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JEWEL SOUL ―――世界樹の巫女―――  作者: フロストマン


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第五章 少年である最後の一日の黄昏 ⑥

 帝国兵メルヴィン・ポインターは暗い森の中で座り、何度となく繰り返された内向的な思索の中にいた。なぜ自分、【ムクドリ】はこんな所に居てこんなことをしているのかと。

 両腕に抱えるのは軍から支給された実弾の装填された木製のライフル。

 それを初めて手にした時は誇りと興奮で胸がいっぱいになったものだが、今ではどこか忌まわしい汚れた物に感じる。それでいて心細さから決して手放すことは出来なくなっていた。


 三年前にこの村、エカーアストと似たり寄ったりな辺鄙な田舎の村から出た時は希望と野心であふれていた。きっかけは同郷の同い年の若者、メルヴィンが記憶する限りでは物静かで目立たない、身寄りのない地味な男が、困窮の末帝国軍に志願し入隊したことだ。

 子供時代にはその貧しさと大人しさ故、村の悪童たちにからかわれていたこともあるその彼が、村人たちの予想に反し、数年後には武勲を立てそれなりの地位に付いたと噂が流れてきた。

 誰もが耳を疑うなか、村に凱旋した彼は輝くばかりの軍服とそれ以上に全身からあふれる自身にあふれる姿を見せた。かつての悪童たちはこそこそと隠れるしかなかった。

 その眩しさは同じく貧相な村の中でも埋没していた孤児であったメルヴィンの胸を焼いた。


 実は幼少期には悪童たちの背に紛れて彼に石を投げたことをあったことも都合よく忘れて、メルヴィンは似た境遇の彼の姿に勝手に自分の有るべき未来を重ねた。

 そう、自分もこんな村を出さえすれば、幾らでも手柄を立て、出世できるのだと。

 彼にしては珍しく即座に決断し、下働きとして仕えていた商店から多少の金銭をくすね村を出た。

 だがその際盗んだ金額は罪人として追われるほどではない最小限にとどめていた。

 それは退職金として自らに言い訳ができる範囲にとどめ、罪悪感を持ちたくないがためだった。

 先に入隊した同郷人に伝手を頼らなかったのも、自分だけの力でやるという誇りからではなく、ただ単に彼に声を掛ける勇気がなかっただけのことなのだ。

 あふれる野心と、それに反比例する勇気。


 それでもなんとかかき集めた一握りの勇気でとある帝国支部への入隊にはこぎ着けた。

 まさにその頃は帝国飛躍の時期であり、どんな出自、出身でも人材はいくらでも歓迎された。

 もちろんメルヴィンはすぐに現実は甘くないことを思い知ることになる。山村出身で痩せた体格とはいえ、素の運動神経は決して悪くなかったがことごとく実地訓練で落ちこぼれた。

 薄々わかっていたこととはいえ、メルヴィンには度胸と覚悟が足りていなかった。

 多少の技術は身に付いたものの、それに全く精神が追いつくことのないまま無情にも訓練期間は終わり、幸か不幸か落伍することなく実戦に投入された。


 この時期、新兵が募集され歓迎されているということは常に戦場には事欠かないという事だった。

 皮肉にも勇敢さが無い故、昇進とは程遠いままだが小賢しく生き残る術は着実に身に着けていた。近接戦闘よりも射撃術に重きを置いて自主訓練に明け暮れ、上官には媚びへつらい、それでいて新兵にも威張ることなく波風をたてることを極力避け、頼りにされることも、集団から孤立することもなく没個性の歩兵として懸命に立ち振る舞った。


 それは出身の田舎村での立ち振る舞いと結局同じ事であることをいやでも自覚し、憂鬱となったが、勇敢で快活な同期の人間が稀に戦死してゆくたびに自分は間違っていないと言い聞かせた。戦死していく以上に同期が昇進していくことには目をつぶりながら。

 実戦でも不器用ながら身に着けた射撃術で、確かに敵兵を撃ちぬいた手ごたえを感じたこともあったが、その敵の生死を確認することが恐ろしく戦果の確認を怠っていることも出世の鈍さに繋がっていた。


 それでも辛うじて上等兵にまでなった頃、よりによってそのメルヴィンの必死に身に着けた人並外れた没個性を伴った協調性をある上官に目を付けられ、名指しで特別任務に指名された時は自分の皮肉な運命を嘆き呪ったものだった。

 もちろんそこに反抗する気概があるわけもなく、メルヴィンは身分を隠し、血の気の多さに定評のある、傭兵団【ピュアブラッド】へ【ムクドリ】という暗号名を与えられ潜入していた。



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