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JEWEL SOUL ―――世界樹の巫女―――  作者: フロストマン


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第三章 その儀式が呼び出したもの ②

「その夜、そのモンスターの村への襲撃が再び始まったの」

 努めて淡々と話を続けるバルバラ。

「モンスターは一匹だけだったけど村の各地を断続的に襲ってはまた離れ、まるでどうにかして村の中心地への侵入を試みているようだった。やがて村全体が異常事態に陥っていることを知り、緊急時の手順通りに村人達は名々明かりと武器をもって村の最奥の広場に集合し始めた。

 そうするとモンスターは我々をあざ笑うかのようにその広場の集団の方に狙いを定めた。決して正面から姿を見せず慎重に、でも隙を見せたり、孤立した人間は一瞬で引き裂かれた。もちろん私達だって反撃し、なかには確かに傷を負わせた確かな手ごたえもあったのだけど、その怪物の理由のわからない異常なまでの襲撃は朝まで続き、結果として、十一人もの命が奪われた。犠牲になった人間の中にはバズの両親も含まれていたわ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ハルトはその日の早朝と同じように、湖を見渡せる大門の見張り台に独り静かに座っていた。

 ここからだと月明りと高所特有の満天の星空の明かりが、静かな湖面に映り、闇夜を遠くまで見渡せた。広場での、世界樹の巫女の御する光の饗宴はハルトの目にも届いており、夜空に響き渡る歌声も微かに聞こえてくるが、人々の輪から離れ、大自然のなかで行われる奇跡も遠くから見ている分には、今朝桟橋で感じたような神聖さに比べると、窓の外から小劇団を覗き見ているような、どこか素朴なものに感じる。それは物理的な距離のせいなのか、精神的な距離のせいなのかはハルトには分からなかった。今わかることは、自分はジアの奇跡とそれに伴う感情の波を正面から受けることを怖がっているということだ。

 それは幼き日に多数の大人達に向けられた感情に起因している。それは決して悪感情だけでなく、慈愛や救済の想いも多いに含まれていたことも確かだったが、それはハルトの両親が獣に生きたまま引き裂かれたという悲惨な境遇を前提とした感情だった。


 体内で猛り狂う欲望に突き動かされ、様々な山々を巡り巡ったケルベロスの疲れを知らぬ四肢は、その白い剛毛に覆われた身体を針葉樹の覆い繁るとある山頂へと押し上げた。勢いそのままに一本の巨木に飛びつき器用によじ登ると、全神経を昂らせ、宙を見据える。

 体内に宿るマナを同調させ、大気に微かに漂うマナの流れを感じ取ると、ある一点に燃えるような紅い六つの複眼を集中させる。山を二つ三つ超えた先に曖昧な気配でなく舞い踊る光の渦がはっきりと見えた。背筋が痺れるような歓喜を夜空に響く咆哮で表すと、躊躇することなく宙に飛び出し救いと贄となる筈の光の源へ再び駆けだした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「獣の気配が完全になくなると、悲しむ間もなく犠牲者たちの埋葬を行い、村の被害状況を確認するなか一日以上経ってようやくハルトは目を覚ました。村長と私達夫婦の三人で話を聞こうとしたのだけど、もうその時にはハルトの記憶は失われていた。         

 直接現場を見た私としては幼い彼にとってはそれだけ衝撃的で仕方のないことなのだとも思ったけど、ただ不思議なことに事件の前後の事を忘れただけでなく両親の事を含め文字通りすべての思い出を彼は失くしていたの。

 肉体的には完全な健康体で、言葉は喋れるし日常生活における一般常識なんかもすべて身につけたまま。それでいて明るく素直で多少腕白な彼そのものだった。

 悲劇に打ちのめされた村の大人達よりもよっぽど彼の方が元気なくらい。

 ただ記憶のみが都合よく、まるで彼の心を傷つけまいと何らかの意思が働きかけたように消えていたわ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 クラウスは儀式中の光と歌声と人々の熱意の中にあっても、冷静に辺りの警戒を怠らなかった。ジアや自分の周りだけでなく定期的に異常を感じてないか同僚のキアラとリアムにも視線を巡らせる。巫女の儀式にも何度か立ち会っているのでそろそろ終わりに近づいているな、と思い始めたころ、村人たちの後方でリアムの警戒を促す小さなハンドサインに気が付いた。

 慌てることなく、それでも神経を緊張させそのままキアラに合図をおくる。クラウスと同じく度々こちらに視線を向けていたキアラも即座にこちらの意図を読み取り、手筈通り静かに舞台裏に回り、直接ジアの護衛にあたる。

 村人たちの視線はすべて舞台上のジアに向けられているが、それでも注目を浴びないよう、慎重に人々の間をすり抜け、リアムのもとへ急ぐ。


「キアラは巫女様につきました。どうかしましたか」

 声を押さえて隊長に尋ねる。

「何かが来る」

 背後の無人の村の奥の森を見据えたままそっと背負った小銃を手に取りながら答える。クラウスはまだなにも感じないが疑問を口にして無駄な時間をかけるような愚かな真似はせず、そっと自身の自動拳銃を抜き出し、ジアの歌と光を背後にリアムに従う。

「人ではないようだ」

人々の喧騒を背後に湖沿いの道を進み、大門に据え付けられた小さな扉から村に戻る形となる。クラウスは大型拳銃の木製ホルスターを銃把にストックとして取り付け、不格好なライフルの様に両手で構え、前を行く同じくライフルを構えるリアムとは銃口の向きが重ならないよう意識しながら慎重に進む。

 やがてクラウスにも確かに何かが森を進む気配が確かに感じ取れるようになった。落ち葉や木の枝を踏み折る音や、何かから逃げ惑う小動物や小鳥たちの抗議と恐怖の鳴き声。そしてなによりも大気中に漂う、匂い立つような濃密な殺気。確かに人ではなくもっと巨大で邪悪で純粋なもの。

「モンスター」

 キアラからこの村を襲った悲劇を聞かされていたクラウスは、緊張とともに乾いた口の中で呟いた。だしぬけに、全く予想外の方向、二人の背後からドスンと草むらに何かが飛び降りる音がした。反射的に二人は屈みながら振り返り、音の源に銃口を向ける。すんでのところでクラウスは引き金を引く指の力を緩めた。隣のリアムも同様だったようで、息を吐きながらライフルの銃口を天に向ける。

 二人の視線の先には見張り台の梯子から飛び降りた、ハルト・ヴェルナーの間の抜けた驚いた顔があった。

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