた。
傷だらけの彼らはある者は脚を引きずり、またある者は動かなくなった片腕から血を流しながら、そして背に短刀を突きたてられたままの者までもいる。
一瞬の間に立場が逆転された傭兵達は気を動転させながらも、それでも即座に撤退するだけの懸命さは残していた。
彼らの姿を目にしたリアムは歩くペースを落とすことのないまま、ぞんざいに狙いをつけると手にした小銃を連射していた。
4人の傭兵の内、先頭の者はまともに複数の銃弾を受け、地面に倒れる前にこと切れていた。
慌てて道を引き返そうとした長身の男は運悪く後頭部に一発が命中し即死した。
残りの二人は多少恵まれ、その銃撃では無傷であったが唐突な展開に度肝を抜かれ、完全に冷静さを欠いてしまった。
彼等は弾切れを示すライフルから金属クリップの跳ぶ音を聞くと、頭に血を沸騰させ、怒声を上げながら自分たちの怪我も忘れリアムに突進した。
リアムはさして焦ることも無く小銃を下ろすと、背中の鞘から長剣を抜き出し、向かってくる二人にそれぞれ一刀ずつ斬撃を与え、たやすくその場に切り捨てた。
その場に立ち止まり刃に付いた血糊を拭う。
本来護衛である自分は常にジアのそばにいるべきだが、今彼女を護る者は俺でなくてもいい。そもそも元々俺に誰かを護る資格なんてないのだ。過去に多数の命を奪い、そして今も若い命を救うためにより多くの命を奪っている。そういうやり方しか知らない。
ハルト・ヴェルナー。
墓地で一人寂しくうつむいていた君が、ジアを救うために湖から飛び込んできたのを見た時、俺はジアの父親にいわれるまでもなく、たまらなく誇らしくうれしかった。
あの日俺が救い、俺が救われた赤子は大事な人のために純粋に行動できる男に育ったのだ。
まだあまり実感はないだろうが、この過酷な世界で君にはまだまだ試練が待っているかもしれない。
やがてその力を行使し誰かを傷付け、他人の命を奪うのかもしれない。
でも、それしかなかった俺とは違う。
どういった道をたどろうと俺は君を肯定する。
独りよがりで身勝手な想いかもしれないし、君がそれを知らなくてもいい。
ただ君の両親がいない今、俺だけはずっと君の未来を想い続ける。
だからまた全力で行動するのだ。俺に代わってかつて宝石に願ったようにあの少女、ジアを君が自ら護ってやってくれ。
敵を探し求めながら、今はもういないかつての友に心の中で問いかける。
ヨハン・ヴェルナー、クリスタ・ヴェルナー、今夜だけは自分が傲慢にも君たちの代わりにあの子に対してこう思ってもよいだろうか。
「頑張れ、息子よ」




