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JEWEL SOUL ―――世界樹の巫女―――  作者: フロストマン


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第五章 少年である最後の一日の黄昏 ⑩

 彼はリッター・ヴォルフという名の、巫女と共にやってきた緑ローブのメンバーの一人だった。

 つまり何度かハルトとも顔を合わせているはずだが、桟橋などで出会った時のジアに厳かに傅く敬虔な姿とは全然結びつかない快活で饒舌な人物だった。

「はは、よく言われるよ。あれはいわゆる演出だよ、巫女様の神秘性を高めるためのね。実際の俺はただのしがない大道具係さ」

 本来は話好きな陽気な人物と見えて、流れでともに撤収の作業を手伝うことになったハルトとバズに、作業の合間、様々な世界樹の巫女の一団の話を聞かせてくれた。


「隊長、デレクさんの発案らしいけどね、表向きは巫女を信奉し、奉仕する信者ってことになっているけど、逆にそんな人物はやんわりと避けてビジネスライクな付き合いの人間で固めているんだよ。様々な職を経験した労働者の各々の役割や個性をあの辛気臭いローブで覆い隠しているのさ。んで俺は巫女の祭壇や各種儀式につかう道具の調達や制作、修理何かを担当してるってわけ」

 村の集会所で座っている人物たちを示し言う。

「例えばあそこに座っているひょろりとした何か書いてるメガネの男はマイク・プレヴァン。巫女様の儀式の歌や構成の演出担当。向こうの二人組の、よくしゃべっている方はパメラ・リード。巫女さんの衣装や装飾品の担当で、もう十年ぐらいこの隊にいるらしい。それで話を聞いている様で聞き流している感じの白髪のばーさんの名はジョアンナ・マーシュ。二年前くらいに参加した同じく巫女さんの髪やメイク担当だな。」

 確かジアとデレクを除くとあと二人はいたようだがここにはその姿はなかった。

「なんか小さな劇団みたいだな。なんでわざわざ皆そろってあんな胡散臭いふん装を?」

 遠慮なく尋ねるバズの物言いにハルトは内心ヒヤヒヤする。


 ほんの少しだけ真面目な様子でリッターは答える。

「最近は減ってきたんだけどね、やっぱり世界樹の巫女が狙われることもあるんだ。帝国の連中からしたら敵対する世界樹の化身みたいなものだし、逆に世界樹を信奉する教団にとってもその神聖な力を持ちながらも、教団の意に沿わない許されざる存在だ。そして単にその威光や力に魅せられた人間だっている。彼らにとって我々はその巫女の恩恵を独占する陰湿な卑怯者だ。だから誰かしらに狙われたら我々はあのローブを脱ぐのさ。そうしたら正体不明の巫女の従者達がただのなんの変哲もない労働者に早変わり。それぞれの雑多で平凡な個性が今度は逆に隠れ蓑になるって寸法だ」

「でも、そうしたら肝心のジア本人が逆に目立ちすぎないっすかねえ。あんな派手な格好で歌って踊って、ただでさえあんな、その、デカいのに」

「巫女様の場合は逆に思いっきり派手にやって、彼女の正体や本質を出来るだけ隠そうとしているんだよ。例えば、ある地方に行ったときなんか噂に尾ひれが付きすぎて、世界樹の巫女は身長三メートルあって全身発光し、空を飛びながら歌う、なんて信じられていたよ。言い方は悪いけど旅の間、彼女は常に大きな見せかけだけの張りぼてを被っているんだ」

「でも結局は人目に付くのはジアなわけで、幾らあんたたちや傭兵の連中が護っているといってもカゴの中の鳥みたいなものなんじゃないのかな」

「君はみかけによらず、随分洒落た言い回しするねえ」

 少し小ばかにされたようで一瞬バズは鼻の穴を膨らます。

「カゴの中の鳥かあ、確かにそうかもしれない。我々はデレク隊長のもとカゴをつくりだして、長年その中にジア・アーベルと言う少女を世界樹の巫女として飾り立てている。でもね、今では多分そのカゴの扉は常に開け放たれているんだ。そして彼女には飛び立つ翼もある。多分彼女自身もそれは解っている。だから後必要なものは……」

 そこで口を噤むとリッターはハルトとバズに視線を移し、そして作業へと戻っていった。


「なんだよ、含みある言い方して」

 気の抜けた感じで立ち尽くすバズにハルトはポツリと呟く。

「なんだか分かるかもしれない。僕のうぬぼれでなきゃ……」

「なんだそりゃ」

 バズが問いただそうとした瞬間二人の背に軽い衝撃が走る。

「お二人さん、なーに道の真ん中で難しい顔してるの」

 両手で男二人の背を叩きながら、レオナ・ホーファーの金髪のおさげが間に割り込む。彼女も別の場所で一通り仕事を済ませてきたようだ。

 幼馴染三人だけで顔を突き合わすのがハルトにはえらく久しぶりに感じる。

 なんだか安心して気が緩んでしまう。

「いやあ、これからの先の事を考えていたんだ」

「これから先?」

 具体的に要領を得ないハルトの答えに困惑するレオナに対し、バズは一転真面目な顔となり、ついと、レオナの顔を見下ろす。

「これから先か……」

「な、なによう」

 ふいに思いがけずバズの熱い視線に晒されレオナは微かな頬の紅潮と共に動揺する。


 これから先、もう大人としていつまでも仲良し幼馴染ではいられないかもしれない。

 そしてハルトは実感する。

 僕の大事な親友であるバズとレオナは次の関係に進展しつつあるのだと。

 今朝に見た二人のしっかりと繋がれた手を見た時に感じた一抹の寂しさ思い出す。

 でも、それは二人に置いて行かれるからではない。

 自分もまた先に進むからなのだ。

 すこし熱っぽい視線で見つめあう二人の肩に手を置き、ハルトは言う。


「ねえ、二人とも。ちょっといいかな。僕はこの村を出てみよう思うんだ」


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